東京工業大学 1982年 理系 第5問 解説

方針・初手
9回の試行で得られた数の和を $S$ とおき、「平均値 $\frac{S}{9}$ の小数第1位が1である」という条件を $S$ についての不等式に翻訳する。これにより $S$ がとりうる整数の値を特定し、和がその値になる確率を計算していくのが基本的な流れとなる。和に関する確率計算では、各数が出る回数を文字でおいて連立方程式を解くアプローチ(解法1)と、多項式の展開(母関数)を利用するアプローチ(解法2)が考えられる。
解法1
9回の試行で出た数の和を $S$ とする。各回に出る数は $0, 1, 2$ のいずれかであるから、$S$ は $0 \le S \le 18$ を満たす整数である。
得られた9個の数の平均値は $\frac{S}{9}$ であり、この小数第1位が1となるための条件は、ある整数 $k$ を用いて
$$ k + 0.1 \le \frac{S}{9} < k + 0.2 $$
と表されることである。各辺を9倍すると
$$ 9k + 0.9 \le S < 9k + 1.8 $$
となる。$S$ は整数であるから、これを満たす $S$ は $S = 9k + 1$ に限られる。
$0 \le S \le 18$ の範囲で可能な $k$ の値は $k = 0, 1$ のみであり、対応する $S$ の値は
$$ S = 1, 10 $$
となる。したがって、$S = 1$ または $S = 10$ となる確率を求めればよい。
(i)
$S = 1$ となる確率
9回の試行のうち、1が1回、0が8回出ればよい。各数は確率 $\frac{1}{3}$ で現れるから、その確率は
$$ \frac{9!}{1!8!} \left(\frac{1}{3}\right)^1 \left(\frac{1}{3}\right)^8 = \frac{9}{3^9} $$
となる。
(ii)
$S = 10$ となる確率
9回の試行のうち、$0, 1, 2$ が出た回数をそれぞれ $a, b, c$ とおく($a, b, c$ は非負整数)。試行回数と和の条件から、以下の連立方程式が成り立つ。
$$ \begin{cases} a + b + c = 9 \\ 0 \cdot a + 1 \cdot b + 2 \cdot c = 10 \end{cases} $$
第2式より $b = 10 - 2c$ となる。これを第1式に代入して $a$ について解くと
$$ a = 9 - (10 - 2c) - c = c - 1 $$
となる。$a \ge 0$ および $b \ge 0$ であるための条件は
$$ \begin{cases} c - 1 \ge 0 \\ 10 - 2c \ge 0 \end{cases} $$
これを解くと $1 \le c \le 5$ を得る。$c$ は整数であるから、$c = 1, 2, 3, 4, 5$ であり、それぞれに対応する $(a, b, c)$ の組と、その事象が起こる場合の数(順列の数)は以下の通り計算できる。
$c = 1$ のとき、$(a, b, c) = (0, 8, 1)$。場合の数は $\frac{9!}{0!8!1!} = 9$ 通り。
$c = 2$ のとき、$(a, b, c) = (1, 6, 2)$。場合の数は $\frac{9!}{1!6!2!} = \frac{9 \times 8 \times 7}{2 \times 1} = 252$ 通り。
$c = 3$ のとき、$(a, b, c) = (2, 4, 3)$。場合の数は $\frac{9!}{2!4!3!} = \frac{9 \times 8 \times 7 \times 6 \times 5}{2 \times 1} = 1260$ 通り。
$c = 4$ のとき、$(a, b, c) = (3, 2, 4)$。場合の数は $\frac{9!}{3!2!4!} = 1260$ 通り。
$c = 5$ のとき、$(a, b, c) = (4, 0, 5)$。場合の数は $\frac{9!}{4!0!5!} = \frac{9 \times 8 \times 7 \times 6}{4 \times 3 \times 2 \times 1} = 126$ 通り。
これらは互いに排反であるから、$S = 10$ となる場合の数は
$$ 9 + 252 + 1260 + 1260 + 126 = 2907 \text{ (通り)} $$
となる。各結果の生じる確率はすべて等しく $\left(\frac{1}{3}\right)^9$ であるため、$S = 10$ となる確率は
$$ \frac{2907}{3^9} $$
である。
(i) と (ii) は互いに排反事象であるから、求める確率は
$$ \frac{9}{3^9} + \frac{2907}{3^9} = \frac{2916}{3^9} $$
となる。ここで $2916 = 4 \times 729 = 4 \times 3^6$ であるため、約分すると
$$ \frac{4 \times 3^6}{3^9} = \frac{4}{3^3} = \frac{4}{27} $$
となる。
解法2
9回の試行で出た数の和を $S$ とすると、平均値の小数第1位が1となるための条件は、解法1と同様にして $S = 1$ または $S = 10$ であるとわかる。
ここで、和が $S$ となる確率は、多項式 $\left(\frac{1}{3} + \frac{1}{3}x + \frac{1}{3}x^2\right)^9$ の展開式における $x^S$ の係数に等しい。これを計算するために
$$ (1 + x + x^2)^9 = \{ (1 + x) + x^2 \}^9 $$
と考え、二項定理を用いて展開すると
$$ \sum_{k=0}^9 {}_{9}\mathrm{C}_{k} (1+x)^{9-k} (x^2)^k = \sum_{k=0}^9 {}_{9}\mathrm{C}_{k} (1+x)^{9-k} x^{2k} $$
と表すことができる。
(i)
$S = 1$ となる場合の数($x^1$ の係数)
$x^1$ の項が現れるのは、上記の展開式において $k = 0$ のときのみである。$k=0$ の項は ${}_{9}\mathrm{C}_{0}(1+x)^9$ であり、この中の $x^1$ の係数は
$$ 1 \times {}_{9}\mathrm{C}_{1} = 9 $$
となる。
(ii)
$S = 10$ となる場合の数($x^{10}$ の係数)
各 $k$ の項 ${}_{9}\mathrm{C}_{k} (1+x)^{9-k} x^{2k}$ から $x^{10}$ の項を作るには、$(1+x)^{9-k}$ を展開した中から $x^{10-2k}$ の項を取り出して掛ければよい。この項が存在するための条件は
$$ 0 \le 10 - 2k \le 9 - k $$
である。左側の不等式から $k \le 5$、右側の不等式から $k \ge 1$ を得る。したがって $k$ は $1, 2, 3, 4, 5$ のいずれかである。
各 $k$ について、$x^{10}$ の係数は ${}_{9}\mathrm{C}_{k} \times {}_{9-k}\mathrm{C}_{10-2k}$ と計算できるため、それらの和を求める。
$k=1$ のとき: ${}_{9}\mathrm{C}_{1} {}_{8}\mathrm{C}_{8} = 9 \times 1 = 9$
$k=2$ のとき: ${}_{9}\mathrm{C}_{2} {}_{7}\mathrm{C}_{6} = 36 \times 7 = 252$
$k=3$ のとき: ${}_{9}\mathrm{C}_{3} {}_{6}\mathrm{C}_{4} = 84 \times 15 = 1260$
$k=4$ のとき: ${}_{9}\mathrm{C}_{4} {}_{5}\mathrm{C}_{2} = 126 \times 10 = 1260$
$k=5$ のとき: ${}_{9}\mathrm{C}_{5} {}_{4}\mathrm{C}_{0} = 126 \times 1 = 126$
これらを合計すると
$$ 9 + 252 + 1260 + 1260 + 126 = 2907 $$
となる。
以上より、$x^1$ または $x^{10}$ となる係数の和は $9 + 2907 = 2916$ である。求める確率は、これに $\left(\frac{1}{3}\right)^9$ を掛けたものであるから
$$ \frac{2916}{3^9} = \frac{4 \times 3^6}{3^9} = \frac{4}{27} $$
となる。
解説
「平均値の小数第1位が1になる」という日常的な表現を、数式(不等式)へと正確に翻訳する第一歩が要となる問題である。ここを乗り越えれば、あとは独立試行の確率を丁寧に計算する典型問題に帰着する。
和が特定の値になる確率を求める際、解法1のように多項定理を用いて地道に場合分けを行うのが王道だが、解法2のような「多項式の展開式(母関数)」を利用する見方もできると、計算をよりシステマティックに進めることができる。特に難関大の確率分野では、この多項式の係数に着目するアプローチが極めて有効な場面が多く見られる。
答え
$$ \frac{4}{27} $$
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