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九州大学 1995年 理系 第1問 解説

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九州大学 1995年 理系 第1問 解説

方針・初手

(1) 直線が「それ自身に移る」ということは、直線上の任意の点が、変換後も同じ直線上にあるということである。直線 $y = \alpha x$ 上の点を $(x, \alpha x)$ とおき、これが変換行列 $A$ によって $(x', \alpha x')$ に移るという関係式を立てることから始める。

(2) 底である $l$ について、$l=1$ と $l \ge 2$ の場合で不等式の扱いが変わるため、まずここで場合分けをする。$l \ge 2$ の場合は指数関数の性質から $mn > m^n$ という自然数の不等式に帰着される。ここからさらに $m$ と $n$ の値で場合分けを行い、不等式を満たす組を絞り込む。

解法1

(1)

直線 $y = \alpha x$ 上の点 $(x, \alpha x)$ が、行列 $A$ の表す1次変換 $f$ によって点 $(x', y')$ に移るとする。

$$\begin{pmatrix} x' \\ y' \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a & b \\ b & c \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x \\ \alpha x \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} (a + b\alpha)x \\ (b + c\alpha)x \end{pmatrix}$$

直線 $y = \alpha x$ がそれ自身に移るため、変換後の点 $(x', y')$ も直線 $y = \alpha x$ 上にある。すなわち、すべての $x$ に対して $y' = \alpha x'$ が成り立つ。

$$(b + c\alpha)x = \alpha(a + b\alpha)x$$

これが任意の $x$ について成り立つための条件は、

$$b + c\alpha = \alpha(a + b\alpha)$$

$$b\alpha^2 + (a - c)\alpha - b = 0$$

直線 $y = \beta x$ についても同様に考えれば、

$$b\beta^2 + (a - c)\beta - b = 0$$

が成り立つ。

条件より $b \neq 0$ であるため、方程式 $bt^2 + (a - c)t - b = 0$ は $t$ についての2次方程式となる。上の2式は、$\alpha$ と $\beta$ がこの2次方程式の解であることを示している。

$\alpha \neq \beta$ であるから、$\alpha, \beta$ はこの2次方程式の異なる2つの実数解である。解と係数の関係より、

$$\alpha\beta = \frac{-b}{b} = -1$$

したがって、2つの直線 $y = \alpha x$ と $y = \beta x$ は直交する。(証明終)

(2)

与えられた不等式は以下の通りである。

$$l^{mn} > l^{m^n}$$

(i) $l=1$ のとき

不等式は $1 > 1$ となり不適。よって、$l \ge 2$ である。

(ii) $l \ge 2$ のとき

底が $1$ より大きいため、真数の不等式は指数の大小関係と一致し、

$$mn > m^n$$

と同値になる。正の整数 $m$ について場合分けを行う。

ア) $m=1$ のとき

$n > 1$ となり、$n$ は正の整数であるから $n \ge 2$ を満たす。

イ) $m \ge 2$ のとき

$n=1$ のとき、$m > m^1 = m$ となり不適。

$n=2$ のとき、$2m > m^2$ より $m(m-2) < 0$ を得るが、$m \ge 2$ を満たす整数 $m$ は存在しない。

$n \ge 3$ のとき、$m = 1+k$ ($k \ge 1$ の整数)とおき、二項定理を用いて $m^n$ を評価する。

$$m^n = (1+k)^n = 1 + nk + \frac{n(n-1)}{2}k^2 + \cdots$$

$n \ge 3, k \ge 1$ より展開式の第3項以降も正であるから、

$$\begin{aligned} m^n &\ge 1 + nk + \frac{n(n-1)}{2}k^2 \\ &\ge 1 + nk + \frac{n(n-1)}{2} \quad (\because k^2 \ge 1) \end{aligned}$$

一方、$mn = n(1+k) = n + nk$ であるから、両者の差をとると、

$$\begin{aligned} m^n - mn &\ge 1 + nk + \frac{n(n-1)}{2} - (n + nk) \\ &= 1 - n + \frac{n^2 - n}{2} \\ &= \frac{n^2 - 3n + 2}{2} \\ &= \frac{(n-1)(n-2)}{2} \end{aligned}$$

$n \ge 3$ のとき $(n-1)(n-2) > 0$ であるから $m^n - mn > 0$ となり、$mn > m^n$ を満たす組は存在しない。

以上より、条件を満たすのは $l \ge 2, m = 1, n \ge 2$ の場合のみである。

解法2

(1)

行列 $A$ が表す1次変換によって直線 $y = \alpha x, y = \beta x$ がそれぞれ自身に移るということは、それぞれの直線の方向ベクトル $\vec{u} = \begin{pmatrix} 1 \\ \alpha \end{pmatrix}, \vec{v} = \begin{pmatrix} 1 \\ \beta \end{pmatrix}$ が行列 $A$ の固有ベクトルであることを意味する。

すなわち、実数 $\lambda, \mu$ が存在して、

$$A\vec{u} = \lambda\vec{u}, \quad A\vec{v} = \mu\vec{v}$$

が成り立つ。

行列 $A$ の固有多項式は、単位行列を $E$ とすると、

$$\begin{aligned} \det(A - tE) &= (a-t)(c-t) - b^2 \\ &= t^2 - (a+c)t + ac - b^2 \end{aligned}$$

この $t$ についての2次方程式の判別式を $D$ とすると、

$$\begin{aligned} D &= (a+c)^2 - 4(ac - b^2) \\ &= (a-c)^2 + 4b^2 \end{aligned}$$

条件より $b \neq 0$ であるため、$D > 0$ となり、行列 $A$ は異なる2つの実数固有値をもつ。したがって $\lambda \neq \mu$ である。

ここで、$(A\vec{u}) \cdot \vec{v}$ を2通りの方法で計算する。

$$(A\vec{u}) \cdot \vec{v} = (\lambda\vec{u}) \cdot \vec{v} = \lambda(\vec{u} \cdot \vec{v})$$

一方、$A$ は対称行列(転置行列 $A^T$ と一致する)であるから、内積の性質より、

$$\begin{aligned} (A\vec{u}) \cdot \vec{v} &= (A\vec{u})^T \vec{v} \\ &= \vec{u}^T A^T \vec{v} \\ &= \vec{u}^T A \vec{v} \\ &= \vec{u} \cdot (A\vec{v}) \\ &= \vec{u} \cdot (\mu\vec{v}) \\ &= \mu(\vec{u} \cdot \vec{v}) \end{aligned}$$

ゆえに、

$$\lambda(\vec{u} \cdot \vec{v}) = \mu(\vec{u} \cdot \vec{v})$$

$$(\lambda - \mu)(\vec{u} \cdot \vec{v}) = 0$$

$\lambda \neq \mu$ であるから、$\vec{u} \cdot \vec{v} = 0$ が成り立つ。

$$\begin{pmatrix} 1 \\ \alpha \end{pmatrix} \cdot \begin{pmatrix} 1 \\ \beta \end{pmatrix} = 1 + \alpha\beta = 0$$

よって $\alpha\beta = -1$ となり、2つの直線は直交する。(証明終)

(2)

(解法1のイ)における $n \ge 2$ の不適の示し方を数学的帰納法で行う別解)

$m \ge 2, n \ge 2$ において、$m^n \ge mn$ が成り立つことを $n$ についての数学的帰納法で示す。

(I) $n=2$ のとき

$$m^2 - 2m = m(m-2) \ge 0 \quad (\because m \ge 2)$$

よって、$m^2 \ge 2m$ が成り立ち、成立する。

(II) $n=k$ ($k \ge 2$)のとき

$m^k \ge km$ が成り立つと仮定する。$n=k+1$ のときを考えると、

$$m^{k+1} = m \cdot m^k \ge m(km) = km^2$$

ここで、$m \ge 2$ より $m^2 \ge 2m$ であるから、

$$\begin{aligned} km^2 &\ge k(2m) = 2km \\ &= km + km \\ &\ge km + 2m \quad (\because k \ge 2) \\ &> km + m = (k+1)m \end{aligned}$$

よって $m^{k+1} > (k+1)m$ となり、$n=k+1$ のときも成立する。

(I), (II) より、$m \ge 2, n \ge 2$ の任意の整数に対して $m^n \ge mn$ が成り立つ。したがって、$m \ge 2$ のときに $mn > m^n$ を満たす正の整数 $n$ は存在しない。

解説

(1) は1次変換(行列による写像)の性質を問う問題である。「直線がそれ自身に移る」という条件を正しく数式化できるかが鍵となる。解法1のように成分で直接計算して解と係数の関係に持ち込むのが高校数学での標準的なアプローチである。解法2は「実対称行列の異なる固有値に対応する固有ベクトルは直交する」という有名な定理そのものを証明する形になっている。

(2) は指数を含む不等式の整数解を求める問題である。底と指数のどちらで場合分けを行うか迷うかもしれないが、底 $l$ が $1$ か $2$ 以上かで明確に性質が変わるため、まず $l$ で場合分けを行うのが定石である。その後は $mn > m^n$ の評価となるが、$m^n$ の増大度の方が高いため、$m \ge 2, n \ge 3$ 程度で大小関係が確定することに気づきたい。不等式の証明手段としては、解法1の二項定理や解法2の数学的帰納法が有効である。

答え

(1) 略(解法に記載)

(2) $(l, m, n) = (l, 1, n)$ (ただし、$l$ と $n$ は2以上の整数)

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