東京大学 2025年 文系 第2問 解説

方針・初手
領域 $D_r$ に図形が含まれるという条件は、「図形内の任意の点 $P$ について、3頂点 $A, B, C$ のうち少なくとも1つとの距離が $r$ 以下になる」ことと同値である。すなわち、$P$ と各頂点との距離の最小値を $f(P) = \min(PA, PB, PC)$ と定義したとき、以下のようになる。
- 辺がすべて $D_r$ に含まれるための最小の $r$ である $s$ は、「三角形の周上の点 $P$ における $f(P)$ の最大値」である。
- 三角形 $ABC$ が $D_r$ に含まれるための最小の $r$ である $t$ は、「三角形の周および内部の点 $P$ における $f(P)$ の最大値」である。
対称性から、三角形を「どの頂点が最も近いか」で3つの領域(各辺の垂直二等分線を境界とする領域)に分割して考えることで、距離が最大となる候補点(辺の中点や外心など)を見つけることができる。
解法1
(1)
$\angle BAC = \frac{\pi}{3}$ のとき、$\triangle ABC$ は1辺の長さが $1$ の正三角形である。
辺上の点で $f(P)$ が最大となるのは、辺の中点である。辺 $AB$ の中点を $N$ とすると、$NA = NB = \frac{1}{2}$ である。また、$\triangle ABC$ は正三角形なので $NC = \frac{\sqrt{3}}{2}$ であり、$NC > \frac{1}{2}$ である。したがって、中点 $N$ において各頂点からの距離の最小値は $\frac{1}{2}$ となり、辺がすべて含まれるためには $r \ge \frac{1}{2}$ が必要十分である。よって $s = \frac{1}{2}$。
三角形の内部および周上の点で $f(P)$ が最大となるのは、各頂点から等距離にある点、すなわち $\triangle ABC$ の外心(重心)$O$ である。正三角形の外接円の半径を $R$ とすると、正弦定理より以下のようになる。
$$ 2R = \frac{1}{\sin \frac{\pi}{3}} = \frac{2}{\sqrt{3}} $$
よって、$R = \frac{\sqrt{3}}{3}$ であり、これが $f(P)$ の最大値である。したがって $t = \frac{\sqrt{3}}{3}$。
(2)
$\angle BAC = \frac{2\pi}{3}$ のとき、$AB = AC = 1$ の鈍角二等辺三角形である。余弦定理より $BC = \sqrt{3}$ である。
辺 $AB$ について、(1)と同様に中点 $N$ における距離を考える。$\triangle CAN$ に余弦定理を適用すると以下のようになる。
$$ NC^2 = 1^2 + \left(\frac{1}{2}\right)^2 - 2 \cdot 1 \cdot \frac{1}{2} \cos \frac{2\pi}{3} = \frac{5}{4} + \frac{1}{2} = \frac{7}{4} $$
$NC > \frac{1}{2}$ であるため、辺 $AB$(および対称性より辺 $AC$)が $D_r$ に含まれるための最小の半径は $\frac{1}{2}$ である。
次に辺 $BC$ について考える。辺 $BC$ の中点を $M$ とすると、$BM = CM = \frac{\sqrt{3}}{2}$、$AM = \frac{1}{2}$ である。線分 $BM$ 上の点で $B$ と $A$ から等距離になる点を $Q$ とすると、$Q$ は辺 $AB$ の垂直二等分線上にある。$\angle B = \frac{\pi}{6}$ より、直角三角形の辺の比を用いて以下のようになる。
$$ BQ = \frac{\frac{1}{2}}{\cos \frac{\pi}{6}} = \frac{1}{\sqrt{3}} = \frac{\sqrt{3}}{3} $$
$BQ < BM$ であるから、$Q$ は線分 $BM$ 上に存在する。線分 $BM$ 上で $f(P)$ が最大となるのはこの点 $Q$ であり、最大値は $\frac{\sqrt{3}}{3}$ となる。$\frac{\sqrt{3}}{3} > \frac{1}{2}$ であるため、すべての辺が含まれる最小の $r$ は $s = \frac{\sqrt{3}}{3}$ である。
また、鈍角三角形においては外心が三角形の外部にあるため、三角形内部の点で $f(P)$ が最大となるのは境界上の点 $Q$ である。したがって $t = s = \frac{\sqrt{3}}{3}$ となる。
(3)
一般の $\theta$ ($0 < \theta < \pi$) について考える。
(i) 辺 $AB, AC$ について
辺 $AB$ の中点を $N$ とする。$\triangle CAN$ に余弦定理を用いる。
$$ NC^2 = 1^2 + \left(\frac{1}{2}\right)^2 - 2 \cdot 1 \cdot \frac{1}{2} \cos\theta = \frac{5}{4} - \cos\theta $$
$-1 < \cos\theta < 1$ より $NC^2 > \frac{1}{4}$ となり、常に $NC > \frac{1}{2}$ である。したがって、辺 $AB, AC$ を完全に覆うためには、いかなる $\theta$ でも $r \ge \frac{1}{2}$ が必要となる。
(ii) 辺 $BC$ について
$BC = 2\sin\frac{\theta}{2}$ であり、中点を $M$ とすると $BM = \sin\frac{\theta}{2}$、$AM = \cos\frac{\theta}{2}$ である。
$0 < \theta \le \frac{\pi}{2}$ のとき、$\sin\frac{\theta}{2} \le \cos\frac{\theta}{2}$ より $BM \le AM$ となる。このとき、線分 $BM$ 上のすべての点 $P$ で $BP \le AP$ となるため、線分 $BM$ 上で $f(P)$ が最大となるのは $M$ であり、その値は $\sin\frac{\theta}{2}$ である。
$\frac{\pi}{2} < \theta < \pi$ のとき、$BM > AM$ となる。線分 $BM$ 上には $BQ = AQ$ となる点 $Q$ が存在し、(2)と同様に垂直二等分線を用いて計算すると以下のようになる。
$$ BQ = \frac{\frac{1}{2}}{\cos \left(\frac{\pi}{2} - \frac{\theta}{2}\right)} = \frac{1}{2\sin\frac{\theta}{2}} $$
このとき、最大値は $Q$ における $\frac{1}{2\sin\frac{\theta}{2}}$ となる。
以上と (i) の $\frac{1}{2}$ を比較して $s$ を求める。 $0 < \theta < \frac{\pi}{3}$ のとき、$\sin\frac{\theta}{2} < \frac{1}{2}$ より $s = \frac{1}{2}$。 $\frac{\pi}{3} \le \theta \le \frac{\pi}{2}$ のとき、$\sin\frac{\theta}{2} \ge \frac{1}{2}$ より $s = \sin\frac{\theta}{2}$。 $\frac{\pi}{2} < \theta < \pi$ のとき、$\frac{1}{2\sin\frac{\theta}{2}} > \frac{1}{2}$ より $s = \frac{1}{2\sin\frac{\theta}{2}}$。
(iii) 三角形全体 ($t$) について
$\triangle ABC$ の外接円の半径 $R$ は、正弦定理より以下のようになる。
$$ 2R = \frac{2\sin\frac{\theta}{2}}{\sin\theta} = \frac{2\sin\frac{\theta}{2}}{2\sin\frac{\theta}{2}\cos\frac{\theta}{2}} = \frac{1}{\cos\frac{\theta}{2}} $$
$$ R = \frac{1}{2\cos\frac{\theta}{2}} $$
$0 < \theta \le \frac{\pi}{2}$ のとき、外心 $O$ は三角形の内部または周上にあり、各頂点からの距離が $R$ で最大となる。したがって $t = \frac{1}{2\cos\frac{\theta}{2}}$。
$\frac{\pi}{2} < \theta < \pi$ のとき、外心 $O$ は三角形の外部にあるため、内部で各頂点から最も遠い点は周上の点 $Q$ となる。したがって $t = s = \frac{1}{2\sin\frac{\theta}{2}}$。
解説
図形を複数の円で覆う「被覆問題」の典型的なアプローチを問う問題である。領域全体が円に含まれる条件を、「図形内のすべての点において、円の中心までの距離の最小値が半径 $r$ 以下である」と言い換えることが最大のポイントである。
平面上の各点が3つの頂点 $A, B, C$ のうちどれに最も近いかで領域を分ける考え方(ボロノイ図の考え方)に基づいている。(3) において $\theta$ が $\frac{\pi}{2}$ を超える(鈍角三角形になる)と、外心が三角形の外部に出てしまうため、内部での最大距離が境界上に移るという現象を正しく場合分けして処理できるかが問われている。
答え
(1)
$s = \frac{1}{2}$, $t = \frac{\sqrt{3}}{3}$
(2)
$s = \frac{\sqrt{3}}{3}$, $t = \frac{\sqrt{3}}{3}$
(3)
$s$ について $0 < \theta < \frac{\pi}{3}$ のとき $s = \frac{1}{2}$ $\frac{\pi}{3} \le \theta \le \frac{\pi}{2}$ のとき $s = \sin\frac{\theta}{2}$ $\frac{\pi}{2} < \theta < \pi$ のとき $s = \frac{1}{2\sin\frac{\theta}{2}}$
$t$ について $0 < \theta \le \frac{\pi}{2}$ のとき $t = \frac{1}{2\cos\frac{\theta}{2}}$ $\frac{\pi}{2} < \theta < \pi$ のとき $t = \frac{1}{2\sin\frac{\theta}{2}}$
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