名古屋大学 1976年 文系 第1問 解説

方針・初手
(1) は階乗の比で表された式をいかに評価するかが問われている。中央の式が二項係数 ${}_{2n}\mathrm{C}_{n}$ と一致することに着目して二項定理を用いるか、式を積の形に書き下して各項を直接評価することで証明できる。また、自然数 $n$ に関する不等式であるため、数学的帰納法も有効な手立てとなる。
(2) は条件付きの多変数関数の最大・最小問題である。与えられた条件式と目的式を見比べると、各変数 $x_k$ は必ず $x_k^2$ の形で現れている。したがって $x_k^2$ をひとかたまりと捉え、各項の係数の大きさに着目して不等式を評価すればよい。
解法1
(1)
中央の式を二項係数を用いて表すと以下のようになる。
$$ \frac{(2n)!}{(n!)^2} = {}_{2n}\mathrm{C}_{n} $$
右側の不等式 $\frac{(2n)!}{(n!)^2} < 2^{2n}$ を示す。二項定理より以下の式が成り立つ。
$$ (1+1)^{2n} = \sum_{k=0}^{2n} {}_{2n}\mathrm{C}_{k} $$
$$ 2^{2n} = {}_{2n}\mathrm{C}_{0} + \cdots + {}_{2n}\mathrm{C}_{n} + \cdots + {}_{2n}\mathrm{C}_{2n} $$
$n \ge 2$ のとき、右辺には ${}_{2n}\mathrm{C}_{n}$ 以外にも正の項が複数存在する。各二項係数は正であるため、全体から特定の項を取り出したものより和のほうが真に大きくなる。
$$ 2^{2n} > {}_{2n}\mathrm{C}_{n} $$
よって、右側の不等式が示された。
次に、左側の不等式 $2^n < \frac{(2n)!}{(n!)^2}$ を示す。中央の式を積の形で書き下す。
$$ \frac{(2n)!}{(n!)^2} = \frac{2n \cdot (2n-1) \cdots (n+1)}{n \cdot (n-1) \cdots 1} $$
$$ \frac{(2n)!}{(n!)^2} = \prod_{k=1}^n \frac{n+k}{k} = \prod_{k=1}^n \left( 1 + \frac{n}{k} \right) $$
各項において、$1 \le k \le n$ であるから $\frac{n}{k} \ge 1$ であり、以下の不等式が成り立つ。
$$ 1 + \frac{n}{k} \ge 2 $$
等号が成立するのは $k=n$ のときのみである。$n \ge 2$ のとき、$k=1, 2, \dots, n-1$ となる項が必ず存在し、それらの項については $1 + \frac{n}{k} > 2$ となる。したがって、積全体では以下のように真の不等式となる。
$$ \prod_{k=1}^n \left( 1 + \frac{n}{k} \right) > \prod_{k=1}^n 2 = 2^n $$
よって、左側の不等式も示された。以上より、与えられた不等式は証明された。
(2)
すべての $k \ (1 \le k \le n)$ について $x_k^2 \ge 0$ であり、各項の係数は $k$ である。これより、各 $k$ について以下の不等式が成り立つ。
$$ 1 \cdot x_k^2 \le k x_k^2 \le n x_k^2 $$
これらの不等式を $k=1$ から $n$ まで足し合わせる。
$$ \sum_{k=1}^n x_k^2 \le \sum_{k=1}^n k x_k^2 \le \sum_{k=1}^n n x_k^2 $$
中央の式は求める式 $x_1^2 + 2x_2^2 + \cdots + nx_n^2$ である。また、条件 $x_1^2 + x_2^2 + \cdots + x_n^2 = 1$ より、両端の式はそれぞれ以下のようになる。
$$ \sum_{k=1}^n x_k^2 = 1 $$
$$ \sum_{k=1}^n n x_k^2 = n \sum_{k=1}^n x_k^2 = n \cdot 1 = n $$
したがって、求める式の値の範囲は以下のようになる。
$$ 1 \le x_1^2 + 2x_2^2 + \cdots + nx_n^2 \le n $$
左側の等号が成立するのは、上の各項の評価において $1 \cdot x_1^2$ 以外がすべて $0$ になるとき、すなわち $x_1^2 = 1$ かつ $x_2^2 = \dots = x_n^2 = 0$ のときである。実数条件から $x_1 = \pm 1, x_2 = \dots = x_n = 0$ であり、これは確かに条件を満たす。
右側の等号が成立するのは、各項の評価において $n x_n^2$ 以外がすべて $0$ になるとき、すなわち $x_n^2 = 1$ かつ $x_1^2 = \dots = x_{n-1}^2 = 0$ のときである。実数条件から $x_n = \pm 1, x_1 = \dots = x_{n-1} = 0$ であり、これも条件を満たす。
以上より、最大値と最小値が求まる。
解法2
(1) の別解(数学的帰納法による証明)
数学的帰納法を用いて $2^n < \frac{(2n)!}{(n!)^2} < 2^{2n}$ を証明する。
[I] $n=2$ のとき
左辺は $2^2 = 4$ である。
中辺は以下のようになる。
$$ \frac{4!}{(2!)^2} = \frac{24}{4} = 6 $$
右辺は $2^4 = 16$ である。
$4 < 6 < 16$ となるため、$n=2$ のとき不等式は成り立つ。
[II] $n=k \ (k \ge 2)$ のとき、不等式が成り立つと仮定する。
$$ 2^k < \frac{(2k)!}{(k!)^2} < 2^{2k} $$
$n=k+1$ のときの中辺は、以下のように変形できる。
$$ \begin{aligned} \frac{(2(k+1))!}{((k+1)!)^2} &= \frac{(2k+2)!}{(k+1)^2 (k!)^2} \\ &= \frac{(2k+2)(2k+1)}{(k+1)^2} \cdot \frac{(2k)!}{(k!)^2} \\ &= \frac{2(2k+1)}{k+1} \cdot \frac{(2k)!}{(k!)^2} \end{aligned} $$
右側の不等式について、帰納法の仮定より以下の式が成り立つ。
$$ \frac{2(2k+1)}{k+1} \cdot \frac{(2k)!}{(k!)^2} < \frac{2(2k+1)}{k+1} \cdot 2^{2k} $$
ここで、係数部分について $k > 0$ より以下の評価ができる。
$$ \frac{2(2k+1)}{k+1} = \frac{4k+2}{k+1} < \frac{4k+4}{k+1} = 4 $$
したがって、以下のように右側の不等式が成り立つ。
$$ \frac{2(2k+1)}{k+1} \cdot 2^{2k} < 4 \cdot 2^{2k} = 2^{2k+2} = 2^{2(k+1)} $$
左側の不等式について、帰納法の仮定より以下の式が成り立つ。
$$ \frac{2(2k+1)}{k+1} \cdot \frac{(2k)!}{(k!)^2} > \frac{2(2k+1)}{k+1} \cdot 2^k $$
係数部分について、以下のように変形できる。
$$ \frac{2(2k+1)}{k+1} = \frac{4k+2}{k+1} = 4 - \frac{2}{k+1} $$
$k \ge 2$ より $\frac{2}{k+1} \le \frac{2}{3}$ であるから、以下の評価ができる。
$$ 4 - \frac{2}{k+1} \ge 4 - \frac{2}{3} = \frac{10}{3} > 2 $$
したがって、以下のように左側の不等式が成り立つ。
$$ \frac{2(2k+1)}{k+1} \cdot 2^k > 2 \cdot 2^k = 2^{k+1} $$
以上より、$n=k+1$ のときも不等式が成り立つ。
[I], [II] より、1より大きいすべての自然数 $n$ について不等式が成り立つことが示された。
解説
(1) のような階乗や二項係数を含む不等式の証明では、式を書き下して積や和の形から各項の大小を直接比較するアプローチと、漸化式のように $n$ と $n+1$ の関係を作り出して数学的帰納法に持ち込むアプローチの2つが典型である。どちらの方針を選ぶにせよ、等号が成立しない厳密な不等式 ($<, >$) である理由(どの項で不等号が効いてくるか)をはっきりと言及する必要がある。
(2) は文字の個数が $n$ 個と多く一見して複雑だが、$x_k^2 = y_k$ とおいてみると $y_k \ge 0$, $\sum y_k = 1$ という単純な条件下での一次式の最大・最小に帰着する。各変数の取りうる範囲と係数の最大・最小に気づけば、高度な不等式を用いずとも容易に評価できる。等号成立条件の確認を忘れないようにしたい。
答え
(1) (証明は解法に記載の通り)
(2) 最大値 $n$ 、最小値 $1$
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