東京工業大学 1976年 理系 第2問 解説

方針・初手
与えられた不等式が「すべての実数 $x$ に対して」成り立つような定数 $b$ の条件を求める絶対不等式の問題である。 そのままの形では4次不等式となり見通しが悪いため、変数の置き換えによって次数を下げるアプローチが有効である。 解法1では $X = x^2$ と置き、定義域制限付きの2次不等式の問題へ帰着させる。 解法2では、両辺が正であることを利用して平方根をとり、変数分離の発想を用いて関数の最大値の問題に帰着させる。
解法1
与えられた不等式は、
$$ (b+x^2)^2 > (1+4x^2)c^2 $$
展開して整理すると、
$$ x^4 + 2bx^2 + b^2 > c^2 + 4c^2x^2 $$
$$ x^4 + 2(b-2c^2)x^2 + b^2 - c^2 > 0 $$
ここで、$X = x^2$ とおく。$x$ がすべての実数値を動くとき、$X$ のとり得る値の範囲は $X \ge 0$ である。 与えられた条件は、「$X \ge 0$ を満たすすべての実数 $X$ に対して、次の不等式が成り立つ」ことと同値である。
$$ X^2 + 2(b-2c^2)X + b^2 - c^2 > 0 $$
$f(X) = X^2 + 2(b-2c^2)X + b^2 - c^2$ とおく。放物線 $Y = f(X)$ は下に凸であり、その軸は直線 $X = 2c^2 - b$ である。 $X \ge 0$ における $f(X)$ の最小値が常に正となるような $b$ の条件を、軸の位置で場合分けして求める。
(i) 軸が $X \ge 0$ の範囲にあるとき($2c^2 - b \ge 0 \iff b \le 2c^2$ の場合)
$X \ge 0$ における $f(X)$ の最小値は、頂点の $Y$ 座標である。
$$ \begin{aligned} f(2c^2 - b) &= (2c^2 - b)^2 + 2(b-2c^2)(2c^2 - b) + b^2 - c^2 \\ &= -(2c^2 - b)^2 + b^2 - c^2 \\ &= -(4c^4 - 4bc^2 + b^2) + b^2 - c^2 \\ &= 4bc^2 - 4c^4 - c^2 \\ &= c^2(4b - 4c^2 - 1) \end{aligned} $$
条件より、これが正となればよいので、
$$ c^2(4b - 4c^2 - 1) > 0 $$
$c$ は正数であるから $c^2 > 0$ である。両辺を $c^2$ で割って、
$$ 4b - 4c^2 - 1 > 0 $$
$$ b > c^2 + \frac{1}{4} $$
場合分けの前提 $b \le 2c^2$ と合わせて、
$$ c^2 + \frac{1}{4} < b \le 2c^2 $$
となる。このような $b$ の範囲が存在するためには $c^2 + \frac{1}{4} < 2c^2$ が必要であり、これを解くと $c^2 > \frac{1}{4}$ となる。$c > 0$ より $c > \frac{1}{2}$ を得る。 つまり、$c > \frac{1}{2}$ のとき、解の一部として $c^2 + \frac{1}{4} < b \le 2c^2$ が適する。
(ii) 軸が $X < 0$ の範囲にあるとき($2c^2 - b < 0 \iff b > 2c^2$ の場合)
$X \ge 0$ の範囲において関数 $f(X)$ は単調増加であるから、最小値は $X = 0$ のときの値 $f(0)$ である。
$$ f(0) = b^2 - c^2 $$
条件より $f(0) > 0$ となればよいので、
$$ b^2 - c^2 > 0 $$
$$ (b - c)(b + c) > 0 $$
ここで前提より $b > 2c^2 > 0$ であり、$c > 0$ であるため $b + c > 0$ は常に成り立つ。したがって $b - c > 0$、すなわち $b > c$ を得る。 よって、この場合の条件は $b > 2c^2$ かつ $b > c$ となる。
さらに $2c^2$ と $c$ の大小関係で分類する。 ・$2c^2 \ge c$ すなわち $c \ge \frac{1}{2}$ のとき、$b > 2c^2$ を満たせば自動的に $b > c$ も満たす。よって $b > 2c^2$ が条件となる。 ・$2c^2 < c$ すなわち $0 < c < \frac{1}{2}$ のとき、$b > 2c^2$ と $b > c$ の共通範囲は $b > c$ となる。
(i)、(ii) をまとめる。
$0 < c \le \frac{1}{2}$ のとき、(i) を満たす範囲は存在せず、(ii) より $b > c$ となる。 $c > \frac{1}{2}$ のとき、(i) より $c^2 + \frac{1}{4} < b \le 2c^2$、(ii) より $b > 2c^2$ となり、これらを合わせると $b > c^2 + \frac{1}{4}$ となる。
解法2
与えられた不等式 $(b+x^2)^2 > (1+4x^2)c^2$ の両辺は正である。 両辺の正の平方根をとると、
$$ |b+x^2| > c\sqrt{1+4x^2} $$
すなわち、すべての実数 $x$ に対して、
$$ b+x^2 > c\sqrt{1+4x^2} \quad \cdots (A) $$
または
$$ b+x^2 < -c\sqrt{1+4x^2} \quad \cdots (B) $$
のいずれかが成り立つ必要がある。 $x$ の絶対値が十分に大きいとき、左辺の主要項は $x^2$、右辺の主要項は $2c|x|$ となり、$x^2 > 0$ であるから必ず $(A)$ が成り立つ。 もしある実数 $x$ で $(B)$ が成り立つと仮定すると、関数 $y = b+x^2$ および $y = \pm c\sqrt{1+4x^2}$ は連続であるため、値が切り替わる境界において $|b+x^2| \le c\sqrt{1+4x^2}$ となる瞬間が存在しなければならず、元の不等式がすべての実数で成り立つことに反する。 したがって、すべての実数 $x$ において常に $(A)$ が成り立つことが必要十分条件となる。
$$ b > c\sqrt{1+4x^2} - x^2 $$
ここで、$t = \sqrt{1+4x^2}$ とおく。 $x$ がすべての実数値を動くとき、$x^2 \ge 0$ より $t \ge 1$ である。 $t^2 = 1+4x^2$ より $x^2 = \frac{t^2-1}{4}$ となる。
右辺を $t$ の関数 $g(t)$ として表す。
$$ \begin{aligned} g(t) &= ct - \frac{t^2-1}{4} \\ &= -\frac{1}{4}t^2 + ct + \frac{1}{4} \\ &= -\frac{1}{4}(t - 2c)^2 + c^2 + \frac{1}{4} \end{aligned} $$
条件は、すべての $t \ge 1$ において $b > g(t)$ が成り立つこと、すなわち「$t \ge 1$ における $g(t)$ の最大値よりも $b$ が大きいこと」に帰着される。 放物線 $y = g(t)$ は上に凸であり、軸は $t = 2c$ である。$c > 0$ より軸の位置 $2c > 0$ である。 最大値をとる $t$ の位置が定義域に含まれるかどうかで場合分けする。
(i) 軸が定義域に含まれるとき($2c \ge 1 \iff c \ge \frac{1}{2}$ の場合)
$t \ge 1$ において $g(t)$ は頂点である $t = 2c$ で最大となる。最大値は、
$$ g(2c) = c^2 + \frac{1}{4} $$
よって、求める条件は $b > c^2 + \frac{1}{4}$ である。
(ii) 軸が定義域の左側にあるとき($2c < 1 \iff 0 < c < \frac{1}{2}$ の場合)
$t \ge 1$ において $g(t)$ は単調に減少する。よって最大値は左端の $t = 1$ のときであり、
$$ g(1) = c \cdot 1 - \frac{1^2-1}{4} = c $$
よって、求める条件は $b > c$ である。
解説
絶対不等式の処理において、変数を適切に置き換えて次数を下げることが基本である。 解法1は $x^2 = X \ge 0$ と置き、2次関数のグラフの配置問題として処理する定石通りの解法である。場合分けの際に $c$ の値によって条件を満たす $b$ の存在範囲が変わることに注意を払う必要がある。 解法2は不等式を $b > f(x)$ の形に変形し(定数分離)、右辺の関数の最大値を求める方針である。平方根を用いて式をシンプルにし、$t = \sqrt{1+4x^2}$ と置くことで計算量を減らすことができるエレガントな手法である。絶対値に関する論証を丁寧に記述することが求められる。
答え
$0 < c \le \frac{1}{2}$ のとき、$b > c$ $c > \frac{1}{2}$ のとき、$b > c^2 + \frac{1}{4}$
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