京都大学 1989年 文系 第1問 解説

方針・初手
領域 $D$ は連立不等式 $|x| \leqq 1$ かつ $|y| \leqq 1$ で表されます。点 $(x, y)$ が変換 $f$ によって移る先の座標 $(X, Y)$ を計算し、すべての $(x, y) \in D$ において $|X| \leqq 1$ かつ $|Y| \leqq 1$ となる条件を考える。絶対値の性質や三角不等式を直接用いる代数的なアプローチと、領域の形(凸集合の頂点)に注目する幾何学的なアプローチの2通りが考えられる。
解法1
点 $(x, y)$ が一次変換 $f$ によって点 $(X, Y)$ にうつされるとき、
$$ \begin{pmatrix} X \\ Y \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} ax + by \\ cx + dy \end{pmatrix} $$
である。領域 $D$ は $\{(x, y) \mid -1 \leqq x \leqq 1, -1 \leqq y \leqq 1\}$ であるから、$f(D)$ が $D$ の部分集合になるための必要十分条件は、任意の $|x| \leqq 1, |y| \leqq 1$ に対して、
$$ |ax + by| \leqq 1 \quad \text{かつ} \quad |cx + dy| \leqq 1 $$
が成り立つことである。これをみたすための条件を考える。
(十分性の証明)
$|a| + |b| \leqq 1$ かつ $|c| + |d| \leqq 1$ が成り立つと仮定する。任意の $(x, y) \in D$ に対して、$|x| \leqq 1, |y| \leqq 1$ であるから、三角不等式より、
$$ |X| = |ax + by| \leqq |ax| + |by| = |a||x| + |b||y| \leqq |a|\cdot 1 + |b|\cdot 1 = |a| + |b| $$
仮定より $|a| + |b| \leqq 1$ であるから、$|X| \leqq 1$ が成り立つ。同様に、
$$ |Y| = |cx + dy| \leqq |cx| + |dy| = |c||x| + |d||y| \leqq |c|\cdot 1 + |d|\cdot 1 = |c| + |d| $$
仮定より $|c| + |d| \leqq 1$ であるから、$|Y| \leqq 1$ が成り立つ。 よって、$f(D) \subset D$ は示された。
(必要性の証明)
$f(D) \subset D$ が成り立つと仮定する。これは任意の $(x, y) \in D$ で $|X| \leqq 1$ かつ $|Y| \leqq 1$ が成り立つことを意味する。
ここで、$a$ の符号と同じ符号をもつ(ただし $a=0$ のときは $1$ とする)ような値 $x_0$ を選ぶ。すなわち、
$$ x_0 = \begin{cases} 1 & (a \geqq 0) \\ -1 & (a < 0) \end{cases} $$
とする。同様に、$b$ の符号に対して、
$$ y_0 = \begin{cases} 1 & (b \geqq 0) \\ -1 & (b < 0) \end{cases} $$
とする。このとき、$|x_0| = 1, |y_0| = 1$ であるから $(x_0, y_0) \in D$ であり、さらに $ax_0 = |a|, by_0 = |b|$ が成り立つ。 仮定より、この点 $(x_0, y_0)$ の変換先の $X$ 座標についても $|X| \leqq 1$ が成り立つので、
$$ |ax_0 + by_0| = ||a| + |b|| = |a| + |b| \leqq 1 $$
よって、$|a| + |b| \leqq 1$ が得られる。 同様にして、$cx_1 = |c|, dy_1 = |d|$ をみたすような $(x_1, y_1) \in D$ を選ぶことで、
$$ |cx_1 + dy_1| = |c| + |d| \leqq 1 $$
が得られる。 よって、必要性も示された。
以上より、$f(D)$ が $D$ の部分集合にうつされるための必要十分条件は $|a| + |b| \leqq 1$ かつ $|c| + |d| \leqq 1$ である。
解法2
領域 $D$ は $4$ 点 $(1, 1), (-1, 1), (-1, -1), (1, -1)$ を頂点とする正方形の内部および境界であり、凸集合である。 一次変換 $f$ は線形写像であるため、線分を線分(または点)にうつす。したがって、凸多角形 $D$ の像 $f(D)$ は、元の頂点の像を頂点とする凸多角形(または退化した線分や点)となる。 ゆえに、$f(D) \subset D$ となる必要十分条件は、$D$ の $4$ つの頂点の像がすべて $D$ に含まれることである。
各頂点の $f$ による像を求めると、以下のようになる。
$$ f(1, 1) = (a+b, c+d) $$
$$ f(-1, 1) = (-a+b, -c+d) $$
$$ f(-1, -1) = (-a-b, -c-d) $$
$$ f(1, -1) = (a-b, c-d) $$
これらがすべて $D$ 内にあるための条件は、各座標の絶対値が $1$ 以下になることである。$X$ 座標についてまとめると、
$$ |a+b| \leqq 1 \quad \text{かつ} \quad |-a+b| \leqq 1 \quad \text{かつ} \quad |-a-b| \leqq 1 \quad \text{かつ} \quad |a-b| \leqq 1 $$
ここで、$|-a-b| = |a+b|$ および $|-a+b| = |a-b|$ であるから、上の条件は
$$ |a+b| \leqq 1 \quad \text{かつ} \quad |a-b| \leqq 1 $$
と同値である。さらに、この連立不等式を展開すると、
$$ -1 \leqq a+b \leqq 1 \quad \text{かつ} \quad -1 \leqq a-b \leqq 1 $$
となり、これは $a, b$ 平面において頂点を $(1,0), (0,1), (-1,0), (0,-1)$ とする正方形の内部および境界を表す。 この領域は不等式 $|a| + |b| \leqq 1$ が表す領域と完全に一致するため、
$$ |a+b| \leqq 1 \quad \text{かつ} \quad |a-b| \leqq 1 \iff |a| + |b| \leqq 1 $$
が成り立つ。 全く同様の議論により、$Y$ 座標についての条件から
$$ |c+d| \leqq 1 \quad \text{かつ} \quad |c-d| \leqq 1 \iff |c| + |d| \leqq 1 $$
が成り立つ。
以上より、求める必要十分条件は $|a| + |b| \leqq 1$ かつ $|c| + |d| \leqq 1$ であることが証明された。
解説
一次変換によって図形がどのように移るかを考察する問題である。 解法1は、絶対値に関する不等式の証明の基本である「必要条件から絞り込み、十分性を確認する」という論理展開を丁寧に行う手法である。文字の符号に合わせて値を設定する($\pm 1$ を代入する)テクニックは、絶対値の最大値を考える際に頻出である。 解法2は、「凸多角形の一次変換による像は、頂点の像を結んだ凸多角形になる」という幾何学的な性質を利用している。これにより、無数にある領域内の点ではなく、4つの頂点のみを調べればよいという有限の条件に帰着させることができる。
答え
略(解法1の証明を参照)
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