名古屋大学 2001年 理系 第5問 解説

方針・初手
駒の移動ルールを確率の漸化式として定式化する。駒が取り得る状態は $-1, 0, 1, 2, 3$ の5か所のみであり、それぞれの位置にいる確率を変数として置き、1回の操作(硬貨を投げる)の前後での関係式を立てるのが基本方針である。
(1) は、立てた連立漸化式の中から点 $1$ に関する確率を取り出して解く。 (2) は、各点の確率をすべて求めてから期待値の定義式に代入するのではなく、期待値の定義式そのものに漸化式を適用し、$E[X_{k+1}]$ と $E[X_k]$ の関係を調べる。
解法1
$k$ 回目に硬貨を投げたあとに、駒が点 $i$ ($i = -1, 0, 1, 2, 3$) にある確率を $p_{k, i}$ とおく。 初期状態として、$0$ 回目は原点にいるため、以下のようになる。
$$ p_{0, 0} = 1, \quad p_{0, -1} = p_{0, 1} = p_{0, 2} = p_{0, 3} = 0 $$
問題の条件より、各状態における $k$ 回目から $k+1$ 回目への遷移は以下のようになる。
- 点 $-1$ と点 $3$ からは移動しない(吸収状態)。
- 点 $0$ からは、$\frac{1}{2}$ の確率で点 $-1$、$\frac{1}{2}$ の確率で点 $1$ へ移動する。
- 点 $1$ からは、$\frac{1}{2}$ の確率で点 $0$、$\frac{1}{2}$ の確率で点 $2$ へ移動する。
- 点 $2$ からは、$\frac{1}{2}$ の確率で点 $1$、$\frac{1}{2}$ の確率で点 $3$ へ移動する。
したがって、以下の連立漸化式が成り立つ。
$$ \begin{cases} p_{k+1, -1} = p_{k, -1} + \frac{1}{2} p_{k, 0} \\ p_{k+1, 0} = \frac{1}{2} p_{k, 1} \\ p_{k+1, 1} = \frac{1}{2} p_{k, 0} + \frac{1}{2} p_{k, 2} \\ p_{k+1, 2} = \frac{1}{2} p_{k, 1} \\ p_{k+1, 3} = p_{k, 3} + \frac{1}{2} p_{k, 2} \end{cases} $$
(1)
上の漸化式を用いて、$p_{k+2, 1}$ を $p_{k, 1}$ で表す。
$$ p_{k+2, 1} = \frac{1}{2} p_{k+1, 0} + \frac{1}{2} p_{k+1, 2} $$
これに $p_{k+1, 0} = \frac{1}{2} p_{k, 1}$ と $p_{k+1, 2} = \frac{1}{2} p_{k, 1}$ を代入する。
$$ p_{k+2, 1} = \frac{1}{2} \left( \frac{1}{2} p_{k, 1} \right) + \frac{1}{2} \left( \frac{1}{2} p_{k, 1} \right) = \frac{1}{2} p_{k, 1} $$
また、初期条件から $p_{1, 1}$ と $p_{2, 1}$ を求める。
$$ p_{1, 1} = \frac{1}{2} p_{0, 0} + \frac{1}{2} p_{0, 2} = \frac{1}{2} \cdot 1 + 0 = \frac{1}{2} $$
$$ p_{2, 1} = \frac{1}{2} p_{1, 0} + \frac{1}{2} p_{1, 2} = \frac{1}{2} \left( \frac{1}{2} p_{0, 1} \right) + \frac{1}{2} \left( \frac{1}{2} p_{0, 1} \right) = 0 $$
出発点が原点(偶数座標)であり、1回の移動で座標の偶奇が必ず変わるため、偶数回目に奇数座標である点 $1$ にいることはない。よって、$k$ が偶数のとき $p_{k, 1} = 0$ である。
$k$ が奇数、すなわち $k = 2m-1$ ($m \ge 1$) のとき、数列 $\{p_{2m-1, 1}\}$ は初項 $p_{1, 1} = \frac{1}{2}$、公比 $\frac{1}{2}$ の等比数列となる。したがって、
$$ p_{2m-1, 1} = \frac{1}{2} \cdot \left(\frac{1}{2}\right)^{m-1} = \left(\frac{1}{2}\right)^m $$
これを $k$ を用いて表すと、$m = \frac{k+1}{2}$ より、
$$ p_{k, 1} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{k+1}{2}} $$
となる。
(2)
$k$ 回目に駒がある点 $X_k$ の期待値 $E[X_k]$ は、定義より次のように表される。
$$ E[X_k] = (-1) \cdot p_{k, -1} + 0 \cdot p_{k, 0} + 1 \cdot p_{k, 1} + 2 \cdot p_{k, 2} + 3 \cdot p_{k, 3} $$
すなわち、
$$ E[X_k] = -p_{k, -1} + p_{k, 1} + 2 p_{k, 2} + 3 p_{k, 3} $$
ここで、$k+1$ 回目の期待値 $E[X_{k+1}]$ を考え、(1) で立てた漸化式を代入する。
$$ \begin{aligned} E[X_{k+1}] &= -p_{k+1, -1} + p_{k+1, 1} + 2 p_{k+1, 2} + 3 p_{k+1, 3} \\ &= -\left( p_{k, -1} + \frac{1}{2} p_{k, 0} \right) + \left( \frac{1}{2} p_{k, 0} + \frac{1}{2} p_{k, 2} \right) + 2 \left( \frac{1}{2} p_{k, 1} \right) + 3 \left( p_{k, 3} + \frac{1}{2} p_{k, 2} \right) \\ &= -p_{k, -1} - \frac{1}{2} p_{k, 0} + \frac{1}{2} p_{k, 0} + \frac{1}{2} p_{k, 2} + p_{k, 1} + 3 p_{k, 3} + \frac{3}{2} p_{k, 2} \\ &= -p_{k, -1} + p_{k, 1} + \left( \frac{1}{2} + \frac{3}{2} \right) p_{k, 2} + 3 p_{k, 3} \\ &= -p_{k, -1} + p_{k, 1} + 2 p_{k, 2} + 3 p_{k, 3} \end{aligned} $$
これより、$E[X_{k+1}] = E[X_k]$ が成り立つ。
これは、期待値が試行回数 $k$ によらず一定であることを示している。初期状態 $k=0$ のとき、駒は確実に原点 $0$ にあるため、$E[X_0] = 0$ である。
したがって、任意の $k$ に対して $E[X_k] = 0$ となる。
解法2
(2) の別解
$k$ 回目の駒の位置が $X_k = x$ であったとき、さらに1回硬貨を投げたあとの位置 $X_{k+1}$ の期待値を考える。現在の状態 $x$ によって場合分けを行う。
(i) $x = -1$ または $x = 3$ のとき
駒は以後その位置にとどまるため、確実に $x$ にとどまる。したがって、次回の位置の期待値は $x$ である。
(ii) $x = 0, 1, 2$ のとき
確率 $\frac{1}{2}$ で $x+1$ に、確率 $\frac{1}{2}$ で $x-1$ に移動する。したがって、次回の位置の期待値は、
$$ (x+1) \cdot \frac{1}{2} + (x-1) \cdot \frac{1}{2} = x $$
となる。
(i), (ii) いずれの場合でも、現在位置がどこであっても「1回移動した後の位置の期待値」は「移動前の現在の位置」と一致する。すなわち、各ステップでの座標の増分の期待値が常に $0$ であるから、全体の期待値も変化しない。
よって、$E[X_{k+1}] = E[X_k]$ が成り立つ。$E[X_0] = 0$ であるため、すべての $k$ について $E[X_k] = 0$ となる。
解説
端に到達するとそこから動かなくなる「吸収壁」を持つランダムウォーク(酔歩)の問題である。確率分布を求めるためには、状態ごとの遷移を漸化式で整理するのが確実なアプローチとなる。
(2) では、個々の確率 $p_{k, -1}$ や $p_{k, 3}$ を一般項として求めようとすると非常に煩雑になる。しかし、期待値の線形性を利用して文字式のまま計算を進めると、綺麗に $E[X_{k+1}] = E[X_k]$ となるのが最大のポイントである。解法2のように、毎回のステップで「期待値の増分が $0$」となるような確率過程を数学用語で「マルチンゲール」と呼び、公平なゲームの解析などで重要な性質として扱われる。本問はこの性質を高校数学の枠組みで証明させる良問である。
答え
(1) $k$ が偶数のとき、$0$ $k$ が奇数のとき、$\left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{k+1}{2}}$
(2) $0$
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