東京大学 1971年 文系 第4問 解説

方針・初手
前半は、$f_n(x)$ を $x$ について微分し、結果が $f_{n-1}(x)$ に一致することを計算により確かめる。 後半は指示通り数学的帰納法を用いるが、命題をそのまま帰納法に乗せようとすると、「偶数のとき実根をもたない」という条件が扱いにくい。そこで、「$n$ が偶数のときは、すべての実数 $x$ において $f_n(x) > 0$ である」と、証明すべき命題を強めて設定することが最大のポイントである。$f_{n}'(x) = f_{n-1}(x)$ の関係を用いることで、導関数の符号から関数の増減を調べることができる。
解法1
$n \ge 2$ のとき、与えられた $f_n(x)$ を $x$ について微分すると、
$$ f_n'(x) = \frac{d}{dx}\left( 1 + \frac{x}{1!} + \frac{x^2}{2!} + \cdots + \frac{x^n}{n!} \right) $$
$$ f_n'(x) = 0 + 1 + \frac{2x}{2!} + \frac{3x^2}{3!} + \cdots + \frac{nx^{n-1}}{n!} $$
$$ f_n'(x) = 1 + \frac{x}{1!} + \frac{x^2}{2!} + \cdots + \frac{x^{n-1}}{(n-1)!} $$
右辺は $f_{n-1}(x)$ の定義そのものであるから、
$$ f_n'(x) = f_{n-1}(x) $$
が成り立つことが証明された。
次に、すべての自然数 $n$ について、次の命題 $(A_n)$ が成り立つことを数学的帰納法を用いて示す。
$(A_n)$: $n$ が奇数のとき、$f_n(x) = 0$ はただ1つの実根をもつ。 $n$ が偶数のとき、すべての実数 $x$ について $f_n(x) > 0$ である(すなわち実根をもたない)。
[1] $n=1$ のとき $f_1(x) = 1 + x$ である。 方程式 $f_1(x) = 0$ を解くと $x = -1$ となり、ただ1つの実根をもつ。 よって、$n=1$ のとき $(A_1)$ は成り立つ。
[2] $n=k$ ($k \ge 1$) のとき、$(A_k)$ が成り立つと仮定する。
(i)
$k$ が奇数のとき $k+1$ は偶数である。 帰納法の仮定より、$f_k(x) = 0$ はただ1つの実根をもつ。これを $\alpha$ とおく。 $f_k(x)$ は最高次の項 $\frac{x^k}{k!}$ の係数が正であり、奇数次であるから、
$x < \alpha$ のとき $f_k(x) < 0$ $x > \alpha$ のとき $f_k(x) > 0$
となる。前半で証明したように $f_{k+1}'(x) = f_k(x)$ であるから、$f_{k+1}(x)$ は $x < \alpha$ で単調に減少し、$x > \alpha$ で単調に増加する。 したがって、$f_{k+1}(x)$ は $x = \alpha$ で極小かつ最小となり、最小値は $f_{k+1}(\alpha)$ である。 ここで、$f_{k+1}(x)$ の定義より、
$$ f_{k+1}(x) = f_k(x) + \frac{x^{k+1}}{(k+1)!} $$
が成り立つので、$x = \alpha$ を代入すると、
$$ f_{k+1}(\alpha) = f_k(\alpha) + \frac{\alpha^{k+1}}{(k+1)!} $$
$\alpha$ は $f_k(x) = 0$ の解であるから $f_k(\alpha) = 0$ である。また、$f_k(0) = 1 \neq 0$ より $\alpha \neq 0$ である。 さらに $k+1$ は偶数であるから、$\alpha^{k+1} > 0$ となる。 よって、
$$ f_{k+1}(\alpha) = 0 + \frac{\alpha^{k+1}}{(k+1)!} > 0 $$
ゆえに、すべての実数 $x$ について $f_{k+1}(x) \ge f_{k+1}(\alpha) > 0$ が成り立ち、$n=k+1$(偶数)のときも $(A_{k+1})$ は成り立つ。
(ii)
$k$ が偶数のとき $k+1$ は奇数である。 帰納法の仮定より、すべての実数 $x$ について $f_k(x) > 0$ である。 $f_{k+1}'(x) = f_k(x) > 0$ であるから、$f_{k+1}(x)$ はすべての実数 $x$ において単調に増加する。 また、$k+1$ は奇数であり、最高次の項 $\frac{x^{k+1}}{(k+1)!}$ の係数が正であるから、
$$ \lim_{x \to -\infty} f_{k+1}(x) = -\infty, \quad \lim_{x \to \infty} f_{k+1}(x) = \infty $$
$f_{k+1}(x)$ は連続関数であり、単調増加して値域が実数全体となるため、中間値の定理より $f_{k+1}(x) = 0$ はただ1つの実根をもつ。 よって、$n=k+1$(奇数)のときも $(A_{k+1})$ は成り立つ。
以上 (i), (ii) より、$n=k$ で $(A_k)$ が成り立てば、常に $n=k+1$ で $(A_{k+1})$ が成り立つ。
[1], [2] より、すべての自然数 $n$ について $(A_n)$ が成り立つ。 したがって、方程式 $f_n(x) = 0$ は、$n$ が奇数ならばただ1つの実根をもち、$n$ が偶数ならば実根をもたないことが証明された。
解説
自然対数の底 $e$ のマクローリン展開($e^x = \sum_{k=0}^{\infty} \frac{x^k}{k!}$)の有限次までの和として表される多項式に関する有名な問題である。 数学的帰納法において、「実数解をもたない」という否定的な命題をそのまま証明するのは難しいことが多い。本問のように、グラフの形状(下に凸で最小値が正)を捉え、「常に正である」という強い命題に置き換えて帰納法を回す手法は、難関大でしばしば要求される重要な発想である。 また、最小値を評価する際に、$f_{k+1}(\alpha)$ の値を直接計算するのではなく、$f_{k+1}(x) = f_k(x) + \frac{x^{k+1}}{(k+1)!}$ という漸化式的な関係を利用して $f_k(\alpha) = 0$ を代入する処理も、多項式の問題における典型的なテクニックである。
答え
略(解法1の証明を参照)
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