東京大学 1995年 理系 第5問 解説

方針・初手
(1) 各操作における $x$ 軸方向、$y$ 軸方向の変位の絶対値が等比数列 $\left(\frac{1}{2}\right)^k$ になっていることに着目する。「最も早い段階での変位の絶対値は、それ以降のすべての変位の絶対値の和よりも厳密に大きい」という性質を利用して背理法を構成し、和が $0$ になるならすべての変位が $0$ でなければならないことを示す。
(2) (1)で利用した大小関係の性質から、最終的な座標の正負は「最初に動いたときの方向」のみで決定されることがわかる。この言い換えによって事象を単純化し、各方向へ移動する確率の対称性を利用して確率を求める。
解法1
(1) 点 $P_k$ の $y$ 座標を $y_k$ とし、$k$ 回目の操作による $y$ 軸方向の変位を $\Delta y_k = y_k - y_{k-1}$ とおく。 規則より、$\Delta y_k$ は以下の値をとる。
- $k$ 回目に出た目が $2$ のとき:$\Delta y_k = \left(\frac{1}{2}\right)^k$
- $k$ 回目に出た目が $4$ のとき:$\Delta y_k = -\left(\frac{1}{2}\right)^k$
- $k$ 回目に出た目が $1, 3, 5, 6$ のとき:$\Delta y_k = 0$
したがって、$\Delta y_k \in \left\{ \left(\frac{1}{2}\right)^k, -\left(\frac{1}{2}\right)^k, 0 \right\}$ である。 $P_n$ が $x$ 軸上にあるとき、$y_n = 0$ すなわち $\sum_{k=1}^n \Delta y_k = 0$ が成り立つ。
ここで、$\Delta y_k \neq 0$ となる $k$ ($1 \leqq k \leqq n$) が少なくとも1つ存在すると仮定し、そのような最小の $k$ を $m$ とおく。 このとき、$y_n = 0$ より
$$ \Delta y_m + \sum_{k=m+1}^n \Delta y_k = 0 \iff - \Delta y_m = \sum_{k=m+1}^n \Delta y_k $$
となる($m=n$ の場合は右辺を $0$ とみなす)。 両辺の絶対値をとると、左辺は $|\Delta y_m| = \left(\frac{1}{2}\right)^m$ である。 一方、右辺に対して三角不等式を用いると、
$$ \left| \sum_{k=m+1}^n \Delta y_k \right| \leqq \sum_{k=m+1}^n |\Delta y_k| \leqq \sum_{k=m+1}^n \left(\frac{1}{2}\right)^k $$
等比数列の和を計算して評価すると、
$$ \sum_{k=m+1}^n \left(\frac{1}{2}\right)^k = \frac{\left(\frac{1}{2}\right)^{m+1} \left\{ 1 - \left(\frac{1}{2}\right)^{n-m} \right\}}{1 - \frac{1}{2}} = \left(\frac{1}{2}\right)^m \left\{ 1 - \left(\frac{1}{2}\right)^{n-m} \right\} < \left(\frac{1}{2}\right)^m $$
よって $\left| -\Delta y_m \right| < \left(\frac{1}{2}\right)^m$ となり、$|\Delta y_m| = \left(\frac{1}{2}\right)^m$ であることに矛盾する。 ゆえに、$\Delta y_k \neq 0$ となる $k$ は存在せず、すべての $1 \leqq k \leqq n$ において $\Delta y_k = 0$ である。 したがって、$y_0 = y_1 = \cdots = y_{n-1} = 0$ となり、$P_0, P_1, \cdots, P_{n-1}$ もすべて $x$ 軸上にあることが示された。
(2) $P_k$ の $x$ 座標を $x_k$ とし、$x$ 軸方向の変位を $\Delta x_k = x_k - x_{k-1}$ とおく。 (1)の証明で示した不等式 $\left| \sum_{k=m+1}^n \Delta y_k \right| < |\Delta y_m|$ から、$y_n$ の符号は「$0$ でない最初の変位 $\Delta y_m$ の符号」と必ず一致する。 したがって、$y_n > 0$ となる条件は、「$2$ または $4$ の目のうち、最初に $2$ の目が出ること」である。この事象を $B$ とおく。 同様に、$x_n > 0$ となる条件は、「$1$ または $3$ の目のうち、最初に $1$ の目が出ること」である。この事象を $A$ とおく。 $P_n$ が第1象限にある条件は、事象 $A \cap B$ が起こることである。
$n$ 回の試行において、$1$ または $3$ の目が出る事象を $E_x$(確率 $\frac{1}{3}$)、$2$ または $4$ の目が出る事象を $E_y$(確率 $\frac{1}{3}$)、$5$ または $6$ の目が出る事象を $E_0$(確率 $\frac{1}{3}$)とする。 積事象 $A \cap B$ は、「$n$ 回の試行の中で $E_x$ が少なくとも1回起こり、その初回が $1$ の目であり、かつ $E_y$ が少なくとも1回起こり、その初回が $2$ の目である」という事象である。
ここで、$1$ の目と $3$ の目の対称性、および $2$ の目と $4$ の目の対称性に注目する。 $E_x$ が少なくとも1回起こる事象を $S_x$、$E_y$ が少なくとも1回起こる事象を $S_y$ とする。 「$E_x$ の初回が $1$」となる事象と「$E_x$ の初回が $3$」となる事象は、$S_x$ の下で互いに排反かつ等確率である。 同様に、「$E_y$ の初回が $2$」と「$E_y$ の初回が $4$」も $S_y$ の下で等確率である。 各回のサイコロの目は独立であるため、これら4つの組み合わせは事象 $S_x \cap S_y$ の下で等確率に起こる。 したがって、求める確率 $P(A \cap B)$ は
$$ P(A \cap B) = \frac{1}{4} P(S_x \cap S_y) $$
として計算できる。
$S_x \cap S_y$ の余事象 $\overline{S_x \cap S_y} = \overline{S_x} \cup \overline{S_y}$ の確率を考える。
- $\overline{S_x}$($n$ 回すべて $E_x$ 以外が出る事象):$P(\overline{S_x}) = \left(\frac{2}{3}\right)^n$
- $\overline{S_y}$($n$ 回すべて $E_y$ 以外が出る事象):$P(\overline{S_y}) = \left(\frac{2}{3}\right)^n$
- $\overline{S_x} \cap \overline{S_y}$($n$ 回すべて $E_0$ が出る事象):$P(\overline{S_x} \cap \overline{S_y}) = \left(\frac{1}{3}\right)^n$
和事象の確率の公式より、
$$ P(\overline{S_x} \cup \overline{S_y}) = P(\overline{S_x}) + P(\overline{S_y}) - P(\overline{S_x} \cap \overline{S_y}) = 2\left(\frac{2}{3}\right)^n - \left(\frac{1}{3}\right)^n $$
よって、
$$ P(S_x \cap S_y) = 1 - \left\{ 2\left(\frac{2}{3}\right)^n - \left(\frac{1}{3}\right)^n \right\} = 1 - 2\left(\frac{2}{3}\right)^n + \left(\frac{1}{3}\right)^n $$
以上より、求める確率は
$$ P(A \cap B) = \frac{1}{4} \left\{ 1 - 2\left(\frac{2}{3}\right)^n + \left(\frac{1}{3}\right)^n \right\} $$
となる。
解説
(1) は等比数列の和に関する評価問題である。$\left(\frac{1}{2}\right)^k$ のように項が急激に減少する数列では、「ある項の大きさ」が「それ以降のすべての項の絶対値の和」よりも厳密に大きくなるという強い性質(2進数展開の一意性の背景にある性質)がある。これに気づき、最初の非零の変位に着目して背理法をうまく構成できるかがポイントとなる。
(2) は(1)の論理を応用して「最終的な座標が正になる条件」を「最初に動いた方向が正であること」に帰着させる問題である。この言い換えができれば、事象が大きく簡単になる。あとは確率の計算となるが、「最初に特定の目が出る」という条件付きの事象を扱う際は、本解のように対称性を活用して確率全体を4等分する視点を持てると、複雑な級数計算を回避でき、非常に簡潔に処理できる。
答え
(1)
略(解法1の証明を参照)
(2)
$$ \frac{1}{4} \left\{ 1 - 2\left(\frac{2}{3}\right)^n + \left(\frac{1}{3}\right)^n \right\} $$
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