東京大学 1990年 文系 第1問 解説

方針・初手
(1) 正八面体の頂点座標を具体的に把握し、一つの面を決定する。その面に平行な平面の方程式を設定し、正八面体の各辺との交点を求めることで、切り口の周の長さを直接計算する。
(2) 正方形の穴を通るかどうかの問題は、「正八面体をある方向から平面に正射影した図形が、一辺の長さ $1$ の正方形の内部(境界を含まない)に収まるような投影方向が存在するか」という問題に帰着させる。空間の直交基底を適切に構成し、その基底方向への幅がすべて $1$ 未満になる例を見つけ出す。
解法1
(1)
不等式 $|x| + |y| + |z| \leqq \frac{1}{\sqrt{2}}$ が表す正八面体 $V$ の頂点は、座標軸上の点である以下の6点である。
$$ A\left(\frac{1}{\sqrt{2}},0,0\right), \quad B\left(0,\frac{1}{\sqrt{2}},0\right), \quad C\left(0,0,\frac{1}{\sqrt{2}}\right) $$
$$ D\left(-\frac{1}{\sqrt{2}},0,0\right), \quad E\left(0,-\frac{1}{\sqrt{2}},0\right), \quad F\left(0,0,-\frac{1}{\sqrt{2}}\right) $$
$V$ の8つの面のうち、三角形 $ABC$ を含む面の方程式は $x+y+z = \frac{1}{\sqrt{2}}$ である。 この面と平行な平面を $\pi: x+y+z = k$ $\left( -\frac{1}{\sqrt{2}} \leqq k \leqq \frac{1}{\sqrt{2}} \right)$ とおき、平面 $\pi$ が $V$ のどの辺と交わるかを調べる。
各頂点における $x+y+z$ の値は、頂点 $A, B, C$ では $\frac{1}{\sqrt{2}}$ であり、頂点 $D, E, F$ では $-\frac{1}{\sqrt{2}}$ である。 したがって、平面 $\pi$ は、$A, B, C$ のいずれかと $D, E, F$ のいずれかを結ぶ辺のうち、対角線となる $AD, BE, CF$ を除く6本の辺と交わりる。その6本の辺は $AE, AF, BD, BF, CD, CE$ である。
ここで、$u = \frac{1}{\sqrt{2}} - k$、$v = k + \frac{1}{\sqrt{2}}$ とおくと、$u \geqq 0, v \geqq 0$ であり、$u+v = \sqrt{2}$ を満たす。 辺 $AE$ は、端点における $x+y+z$ の値が $\frac{1}{\sqrt{2}}$ から $-\frac{1}{\sqrt{2}}$ へと連続的に変化するため、平面 $\pi$ との交点 $P_1$ は、線分 $AE$ を $v : u$ に内分する点となる。
$$ \begin{aligned} P_1 &= \frac{u A + v E}{u+v} = \frac{1}{\sqrt{2}} \left( u \left(\frac{1}{\sqrt{2}},0,0\right) + v \left(0,-\frac{1}{\sqrt{2}},0\right) \right) \\ &= \left(\frac{u}{2}, -\frac{v}{2}, 0\right) \end{aligned} $$
同様にして、他の5本の辺と平面 $\pi$ との交点も、線分を $v:u$ または $u:v$ に内分する点として計算できる。順に結んでできる切り口の頂点を $P_1, P_2, P_3, P_4, P_5, P_6$ とすると、以下のようになる。
$$ \begin{aligned} P_1 \text{(辺} AE\text{上)} &= \left(\frac{u}{2}, -\frac{v}{2}, 0\right) \\ P_2 \text{(辺} AF\text{上)} &= \left(\frac{u}{2}, 0, -\frac{v}{2}\right) \\ P_3 \text{(辺} BF\text{上)} &= \left(0, \frac{u}{2}, -\frac{v}{2}\right) \\ P_4 \text{(辺} BD\text{上)} &= \left(-\frac{v}{2}, \frac{u}{2}, 0\right) \\ P_5 \text{(辺} CD\text{上)} &= \left(-\frac{v}{2}, 0, \frac{u}{2}\right) \\ P_6 \text{(辺} CE\text{上)} &= \left(0, -\frac{v}{2}, \frac{u}{2}\right) \end{aligned} $$
これらの隣り合う頂点間の距離を計算する。
$$ P_1 P_2 = \sqrt{\left(\frac{u}{2} - \frac{u}{2}\right)^2 + \left(-\frac{v}{2} - 0\right)^2 + \left(0 - \left(-\frac{v}{2}\right)\right)^2} = \sqrt{\frac{v^2}{4} + \frac{v^2}{4}} = \frac{v}{\sqrt{2}} $$
$$ P_2 P_3 = \sqrt{\left(\frac{u}{2} - 0\right)^2 + \left(0 - \frac{u}{2}\right)^2 + \left(-\frac{v}{2} - \left(-\frac{v}{2}\right)\right)^2} = \sqrt{\frac{u^2}{4} + \frac{u^2}{4}} = \frac{u}{\sqrt{2}} $$
同様に計算すると、$P_3 P_4 = \frac{v}{\sqrt{2}}$、$P_4 P_5 = \frac{u}{\sqrt{2}}$、$P_5 P_6 = \frac{v}{\sqrt{2}}$、$P_6 P_1 = \frac{u}{\sqrt{2}}$ となる。 切り口の周の長さ $L$ はこれらの和であるため、
$$ L = 3 \times \frac{v}{\sqrt{2}} + 3 \times \frac{u}{\sqrt{2}} = \frac{3}{\sqrt{2}}(u+v) $$
$u+v = \sqrt{2}$ であるから、
$$ L = \frac{3}{\sqrt{2}} \times \sqrt{2} = 3 $$
となり、$k$ の値によらず一定であることが示された。
(2)
一辺の長さが $1$ の正方形の穴を通るためには、正八面体 $V$ をある方向から平面に正射影した図形が、一辺 $1$ の正方形の内部(境界を含まない)に収まればよいことになる。
これは、互いに直交する単位ベクトル $\vec{e}_1, \vec{e}_2$ を適切に選び、$V$ のすべての点 $\vec{v}$ に対して
$$ |\vec{v} \cdot \vec{e}_1| < \frac{1}{2} \quad \text{かつ} \quad |\vec{v} \cdot \vec{e}_2| < \frac{1}{2} $$
を満たすことができるかという問題と同値である。 $V$ は頂点 $A, B, C, D, E, F$ の凸包であり、原点対称であるため、3つのベクトル $\vec{u}_1 = (\frac{1}{\sqrt{2}}, 0, 0), \vec{u}_2 = (0, \frac{1}{\sqrt{2}}, 0), \vec{u}_3 = (0, 0, \frac{1}{\sqrt{2}})$ に対して上記の不等式が成り立てば十分である。
$\vec{e}_1 = (x_1, y_1, z_1)$ とすると、$|\vec{u}_1 \cdot \vec{e}_1| = \frac{|x_1|}{\sqrt{2}}$ であるため、条件は
$$ |x_1| < \frac{1}{\sqrt{2}}, \quad |y_1| < \frac{1}{\sqrt{2}}, \quad |z_1| < \frac{1}{\sqrt{2}} $$
となる。$\vec{e}_2 = (x_2, y_2, z_2)$ についても同様の条件が必要である。 ここで、条件を満たす直交する単位ベクトルの一例として、次の2つを考える。
$$ \vec{e}_1 = \left(\frac{2}{3}, \frac{2}{3}, -\frac{1}{3}\right), \quad \vec{e}_2 = \left(-\frac{1}{3}, \frac{2}{3}, \frac{2}{3}\right) $$
内積を計算すると $\vec{e}_1 \cdot \vec{e}_2 = -\frac{2}{9} + \frac{4}{9} - \frac{2}{9} = 0$ となり、互いに直交している。 また、$|\vec{e}_1|^2 = \frac{4}{9} + \frac{4}{9} + \frac{1}{9} = 1$、$|\vec{e}_2|^2 = \frac{1}{9} + \frac{4}{9} + \frac{4}{9} = 1$ より、どちらも単位ベクトルである。
さらに、$\vec{e}_1, \vec{e}_2$ の各成分の絶対値の最大値は $\frac{2}{3}$ である。 ここで、$\frac{2}{3}$ と $\frac{1}{\sqrt{2}}$ の大小関係を調べると、
$$ \left(\frac{2}{3}\right)^2 = \frac{4}{9} = \frac{8}{18}, \quad \left(\frac{1}{\sqrt{2}}\right)^2 = \frac{1}{2} = \frac{9}{18} $$
であるため、$\frac{2}{3} < \frac{1}{\sqrt{2}}$ が成り立つ。 したがって、これらのベクトルは求める条件を満たしている。
これは、$\vec{e}_1, \vec{e}_2$ に直交する方向(すなわち外積 $\vec{e}_1 \times \vec{e}_2$ の方向)から正八面体 $V$ を正射影したとき、その投影図が $\vec{e}_1$ 方向にも $\vec{e}_2$ 方向にも幅 $2 \times \frac{1}{\sqrt{2}} \times \frac{2}{3} = \frac{2\sqrt{2}}{3} \approx 0.943$ に収まることを意味する。
この幅は $1$ 未満であるため、投影図は一辺の長さが $1$ の正方形の内部に完全に含まれる。
ゆえに、この姿勢を保ったまま正八面体を平行移動させることで、平面に触れることなく穴を通過させることができる。
解法2
(1)の別解(幾何的アプローチ)
正八面体において、互いに平行な2つの面をそれぞれ底面、上面と呼びる。底面に平行な平面で正八面体を切断したときの切り口を考える。
正八面体の8つの面のうち、底面と上面を除く6つの面が切断平面と交わりる。これら6つの面は、「底面の辺を1つ含む面」と「上面の辺を1つ含む面」が交互に並んで構成されている。 底面と上面の距離を $h$ とし、底面から距離 $t$ ($0 \leqq t \leqq h$) の位置にある平行な平面による切り口を考える。
底面の辺を含む面との交線は、底面の辺に平行になる。その交線の長さは、三角形の相似比から $1 \times \frac{h-t}{h} = 1 - \frac{t}{h}$ となる。 上面の辺を含む面との交線は、上面の辺に平行になる。その交線の長さは、相似比から $1 \times \frac{t}{h} = \frac{t}{h}$ となる。
切り口の図形は、これらの交線が交互に連なってできる六角形($t=0, h$ のときは退化して三角形)になる。 したがって、その周の長さ $L$ は
$$ L = 3 \left(1 - \frac{t}{h}\right) + 3 \left(\frac{t}{h}\right) = 3 $$
となり、切断する位置によらず常に $3$ で一定となる。
解説
(1) は、空間図形の断面の性質を問う問題である。解法1のように座標を設定してベクトルや線分の比で代数的に処理する方法と、解法2のように相似比を用いて幾何的に処理する方法がある。どちらの手法も空間図形の求積や断面の考察において重要である。
(2) は、「図形が穴を通過できるか」という直感的な問いを、「特定の方向からの正射影の幅がすべて $1$ 未満になるか」という数学的な条件式に翻訳する力が求められる。 (1)の方向(面の法線方向)から落とすと、投影図である正六角形の最大幅が $1$ を超えてしまうため通過できない。そこで、成分の絶対値がすべて $\frac{1}{\sqrt{2}}$ 未満となるような直交行列(ピタゴラス数 $2^2+2^2+(-1)^2=3^2$ に由来する有理直交行列など)を見つけ出す発想が鍵となる。
答え
(1)
略(解法1の証明を参照)
(2)
通過させることができる。
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