名古屋大学 1978年 理系 第3問 解説

方針・初手
背理法を用いて証明する。「3頂点の座標がすべて有理数である正三角形が存在する」と仮定して矛盾を導く。
証明の準備として、扱いやすくするために図形を平行移動し、1つの頂点を原点に合わせる。有理数同士の差は有理数であるため、平行移動後も残りの2頂点の座標は有理数となる。その後は、正三角形の性質を用いて立式する。ここでは、複素数平面(または回転行列)を用いて回転の条件から矛盾を導く方法と、正三角形の面積と座標を用いた面積公式から矛盾を導く方法の2通りを示す。
解法1
$xy$ 平面上に、3頂点の $x$ 座標と $y$ 座標がすべて有理数である正三角形が存在すると仮定し、その3頂点を $A(x_1, y_1), B(x_2, y_2), C(x_3, y_3)$ とする。($x_1, y_1, x_2, y_2, x_3, y_3$ は有理数)
$\triangle ABC$ を、頂点 $A$ が原点 $O(0,0)$ に重なるように平行移動して得られる三角形を $\triangle OPQ$ とする。 点 $P$ の座標は $(x_2-x_1, y_2-y_1)$、点 $Q$ の座標は $(x_3-x_1, y_3-y_1)$ となる。 有理数の差は有理数であるから、点 $P, Q$ の各座標もすべて有理数である。 これらを改めて $P(a,b), Q(c,d)$ とおく。($a, b, c, d$ は有理数) また、$\triangle OPQ$ は三角形をなすため、点 $P$ は原点とは異なり、$(a,b) \neq (0,0)$ である。
$\triangle OPQ$ は正三角形であるから、点 $Q$ は点 $P$ を原点 $O$ を中心として $\pm \frac{\pi}{3}$ だけ回転した点である。 複素数平面上で、点 $P, Q$ を表す複素数をそれぞれ $z_1 = a+bi, z_2 = c+di$ とすると、次が成り立つ。
$$ z_2 = z_1 \left( \cos\left(\pm \frac{\pi}{3}\right) + i\sin\left(\pm \frac{\pi}{3}\right) \right) \quad (\text{複号同順}) $$
右辺を計算すると、
$$ \begin{aligned} z_2 &= (a+bi) \left( \frac{1}{2} \pm \frac{\sqrt{3}}{2}i \right) \\ &= \left( \frac{a}{2} \mp \frac{\sqrt{3}}{2}b \right) + \left( \pm \frac{\sqrt{3}}{2}a + \frac{b}{2} \right)i \end{aligned} $$
両辺の実部と虚部を比較して、
$$ \begin{cases} c = \frac{a}{2} \mp \frac{\sqrt{3}}{2}b \\ d = \pm \frac{\sqrt{3}}{2}a + \frac{b}{2} \end{cases} $$
第1式より、$\pm \sqrt{3} b = a - 2c$ となる。
(i) $b \neq 0$ の場合
両辺を $b$ で割ると、$\sqrt{3} = \pm \frac{a-2c}{b}$ となる。 $a, b, c$ は有理数であるから、右辺の $\pm \frac{a-2c}{b}$ も有理数となる。 しかし、これは $\sqrt{3}$ が無理数であることに矛盾する。
(ii) $b = 0$ の場合
$(a,b) \neq (0,0)$ より、$a \neq 0$ である。 このとき、第2式は $d = \pm \frac{\sqrt{3}}{2}a$ となる。 両辺を $a$ で割ると、$\sqrt{3} = \pm \frac{2d}{a}$ となる。 $a, d$ は有理数であるから、右辺の $\pm \frac{2d}{a}$ も有理数となる。 しかし、これも $\sqrt{3}$ が無理数であることに矛盾する。
(i)、(ii) いずれの場合も矛盾が生じる。 したがって、3頂点の $x$ 座標と $y$ 座標がすべて有理数になる正三角形は存在しない。(証明終)
解法2
解法1と同様に平行移動を行い、原点 $O(0,0)$、点 $P(a,b)$、点 $Q(c,d)$ を頂点とする正三角形が存在すると仮定する。($a, b, c, d$ は有理数) 正三角形 $\triangle OPQ$ の1辺の長さを $L$ とすると、三平方の定理より $L^2 = a^2+b^2$ である。 $a,b$ が有理数であることから $L^2$ も有理数となる。 また、$\triangle OPQ$ は三角形をなすため $L^2 > 0$ である。
$\triangle OPQ$ の面積を $S$ とおくと、頂点座標を用いた公式により次のように表せる。
$$ S = \frac{1}{2}|ad-bc| $$
$a,b,c,d$ は有理数であるから、$ad-bc$ も有理数であり、$S$ は有理数である。 一方で、1辺の長さが $L$ の正三角形の面積 $S$ は、次のように表せる。
$$ S = \frac{1}{2} \cdot L \cdot L \cdot \sin\frac{\pi}{3} = \frac{\sqrt{3}}{4}L^2 $$
これら2つの式から面積 $S$ を消去すると、
$$ \frac{\sqrt{3}}{4}L^2 = \frac{1}{2}|ad-bc| $$
$L^2 > 0$ であるから、$\sqrt{3}$ について解くと、
$$ \sqrt{3} = \frac{2|ad-bc|}{L^2} $$
$a, b, c, d$ と $L^2$ はすべて有理数であり、$L^2 \neq 0$ であるから、右辺は有理数となる。 しかし、これは与えられた条件「$\sqrt{3}$ が無理数である」ことに矛盾する。
したがって、仮定は誤りであり、3頂点の座標がすべて有理数になる正三角形は存在しない。(証明終)
解説
「有理点のみを頂点とする正多角形が存在するか」という有名なテーマの基本となる問題である。平行移動によって頂点の1つを原点に固定する操作は、図形の性質を保ちつつ変数の数を減らすことができるため、座標を用いた幾何問題における定石である。
解法1は、$60^\circ$ の回転を数式化して矛盾を突くアプローチである。複素数平面を用いると回転の表現がシンプルになるが、ベクトルや回転行列を用いたとしても本質的な計算は同一となる。場合分けにおいて $b=0$ を忘れないように注意が必要である。
解法2は、面積に注目するアプローチである。有理点の座標から計算される面積が有理数になること(ピックの定理なども背景にある)と、正三角形の面積公式から $\sqrt{3}$ が現れることの2つの側面を組み合わせることで、解法1よりも計算が少なく簡潔に矛盾を導くことができる。
答え
(証明は解答を参照のこと)
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