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東京大学 1984年 文系 第4問 解説

数学A/確率数学B/数列テーマ/確率漸化式
東京大学 1984年 文系 第4問 解説

方針・初手

第 $n$ 世代の細胞の個数は、第 $n-1$ 世代の細胞の個数とそれぞれの細胞の分裂の仕方によって確率的に決定される。このように「1つ前の世代の状態」から次の状態が決まる性質に着目し、第1世代の状態によって場合分けをして漸化式を立てる方法が非常に有効である。

また、各細胞が独立に増殖するという条件から、第0世代の1個の細胞が $n$ 世代後にどのように分岐したかという「系譜(経路)」を直接数え上げて確率を計算するアプローチも可能である。ここでは、漸化式を用いる解法と直接計算する解法の2つを示す。

解法1

$P_n(m)$ は、第0世代の1個の細胞が第 $n$ 世代に $m$ 個になる確率である。

第1世代の状態は、確率 $p$ で1個、確率 $1-p$ で2個である。第1世代に存在する各細胞は、そこから $n-1$ 世代後(すなわち第 $n$ 世代)に向けて、他の細胞とは独立に増殖する。これを用いて漸化式を立てる。

(i)

$P_n(1)$ の計算

第 $n$ 世代で1個になるのは、第1世代で1個であり、かつそれが残り $n-1$ 世代の間に1個のままである場合のみである。第1世代で2個になった場合、細胞数が減少することはないため、第 $n$ 世代で1個になることはない。よって、$n \ge 2$ のとき以下の漸化式が成り立つ。

$$ P_n(1) = p P_{n-1}(1) $$

$n=1$ のときは、1回の世代交代で1個になる確率であるから $P_1(1) = p$ である。したがって、数列 $\{P_n(1)\}$ は初項 $p$、公比 $p$ の等比数列となり、次のように求まる。

$$ P_n(1) = p^n $$

(ii)

$P_n(2)$ の計算

第 $n$ 世代で2個になるのは、以下の2つの排反な事象のいずれかが起こる場合である。

・第1世代が1個であり、それが残り $n-1$ 世代で2個になる。この確率は $p P_{n-1}(2)$ である。 ・第1世代が2個であり、それらが残り $n-1$ 世代でそれぞれ1個になる。各細胞が $n-1$ 世代後に1個になる確率は $P_{n-1}(1) = p^{n-1}$ であり、これらは独立に増殖するため、2個とも1個になる確率は $\{P_{n-1}(1)\}^2 = p^{2n-2}$ である。

したがって、$n \ge 2$ のとき以下の漸化式が成り立つ。

$$ P_n(2) = p P_{n-1}(2) + (1-p) p^{2n-2} $$

$p \neq 0$ として両辺を $p^n$ で割ると、次式を得る。

$$ \frac{P_n(2)}{p^n} = \frac{P_{n-1}(2)}{p^{n-1}} + (1-p) p^{n-2} $$

これにより、数列 $\left\{ \frac{P_n(2)}{p^n} \right\}$ は階差数列の第 $k$ 項が $(1-p) p^{k-1}$ であるとわかる。$n \ge 2$ のとき、

$$ \frac{P_n(2)}{p^n} = \frac{P_1(2)}{p} + \sum_{k=2}^n (1-p) p^{k-2} $$

$P_1(2) = 1-p$ であるから、$\frac{P_1(2)}{p} = \frac{1-p}{p}$ となる。また $p \neq 1$ とすると、等比数列の和を用いて次のように計算できる。

$$ \frac{P_n(2)}{p^n} = \frac{1-p}{p} + (1-p) \frac{1-p^{n-1}}{1-p} = \frac{1-p}{p} + 1 - p^{n-1} = \frac{1-p^n}{p} $$

両辺に $p^n$ を掛けると、

$$ P_n(2) = p^{n-1} (1-p^n) $$

この式は、$p=1$ のとき $P_n(2)=0$、$p=0$ のとき $P_1(2)=1, P_n(2)=0 \, (n \ge 2)$ となり、すべての $p \, (0 \le p \le 1)$ および $n=1$ でも成立する。

(iii)

$P_n(3)$ の計算

第 $n$ 世代で3個になるのは、以下の2つの排反な事象のいずれかが起こる場合である。

・第1世代が1個であり、それが残り $n-1$ 世代で3個になる。この確率は $p P_{n-1}(3)$ である。 ・第1世代が2個であり、それらが残り $n-1$ 世代で合計3個になる。2個の細胞を区別して考えると、一方が1個、他方が2個になればよいので、その確率は $2 P_{n-1}(1) P_{n-1}(2)$ である。

したがって、$n \ge 2$ のとき以下の漸化式が成り立つ。

$$ P_n(3) = p P_{n-1}(3) + (1-p) \cdot 2 P_{n-1}(1) P_{n-1}(2) $$

$P_{n-1}(1) = p^{n-1}$、$P_{n-1}(2) = p^{n-2}(1-p^{n-1})$ を代入すると、

$$ P_n(3) = p P_{n-1}(3) + 2(1-p) p^{2n-3} (1-p^{n-1}) $$

$p \neq 0$ として両辺を $p^n$ で割ると、次式を得る。

$$ \frac{P_n(3)}{p^n} = \frac{P_{n-1}(3)}{p^{n-1}} + 2(1-p) (p^{n-3} - p^{2n-4}) $$

$P_1(3) = 0$ であるから、$n \ge 2$ のとき

$$ \frac{P_n(3)}{p^n} = \sum_{k=2}^n 2(1-p) (p^{k-3} - p^{2k-4}) $$

$p \neq 1$ として和を計算すると、

$$ \sum_{k=2}^n p^{k-3} = \frac{1}{p} \sum_{j=0}^{n-2} p^j = \frac{1-p^{n-1}}{p(1-p)} $$

$$ \sum_{k=2}^n p^{2k-4} = \sum_{j=0}^{n-2} p^{2j} = \frac{1-p^{2n-2}}{1-p^2} $$

これらを代入して整理する。

$$ \begin{aligned} \frac{P_n(3)}{p^n} &= 2(1-p) \left\{ \frac{1-p^{n-1}}{p(1-p)} - \frac{1-p^{2n-2}}{1-p^2} \right\} \\ &= \frac{2(1-p^{n-1})}{p} - \frac{2(1-p^{2n-2})}{1+p} \\ &= \frac{2(1+p)(1-p^{n-1}) - 2p(1-p^{2n-2})}{p(1+p)} \\ &= \frac{2 + 2p - 2p^{n-1} - 2p^n - 2p + 2p^{2n-1}}{p(1+p)} \\ &= \frac{2 - 2p^{n-1} - 2p^n + 2p^{2n-1}}{p(1+p)} \\ &= \frac{2(1-p^{n-1})(1-p^n)}{p(1+p)} \end{aligned} $$

両辺に $p^n$ を掛けると、

$$ P_n(3) = \frac{2p^{n-1}(1-p^{n-1})(1-p^n)}{1+p} $$

この式も $n=1$ や $p=0, 1$ の場合を含めて成立する。

解法2

細胞の分裂(1個が2個になる事象)がどの世代で起こるかに着目して直接確率を計算する。各世代で「1個が1個になる」確率は $p$、「1個が2個になる」確率は $1-p$ である。

(i)

$P_n(1)$ の計算

$n$ 世代後に1個であるためには、第0世代から第 $n$ 世代まで $n$ 回すべての世代交代で「1個が1個になる」必要がある。したがって、

$$ P_n(1) = p^n $$

(ii)

$P_n(2)$ の計算

$n$ 世代後に2個になるためには、$n$ 回の世代交代のどこか1回だけで「1個が2個になる」分裂が起き、それ以外はすべて「1個が1個になる」必要がある。

第 $k$ 世代 ($0 \le k \le n-1$) から第 $k+1$ 世代になるときに、初めて分裂が起きるとする。 ・第0世代から第 $k$ 世代まで:1個のまま ($p^k$) ・第 $k$ 世代から第 $k+1$ 世代:1個が2個になる ($1-p$) ・第 $k+1$ 世代から第 $n$ 世代まで:2個の細胞がそれぞれ1個のままである ($(p^{n-(k+1)})^2 = p^{2n-2k-2}$)

この経路の確率は $p^k (1-p) p^{2n-2k-2} = (1-p) p^{2n-k-2}$ である。これを $k=0$ から $n-1$ まで足し合わせる。

$$ \begin{aligned} P_n(2) &= \sum_{k=0}^{n-1} (1-p) p^{2n-k-2} \\ &= (1-p) p^{n-1} \sum_{k=0}^{n-1} p^{n-1-k} \end{aligned} $$

等比数列の和 $\sum_{k=0}^{n-1} p^{n-1-k} = p^{n-1} + p^{n-2} + \cdots + 1 = \frac{1-p^n}{1-p}$ を用いると、

$$ P_n(2) = (1-p) p^{n-1} \frac{1-p^n}{1-p} = p^{n-1}(1-p^n) $$

(iii)

$P_n(3)$ の計算

$n$ 世代後に3個になるためには、分裂が全体で2回起こる必要がある。 第 $i$ 世代 ($0 \le i \le n-2$) で最初の分裂が起き、第 $i+1$ 世代で2個(細胞A, Bとする)になったとする。その後、細胞Aの系譜が第 $j$ 世代 ($i+1 \le j \le n-1$) で2回目の分裂を起こし、細胞Bの系譜は全く分裂しない場合を考える。

・最初の分裂(第 $i$ 世代から第 $i+1$ 世代):$p^i (1-p)$ ・細胞Aの系譜の分裂:第 $j$ 世代まで1個 ($p^{j-(i+1)}$)、第 $j$ 世代から第 $j+1$ 世代で分裂 ($1-p$)、その後 $n$ 世代まで2個とも1個 ($(p^{n-(j+1)})^2 = p^{2n-2j-2}$) ・細胞Bの系譜:第 $i+1$ 世代から第 $n$ 世代までずっと1個 ($p^{n-(i+1)} = p^{n-i-1}$)

これらを掛け合わせると、$(1-p)^2 p^{3n-i-j-4}$ となる。細胞Bの系譜が分裂し細胞Aが分裂しない場合も同確率であるから、最初の分裂が第 $i$ 世代、次の分裂が第 $j$ 世代で起きる確率は $2(1-p)^2 p^{3n-i-j-4}$ である。これを $j$ と $i$ について足し合わせる。

$$ P_n(3) = \sum_{i=0}^{n-2} \sum_{j=i+1}^{n-1} 2(1-p)^2 p^{3n-i-j-4} $$

内側の和を計算する。

$$ \begin{aligned} \sum_{j=i+1}^{n-1} p^{-j} &= p^{-(i+1)} + p^{-(i+2)} + \cdots + p^{-(n-1)} \\ &= p^{-n+1} \frac{1-p^{n-i-1}}{1-p} \end{aligned} $$

これを代入し、$i$ についての和を計算する。

$$ \begin{aligned} P_n(3) &= \sum_{i=0}^{n-2} 2(1-p)^2 p^{3n-i-4} \cdot p^{-n+1} \frac{1-p^{n-i-1}}{1-p} \\ &= 2(1-p) \sum_{i=0}^{n-2} p^{2n-i-3} (1-p^{n-i-1}) \\ &= 2(1-p) \sum_{i=0}^{n-2} \left( p^{2n-i-3} - p^{3n-2i-4} \right) \end{aligned} $$

それぞれの和を等比数列の公式を用いて計算すると、

$$ \begin{aligned} P_n(3) &= 2(1-p) \left( p^{n-1} \frac{1-p^{n-1}}{1-p} - p^n \frac{1-p^{2n-2}}{1-p^2} \right) \\ &= 2 p^{n-1} (1-p^{n-1}) - \frac{2 p^n (1-p^{2n-2})}{1+p} \\ &= \frac{2 p^{n-1}}{1+p} \left\{ (1-p^{n-1})(1+p) - p(1-p^{2n-2}) \right\} \\ &= \frac{2 p^{n-1}}{1+p} \left( 1 + p - p^{n-1} - p^n - p + p^{2n-1} \right) \\ &= \frac{2 p^{n-1}}{1+p} \left( 1 - p^{n-1} - p^n + p^{2n-1} \right) \\ &= \frac{2 p^{n-1} (1-p^{n-1})(1-p^n)}{1+p} \end{aligned} $$

解説

細胞の増殖過程(分枝過程)を題材にした確率問題である。解法1のように「第1世代の状態」で場合分けして漸化式を立てるアプローチは、状態遷移が複雑な場合に極めて有効であり、本問でも計算がシステマティックに行える。

一方、解法2のように「どの世代で細胞が分裂するか」という系譜(経路)を直接指定して確率を足し合わせるアプローチも可能である。本問では細胞数の最大値が3と小さいため、直接計算でも十分に解き切ることができる。漸化式を解く際、両辺を $p^n$ で割ることで階差数列の形に持ち込む処理は、確率漸化式における典型的な手法であるため習熟しておきたい。

答え

$$ P_n(1) = p^n $$

$$ P_n(2) = p^{n-1}(1-p^n) $$

$$ P_n(3) = \frac{2 p^{n-1} (1-p^{n-1})(1-p^n)}{1+p} $$

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