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九州大学 1989年 理系 第4問 解説

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九州大学 1989年 理系 第4問 解説

方針・初手

$m$ 枚の硬貨を同時に投げるとき、表が出る枚数は二項分布に従う。この問題では確率変数 $X$ が $X=a^k$ と定義されているため、二項定理を用いて期待値 $E(X)$ と $E(X^2)$ を直接計算し、そこから分散 $V(X)$ を求める。 (2) は (1) で得られた式のうち、$a$ に依存する部分の関数の値域を微分法などを用いて調べることで解決する。

解法1

(1)

$m$ 枚の硬貨を同時に投げるとき、表が $k$ 枚出る確率は反復試行の確率より

$$ \binom{m}{k} \left(\frac{1}{2}\right)^k \left(\frac{1}{2}\right)^{m-k} = \binom{m}{k} \left(\frac{1}{2}\right)^m $$

である。 確率変数 $X$ の期待値 $E(X)$ は、定義に従って計算すると

$$ E(X) = \sum_{k=0}^{m} a^k \cdot \binom{m}{k} \left(\frac{1}{2}\right)^m = \left(\frac{1}{2}\right)^m \sum_{k=0}^{m} \binom{m}{k} a^k 1^{m-k} $$

ここで、二項定理 $\sum_{k=0}^{m} \binom{m}{k} x^k y^{m-k} = (x+y)^m$ を用いると

$$ E(X) = \left(\frac{1}{2}\right)^m (a+1)^m = \frac{(a+1)^m}{2^m} $$

となる。

同様に、$X^2 = (a^k)^2 = (a^2)^k$ であるから、$X^2$ の期待値 $E(X^2)$ は

$$ E(X^2) = \sum_{k=0}^{m} (a^2)^k \cdot \binom{m}{k} \left(\frac{1}{2}\right)^m = \left(\frac{1}{2}\right)^m \sum_{k=0}^{m} \binom{m}{k} (a^2)^k 1^{m-k} $$

再び二項定理を用いて

$$ E(X^2) = \left(\frac{1}{2}\right)^m (a^2+1)^m = \frac{(a^2+1)^m}{2^m} $$

となる。

分散 $V(X)$ は $V(X) = E(X^2) - \{E(X)\}^2$ であり、また $a>0$ より $E(X)>0$ であるから、

$$ \frac{\sqrt{V(X)}}{E(X)} = \sqrt{ \frac{V(X)}{\{E(X)\}^2} } = \sqrt{ \frac{E(X^2) - \{E(X)\}^2}{\{E(X)\}^2} } = \sqrt{ \frac{E(X^2)}{\{E(X)\}^2} - 1 } $$

と変形できる。ルートの中の第1項を計算すると

$$ \frac{E(X^2)}{\{E(X)\}^2} = \frac{ \frac{(a^2+1)^m}{2^m} }{ \left\{ \frac{(a+1)^m}{2^m} \right\}^2 } = \frac{(a^2+1)^m}{2^m} \cdot \frac{2^{2m}}{(a+1)^{2m}} = \frac{2^m(1+a^2)^m}{(1+a)^{2m}} $$

となる。したがって、

$$ \frac{\sqrt{V(X)}}{E(X)} = \sqrt{ \frac{2^m (1+a^2)^m}{(1+a)^{2m}} - 1 } $$

が成り立つ。

(2)

(1) の結果より、

$$ f(a) = \frac{2(1+a^2)}{(1+a)^2} $$

とおき、$a>0$ における $f(a)$ の値域を調べる。

$$ f'(a) = 2 \cdot \frac{ 2a(1+a)^2 - (1+a^2) \cdot 2(1+a) }{ (1+a)^4 } = 4 \cdot \frac{ a(1+a) - (1+a^2) }{ (1+a)^3 } = \frac{4(a-1)}{(a+1)^3} $$

$a>0$ の範囲において $f'(a) = 0$ となるのは $a=1$ のときのみである。 $a>0$ における $f(a)$ の増減表は以下のようになる。

$a$ $(0)$ $\cdots$ $1$ $\cdots$
$f'(a)$ $-$ $0$ $+$
$f(a)$ $(2)$ $\searrow$ $1$ $\nearrow$

ここで、区間の端点における極限を調べると

$$ \lim_{a \to +0} f(a) = \frac{2(1+0)}{(1+0)^2} = 2 $$

$$ \lim_{a \to \infty} f(a) = \lim_{a \to \infty} \frac{ 2\left(\frac{1}{a^2}+1\right) }{ \left(\frac{1}{a}+1\right)^2 } = \frac{2(0+1)}{(0+1)^2} = 2 $$

である。よって、$a>0$ において $f(a)$ のとりうる値の範囲は

$$ 1 \leqq f(a) < 2 $$

となる。

求める式は $\sqrt{ \{f(a)\}^m - 1 }$ である。 $g(t) = \sqrt{t^m - 1}$ とおくと、$g(t)$ は $t \geqq 1$ において単調に増加する関数であるから、$1 \leqq t < 2$ のとき

$$ \sqrt{1^m - 1} \leqq \sqrt{t^m - 1} < \sqrt{2^m - 1} $$

$$ 0 \leqq \sqrt{t^m - 1} < \sqrt{2^m - 1} $$

が成り立つ。

解説

二項分布の確率質量関数と二項定理を組み合わせて期待値を計算する典型的な問題である。$X$ は確率変数としては指数関数の形をしているが、二項定理の $(x+y)^m$ の展開式にうまく帰着できるかどうかがポイントとなる。 分散を直接計算すると通分などの計算が煩雑になるため、(1)の解答のように、示したい式 $\frac{\sqrt{V(X)}}{E(X)}$ を変形して $\frac{E(X^2)}{\{E(X)\}^2}$ の形を作ってから代入する工夫が有効である。この比 $\frac{\sqrt{V(X)}}{E(X)}$ は統計学において変動係数と呼ばれる量に該当する。 (2)の関数の増減は微分法で簡明に調べることができるが、$a=1$ を境に対称性を持つことから、相加相乗平均の利用や実数解の条件などに帰着して解くことも可能である。

答え

(1) 証明は解法1の通り。

(2)

$$ 0 \leqq \frac{\sqrt{V(X)}}{E(X)} < \sqrt{2^m - 1} $$

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