九州大学 1981年 文系 第3問 解説

方針・初手
(1) は問題文の指示通り、数学的帰納法を用いて証明する。 (2) は組み合わせの記号 ${}_n\mathrm{C}_k$ を階乗を含む形に書き下し、$\frac{1}{k!}$ をくくり出して残りの因数が $1$ 以下であることを示す。さらに (1) の結果を利用する。 (3) は左辺が $(1+x)^n$ の形であるため、二項定理を用いて展開する。展開後の各項に対して (2) で得られた不等式を適用し、等比数列の和を計算して上から評価する。
解法1
(1) $k! \geqq 2^{k-1}$ を (A) とする。
(i) $k=1$ のとき 左辺 $= 1! = 1$ 右辺 $= 2^{1-1} = 2^0 = 1$ よって、左辺 $\geqq$ 右辺 となり成立する。
(ii) $k=m$ ($m$ は正の整数)のとき、(A) が成立すると仮定する。すなわち、
$$m! \geqq 2^{m-1}$$
が成り立つとする。 $k=m+1$ のときを考えると、
$$(m+1)! = (m+1) \cdot m!$$
帰納法の仮定より、
$$(m+1) \cdot m! \geqq (m+1) \cdot 2^{m-1}$$
ここで、$m$ は正の整数より $m \geqq 1$ であるから、$m+1 \geqq 2$ となる。 したがって、
$$(m+1) \cdot 2^{m-1} \geqq 2 \cdot 2^{m-1} = 2^m$$
ゆえに、
$$(m+1)! \geqq 2^{(m+1)-1}$$
となり、$k=m+1$ のときも (A) は成立する。
(i)、(ii) より、すべての正の整数 $k$ に対して $k! \geqq 2^{k-1}$ が成立する。
(2) $\frac{{}_n\mathrm{C}_k}{n^k}$ を展開して変形する。${}_n\mathrm{C}_k = \frac{n(n-1)\cdots(n-k+1)}{k!}$ であるから、
$$\frac{{}_n\mathrm{C}_k}{n^k} = \frac{n(n-1)\cdots(n-k+1)}{k! \cdot n^k}$$
これを次のように分ける。
$$\frac{{}_n\mathrm{C}_k}{n^k} = \frac{1}{k!} \cdot \frac{n}{n} \cdot \frac{n-1}{n} \cdots \frac{n-k+1}{n}$$
$$= \frac{1}{k!} \cdot 1 \cdot \left(1-\frac{1}{n}\right) \cdots \left(1-\frac{k-1}{n}\right)$$
ここで、$1 \leqq k \leqq n$ を満たす整数 $k, n$ において、各項について
$$0 \leqq 1-\frac{j}{n} < 1 \quad (j=1, 2, \dots, k-1)$$
が成り立つ。($k=1$ のときは積の部分は現れないため $1$ とみなす) したがって、
$$1 \cdot \left(1-\frac{1}{n}\right) \cdots \left(1-\frac{k-1}{n}\right) \leqq 1$$
となるから、
$$\frac{{}_n\mathrm{C}_k}{n^k} \leqq \frac{1}{k!}$$
が成り立つ。 さらに、(1) の結果より $k! \geqq 2^{k-1} > 0$ であるから、両辺の逆数をとって
$$\frac{1}{k!} \leqq \frac{1}{2^{k-1}}$$
以上より、
$$\frac{{}_n\mathrm{C}_k}{n^k} \leqq \frac{1}{k!} \leqq \frac{1}{2^{k-1}}$$
となり、$\frac{{}_n\mathrm{C}_k}{n^k} \leqq \frac{1}{2^{k-1}}$ が成立することが示された。
(3) 二項定理より、$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n$ を展開する。
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n = \sum_{k=0}^{n} {}_n\mathrm{C}_k \left(\frac{1}{n}\right)^k \cdot 1^{n-k} = \sum_{k=0}^{n} \frac{{}_n\mathrm{C}_k}{n^k}$$
$k=0$ の項を分離すると、${}_n\mathrm{C}_0 = 1$ より
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n = 1 + \sum_{k=1}^{n} \frac{{}_n\mathrm{C}_k}{n^k}$$
ここで、(2) の結果より $1 \leqq k \leqq n$ において $\frac{{}_n\mathrm{C}_k}{n^k} \leqq \frac{1}{2^{k-1}}$ が成り立つので、
$$1 + \sum_{k=1}^{n} \frac{{}_n\mathrm{C}_k}{n^k} \leqq 1 + \sum_{k=1}^{n} \frac{1}{2^{k-1}}$$
右辺の和 $\sum_{k=1}^{n} \frac{1}{2^{k-1}}$ は、初項 $1$、公比 $\frac{1}{2}$、項数 $n$ の等比数列の和であるから、
$$\sum_{k=1}^{n} \frac{1}{2^{k-1}} = \frac{1 \cdot \left(1 - \left(\frac{1}{2}\right)^n\right)}{1 - \frac{1}{2}} = 2\left(1 - \left(\frac{1}{2}\right)^n\right) = 2 - \left(\frac{1}{2}\right)^{n-1}$$
これを用いると、
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n \leqq 1 + 2 - \left(\frac{1}{2}\right)^{n-1} = 3 - \left(\frac{1}{2}\right)^{n-1}$$
$n$ は正の整数であるから $\left(\frac{1}{2}\right)^{n-1} > 0$ であり、
$$3 - \left(\frac{1}{2}\right)^{n-1} < 3$$
が成り立つ。 したがって、すべての正の整数 $n$ に対して $\left(1+\frac{1}{n}\right)^n < 3$ が成立することが示された。
解説
ネイピア数 $e$ が $3$ より小さいこと、および数列 $a_n = \left(1+\frac{1}{n}\right)^n$ が上に有界であることを示すための有名な誘導問題である。 (1) の階乗を指数関数で評価する不等式や、(2) の二項係数を階乗の逆数で上から抑える変形は、極限や級数の評価において非常に重要な定石である。 (3) では二項定理による展開を行い、各項に対して (2) の不等式を適用することで、全体を等比数列の和として評価し、目標である定数 $3$ 未満を導く。式変形の過程で、$k=0$ の項を分離し、和の記号 $\sum$ の範囲を $k \geqq 1$ とすることに注意が必要である。
答え
(1) 数学的帰納法により証明完了。(詳細は解法1を参照) (2) $\frac{{}_n\mathrm{C}_k}{n^k} = \frac{1}{k!} \cdot 1 \cdot \left(1-\frac{1}{n}\right) \cdots \left(1-\frac{k-1}{n}\right) \leqq \frac{1}{k!}$ と変形し、(1) の結果を用いることで証明完了。(詳細は解法1を参照) (3) 二項定理による展開式に (2) の結果を適用し、等比数列の和の公式を用いることで証明完了。(詳細は解法1を参照)
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