大阪大学 2008年 理系 第1問 解説

方針・初手
(1) は、与えられた漸化式を繰り返し用いて $A_n$ を $B, C$ の累乗を用いた式で表し、それに $E-C$ を右から掛ける方針が簡明である。または、数列の和の公式の導出から類推して結果を推測し、数学的帰納法で証明してもよい。
(2) は、(1) の結果を利用して $A_{3n}$ を求める。行列 $C$ についてケーリー・ハミルトンの定理を適用し、$C^3$ がスカラー行列になることを利用して $C^{3n}$ を計算する。また、$E-C$ が正則であることを確認し、両辺に右から逆行列を掛けることで $A_{3n}$ を求める。
解法1
(1) 与えられた漸化式 $A_k = B + A_{k-1}C$ ($k=1, 2, 3, \cdots$)を変形すると、以下のようになる。
$$ A_k - A_{k-1}C = B $$
この両辺に右から $C^{n-k}$ を掛ける。
$$ A_k C^{n-k} - A_{k-1}C^{n-k+1} = B C^{n-k} $$
この式について、$k=1, 2, \dots, n$ までの辺々の和をとる。
$$ \sum_{k=1}^n (A_k C^{n-k} - A_{k-1}C^{n-k+1}) = \sum_{k=1}^n B C^{n-k} $$
左辺は和の各項が打ち消し合い、次のようにまとまる。
$$ (A_n E - A_{n-1}C) + (A_{n-1}C - A_{n-2}C^2) + \cdots + (A_1 C^{n-1} - A_0 C^n) = A_n - A_0 C^n $$
$A_0 = O$ より、左辺は $A_n$ となる。右辺は $B(C^{n-1} + C^{n-2} + \cdots + C + E)$ となるため、以下が得られる。
$$ A_n = B(E + C + C^2 + \cdots + C^{n-1}) $$
よって、求める式は次のように計算できる。
$$ A_n(E-C) = B(E + C + C^2 + \cdots + C^{n-1})(E-C) = B(E - C^n) $$
(2) (1) の結果において、$n$ を $3n$ に置き換える。
$$ A_{3n}(E-C) = B(E - C^{3n}) $$
ここで、$E-C$ を計算する。
$$ E-C = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} - \begin{pmatrix} 1 & 3 \\ -1 & 1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 & -3 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} $$
$\det(E-C) = 0 \cdot 0 - (-3) \cdot 1 = 3 \neq 0$ より、$E-C$ は正則であり、その逆行列は次のように求まる。
$$ (E-C)^{-1} = \frac{1}{3} \begin{pmatrix} 0 & 3 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} $$
次に $C^{3n}$ を求める。行列 $C$ についてケーリー・ハミルトンの定理を用いると、以下の等式が成り立つ。
$$ C^2 - (1+1)C + (1 - (-3))E = O $$
$$ C^2 - 2C + 4E = O $$
両辺に $C+2E$ を掛けると、次のように展開される。
$$ (C+2E)(C^2 - 2C + 4E) = O $$
$$ C^3 + 8E = O $$
よって $C^3 = -8E$ であるから、これを $n$ 乗する。
$$ C^{3n} = (C^3)^n = (-8E)^n = (-8)^n E $$
これを $A_{3n}(E-C) = B(E - C^{3n})$ に代入する。
$$ A_{3n}(E-C) = B(E - (-8)^n E) = \{1 - (-8)^n\} B $$
両辺の右から $(E-C)^{-1}$ を掛ける。
$$ A_{3n} = \{1 - (-8)^n\} B(E-C)^{-1} $$
ここで、$B(E-C)^{-1}$ を計算する。
$$ B(E-C)^{-1} = \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \cdot \frac{1}{3} \begin{pmatrix} 0 & 3 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} = \frac{1}{3} \begin{pmatrix} -1 & 0 \\ 0 & 3 \end{pmatrix} $$
以上より、$A_{3n}$ は次のように求まる。
$$ A_{3n} = \frac{1 - (-8)^n}{3} \begin{pmatrix} -1 & 0 \\ 0 & 3 \end{pmatrix} $$
解法2
(1) の別解として、数学的帰納法を用いて $A_n(E-C) = B(E - C^n)$ となることを示す。
(i)
$n=1$ のとき
$$ A_1 = B + A_0 C = B $$
よって、$A_1(E-C) = B(E-C)$ となり、与式は成立する。
(ii)
$n=k$ のとき
$A_k(E-C) = B(E - C^k)$ が成り立つと仮定する。
$n=k+1$ のとき、与えられた漸化式 $A_{k+1} = B + A_k C$ の両辺に右から $E-C$ を掛ける。
$$ A_{k+1}(E-C) = (B + A_k C)(E-C) = B(E-C) + A_k C(E-C) $$
行列の乗法において結合法則が成り立つので、$A_k C(E-C) = A_k(E-C)C$ である。ここに帰納法の仮定を用いる。
$$ A_{k+1}(E-C) = B(E-C) + B(E-C^k)C $$
$$ = B(E-C) + B(C-C^{k+1}) $$
$$ = B(E - C + C - C^{k+1}) $$
$$ = B(E - C^{k+1}) $$
したがって、$n=k+1$ のときも成り立つ。
(i), (ii) より、すべての自然数 $n$ について $A_n(E-C) = B(E-C^n)$ が成り立つ。
※ (2) の解法は解法1と同様であるため省略する。
解説
(1) は等比数列の和の公式の導出に似た考え方を用いる問題である。行列の積は一般に交換法則が成り立たないため、$A_n$ と $E-C$ を掛ける順序が指定されている点に注意し、積の順序を保ったまま展開していく必要がある。
(2) は (1) の誘導に乗って計算を進める典型的な構成となっている。ケーリー・ハミルトンの定理から $C^2 - 2C + 4E = O$ が得られるが、これに $C+2E$ を掛けて $C^3 = -8E$ を導くという手法は、整式の乗法公式 $(x+2)(x^2-2x+4) = x^3+8$ と同じ発想であり、行列の累乗計算を飛躍的に簡略化する重要なテクニックである。
答え
(1)
$$ A_n(E-C) = B(E - C^n) $$
(2)
$$ A_{3n} = \frac{1 - (-8)^n}{3} \begin{pmatrix} -1 & 0 \\ 0 & 3 \end{pmatrix} $$
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