京都大学 1986年 理系 第1問 解説

方針・初手
与えられた条件 $a_1 + a_2 + \cdots + a_n = 0$ を活用して、目標の式 $a_1 + 2a_2 + \cdots + na_n$ を変形する。 数列の和の積や、各項に係数が掛かった和を扱う際の定石として、以下の2つのアプローチが考えられる。
- 部分和を利用した変形:第 $k$ 項までの和 $S_k$ を導入し、各項 $a_k$ を $S_k - S_{k-1}$ に置き換えて和を組み替える方法(アーベルの変形公式の考え方)。
- 二重和を利用した変形:数列の単調性に注目し、$(i - j)(a_i - a_j)$ という常に $0$ 以上となる式を展開して和をとる方法(チェビシェフの和の不等式の証明に用いられる手法)。
ここでは両方の解法を示す。
解法1
目標の式を $P = \sum_{k=1}^n k a_k$ とする。 部分和を $S_k = \sum_{i=1}^k a_i \ (1 \leqq k \leqq n)$ とおく。 与えられた条件 $a_1 + a_2 + \cdots + a_n = 0$ より、$S_n = 0$ である。
数列 $a_k$ は部分和を用いて次のように表せる。
$$ a_1 = S_1 $$
$$ a_k = S_k - S_{k-1} \quad (k \geqq 2) $$
これを $P$ に代入して変形する。
$$ \begin{aligned} P &= S_1 + \sum_{k=2}^n k(S_k - S_{k-1}) \\ &= S_1 + 2(S_2 - S_1) + 3(S_3 - S_2) + \cdots + n(S_n - S_{n-1}) \\ &= (1 - 2)S_1 + (2 - 3)S_2 + \cdots + (n-1 - n)S_{n-1} + n S_n \\ &= -S_1 - S_2 - \cdots - S_{n-1} + n S_n \end{aligned} $$
$S_n = 0$ であるから、
$$ P = -\sum_{k=1}^{n-1} S_k $$
次に、$1 \leqq k \leqq n-1$ について各 $S_k$ の符号を調べる。 条件より $a_1 \leqq a_2 \leqq \cdots \leqq a_n$ であるから、前半 $k$ 項の中で $a_k$ は最大である。したがって、
$$ S_k = a_1 + a_2 + \cdots + a_k \leqq k a_k $$
よって、
$$ a_k \geqq \frac{S_k}{k} $$
また、後半 $n-k$ 項の和について考える。和全体が $0$ であるから、
$$ a_{k+1} + a_{k+2} + \cdots + a_n = S_n - S_k = -S_k $$
この後半の項の中で $a_{k+1}$ は最小であるため、
$$ -S_k = a_{k+1} + a_{k+2} + \cdots + a_n \geqq (n-k) a_{k+1} $$
よって、
$$ a_{k+1} \leqq -\frac{S_k}{n-k} $$
$a_k \leqq a_{k+1}$ であるから、得られた不等式をつなぐと
$$ \frac{S_k}{k} \leqq a_k \leqq a_{k+1} \leqq -\frac{S_k}{n-k} $$
両端の式を整理して、
$$ \frac{S_k}{k} \leqq -\frac{S_k}{n-k} $$
$$ \left( \frac{1}{k} + \frac{1}{n-k} \right) S_k \leqq 0 $$
$$ \frac{n}{k(n-k)} S_k \leqq 0 $$
$1 \leqq k \leqq n-1$ より $k(n-k) > 0$ であり、$n > 0$ であるから、
$$ S_k \leqq 0 $$
したがって、すべての $1 \leqq k \leqq n-1$ に対して $S_k \leqq 0$ であるから、
$$ P = -\sum_{k=1}^{n-1} S_k \geqq 0 $$
が成り立つ。
最後に等号成立条件を確認する。 $P = 0$ となるのは、すべての $1 \leqq k \leqq n-1$ について $S_k = 0$ となるときに限られる。 $S_1 = 0$ より $a_1 = 0$。 $S_2 = 0$ かつ $a_1 = 0$ より $a_2 = 0$。 これを繰り返すと、$a_1 = a_2 = \cdots = a_{n-1} = 0$ となる。 さらに $S_n = 0$ であるから $a_n = 0$ となり、すべての $a_k$ が $0$ になる。 しかし、これは問題の「すべては $0$ でない」という条件に反する。
したがって等号は成立せず、$P > 0$ すなわち $a_1 + 2a_2 + \cdots + na_n > 0$ が成り立つ。
解法2
次のような二重和 $T$ を考える。
$$ T = \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n (i - j)(a_i - a_j) $$
$1 \leqq i \leqq n$、$1 \leqq j \leqq n$ において、 $i \geqq j$ のとき、$i - j \geqq 0$ であり、$a_1 \leqq a_2 \leqq \cdots \leqq a_n$ より $a_i - a_j \geqq 0$ となる。したがって $(i - j)(a_i - a_j) \geqq 0$。 $i < j$ のとき、$i - j < 0$ であり、同様に $a_i - a_j \leqq 0$ となる。したがって $(i - j)(a_i - a_j) > 0$。 よって、すべての $i, j$ の組について $(i - j)(a_i - a_j) \geqq 0$ が成り立つので、
$$ T \geqq 0 $$
である。
一方で、$T$ を展開して整理する。
$$ \begin{aligned} T &= \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n (i a_i - j a_i - i a_j + j a_j) \\ &= \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n i a_i - \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n j a_i - \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n i a_j + \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n j a_j \end{aligned} $$
条件 $\sum_{i=1}^n a_i = 0$(すなわち $\sum_{j=1}^n a_j = 0$)を用いると、第2項と第3項はそれぞれ $0$ になる。
$$ \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n j a_i = \left( \sum_{j=1}^n j \right) \left( \sum_{i=1}^n a_i \right) = 0 $$
$$ \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n i a_j = \left( \sum_{i=1}^n i \right) \left( \sum_{j=1}^n a_j \right) = 0 $$
また、第1項と第4項については、
$$ \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n i a_i = \sum_{j=1}^n \left( \sum_{i=1}^n i a_i \right) = n \sum_{i=1}^n i a_i $$
$$ \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n j a_j = \sum_{i=1}^n \left( \sum_{j=1}^n j a_j \right) = n \sum_{j=1}^n j a_j $$
となり、同じ値である。これらを合わせると、
$$ T = 2n \sum_{i=1}^n i a_i $$
となる。$T \geqq 0$ であるから、
$$ 2n \sum_{i=1}^n i a_i \geqq 0 $$
$n$ は自然数なので、
$$ \sum_{i=1}^n i a_i \geqq 0 $$
が成り立つ。
等号成立条件について考える。 $T = 0$ となるのは、すべての $i, j$ の組に対して $(i - j)(a_i - a_j) = 0$ が成り立つときのみである。 $i \neq j$ のときは $i - j \neq 0$ であるから、$a_i - a_j = 0$ でなければならない。 これはすべての項が等しいこと、すなわち $a_1 = a_2 = \cdots = a_n$ を意味する。 このとき、和の条件より $n a_1 = 0$ となり $a_1 = a_2 = \cdots = a_n = 0$ が導かれるが、これは「すべては $0$ でない」という条件に矛盾する。
したがって等号は成立せず、
$$ \sum_{i=1}^n i a_i > 0 $$
すなわち $a_1 + 2a_2 + \cdots + na_n > 0$ が成り立つ。
解説
数列の和や不等式証明における非常に重要で応用範囲の広い考え方を問う問題である。
解法1は、「アーベルの総和法」や「アーベルの変形公式」と呼ばれる手法の考え方に基づいている。単調に増加する係数 $1, 2, \dots, n$ と、総和が $0$ である数列 $a_i$ を切り離し、部分和 $S_k$ を主役にして式を組み替えることで、見通しよく符号を判定できる。
解法2は、「チェビシェフの和の不等式」の証明で用いられる非常に鮮やかな手法である。2つの単調な数列の積の和を考える際、各項同士の大小関係で作った式 $(i - j)(a_i - a_j)$ が常に正(または $0$)になることを利用し、二重和を展開することで条件をあぶり出す。
どちらの解法においても、最後に等号成立条件を吟味し、「すべては $0$ でない」という制約を根拠にして等号を外す論理展開が重要である。
答え
略(解法1の証明を参照)
各解法に示した通り、条件のもとで $a_1 + 2a_2 + \cdots + na_n \geqq 0$ が示され、等号成立条件が $a_1 = a_2 = \cdots = a_n = 0$ のみとなるが、与えられた「すべては $0$ でない」という条件により等号が成立しないため、$a_1 + 2a_2 + \cdots + na_n > 0$ が成り立つ。
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