名古屋大学 1988年 文系 第2問 解説

方針・初手
ひし形の図形的対称性を利用し、対角線によって4等分された直角三角形の領域における被覆問題に帰着させます。 一見すると4つのおうぎ形すべての重なりを考慮する必要があるように思えますが、各点からの距離を比較することで、「$A$ と $B$ を中心とする2つのおうぎ形だけで $\triangle AOB$ を覆う条件」と同値であることが分かります。この事実に気づけるかどうかが最大の鍵となります。被覆条件を数式化し、$a$ の値によって場合分けを行って面積の和の最小値を求めます。
解法1
ひし形の対角線 $AC$ と $BD$ の交点を $O$ とすると、ひし形 $ABCD$ は直線 $AC$ および直線 $BD$ に関して対称であり、$\triangle AOB, \triangle COB, \triangle COD, \triangle AOD$ の4つの合同な直角三角形に分割される。
$\triangle AOB$ 内の任意の点 $X$ について考える。 直線 $BD$ は線分 $AC$ の垂直二等分線であり、点 $X$ は $A$ 側にあるため $XA \leqq XC$ が成り立つ。同様に、直線 $AC$ は線分 $BD$ の垂直二等分線であり、点 $X$ は $B$ 側にあるため $XB \leqq XD$ が成り立つ。 $P_2$ は $C$ からの距離が $a$ 以下の点、$P_4$ は $D$ からの距離が $b$ 以下の点からなる。したがって、点 $X$ が $P_2$ に含まれる($XC \leqq a$)ならば、必ず $XA \leqq a$ となり $P_1$ にも含まれる。また、点 $X$ が $P_4$ に含まれる($XD \leqq b$)ならば、必ず $XB \leqq b$ となり $P_3$ にも含まれる。 ゆえに、ひし形全体が $P_1 \cup P_2 \cup P_3 \cup P_4$ で覆われるための必要十分条件は、$\triangle AOB$ 全体が $P_1$ と $P_3$ によって覆われること、すなわち $\triangle AOB$ 内の任意の点 $X$ について $XA \leqq a$ または $XB \leqq b$ が成り立つことである。
座標平面上で $O(0,0)$ とし、$A(0, 1/2), B(\frac{\sqrt{3}}{2}, 0)$ と設定する。辺 $AB$ の長さは 1 である。 $\triangle AOB$ 内で $XA \leqq a$ を満たさない領域を $D$ とおく。被覆条件は「領域 $D$ における $XB$ の最大値が $b$ 以下であること」である。 領域 $D$ は、中心 $A$ 半径 $a$ の円弧と $\triangle AOB$ の辺で囲まれる。この円弧上の点 $P$ に対して、$\triangle ABP$ に余弦定理を用いると
$$ BP^2 = AB^2 + AP^2 - 2AB \cdot AP \cos \angle BAP = 1 + a^2 - 2a \cos \angle BAP $$
となる。点 $P$ が円弧上を辺 $AB$ 側から辺 $OB$ (または辺 $OA$)側へ動くとき、$\angle BAP$ は単調に増加するため $\cos \angle BAP$ は単調に減少し、$BP$ の長さは単調に増加する。したがって、$D$ 内において $B$ からの距離 $XB$ が最大となるのは、円弧と辺 $OA$ または辺 $OB$ との交点である。
(i) $0 < a < 1/2$ のとき
半径 $a$ の円は辺 $OA$ と交わる。その交点を $P_a$ とすると、$P_a(0, 1/2 - a)$ である。領域 $D$ における $XB$ の最大値は点 $P_a$ でとり、
$$ BP_a^2 = \left(\frac{\sqrt{3}}{2}\right)^2 + \left(\frac{1}{2} - a\right)^2 = a^2 - a + 1 $$
よって、覆われるための条件は $b \geqq \sqrt{a^2 - a + 1}$ となる。 (このとき $\sqrt{a^2 - a + 1} > 1 - a$ を満たすため、辺 $AB$ 上の隙間も生じない) 4つのおうぎ形の面積の和 $S$ は
$$ S = 2 \times \left( \pi a^2 \times \frac{120^\circ}{360^\circ} \right) + 2 \times \left( \pi b^2 \times \frac{60^\circ}{360^\circ} \right) = \frac{\pi}{3}(2a^2 + b^2) $$
条件 $b \geqq \sqrt{a^2 - a + 1}$ のもとで $2a^2 + b^2$ を最小化する。等号成立のとき最小となり、
$$ 2a^2 + b^2 = 2a^2 + (a^2 - a + 1) = 3a^2 - a + 1 = 3\left(a - \frac{1}{6}\right)^2 + \frac{11}{12} $$
$0 < a < 1/2$ の範囲において、$a = \frac{1}{6}$ のとき最小値 $\frac{11}{12}$ をとる。 このとき $b = \sqrt{1/36 - 1/6 + 1} = \frac{\sqrt{31}}{6}$ であり、$0 < b \leqq 1$ を満たす。
(ii) $1/2 \leqq a \leqq \frac{\sqrt{3}}{2}$ のとき
半径 $a$ の円は辺 $OB$ と交わる。その交点を $P_b$ とすると、$P_b\left(\sqrt{a^2 - 1/4}, 0\right)$ である。 領域 $D$ において $XB$ の最大値は、点 $P_b$ でとる。(辺 $AB$ との交点での距離 $1 - a$ よりも大きい)
$$ BP_b = \frac{\sqrt{3}}{2} - \sqrt{a^2 - \frac{1}{4}} $$
よって、条件は $b \geqq \frac{\sqrt{3}}{2} - \sqrt{a^2 - \frac{1}{4}}$ となる。 $t = \sqrt{a^2 - 1/4}$ とおくと、$1/2 \leqq a \leqq \frac{\sqrt{3}}{2}$ より $0 \leqq t \leqq \frac{1}{\sqrt{2}}$ である。$a^2 = t^2 + 1/4$ となるため、
$$ \begin{aligned} 2a^2 + b^2 &= 2\left(t^2 + \frac{1}{4}\right) + \left(\frac{\sqrt{3}}{2} - t\right)^2 \\ &= 3t^2 - \sqrt{3}t + \frac{5}{4} \\ &= 3\left(t - \frac{\sqrt{3}}{6}\right)^2 + 1 \end{aligned} $$
$0 \leqq t \leqq \frac{1}{\sqrt{2}}$ の範囲において、$t = \frac{\sqrt{3}}{6}$ のとき最小値 $1$ をとる。
(i) と (ii) の最小値を比較すると、$\frac{11}{12} < 1$ であるため、面積の和が全体で最小となるのは $a = \frac{1}{6}$ のときである。
解説
直感的には2つの円がひし形の対角線の交点付近で接するような「均等な」大きさが最小になると考えがちですが、実際には面積への影響度合い($a$ の係数の方が大きい)により、$a$ を小さくして $b$ を大きくした方が面積の和は小さくなります。 被覆条件を考える際、ひし形全体の図形的な対称性と距離の大小関係を利用して、考えるべき領域を1つの直角三角形に、考えるべき円を2つに絞り込めたかどうかが完答への分かれ目となります。
答え
$$ a = \frac{1}{6}, \quad b = \frac{\sqrt{31}}{6} $$
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