名古屋大学 1981年 文系 第3問 解説

方針・初手
$10^n - l$ を $10$ 進数で表したときの各桁の数字がどうなるかを考えます。 直接引き算を考える代わりに、$10^n - l = (10^n - 1) - l + 1$ と変形することで、すべての桁が $9$ の数からの引き算と、最後に $1$ を加える操作に分けるのが定石です。 $l$ を下の桁から見たときに、初めて $0$ でない数字が現れる桁に着目し、そこで $1$ の加算による繰り上がりが吸収されることを数式で表現します。
解法1
$l = \sum_{k=0}^{n-1} 10^k a_k$ ($0 \leqq a_k \leqq 9$)とします。 $l \geqq 1$ より、すべての $a_k$ が $0$ になることはありません。 よって、$a_k \neq 0$ となる最小の整数 $k$ を $p$ ($0 \leqq p \leqq n-1$)とします。 すなわち、$a_0 = a_1 = \dots = a_{p-1} = 0$ かつ $a_p \neq 0$ です。 このとき、$p$ の値によって場合分けをして $10^n - l$ の各桁を調べます。
(i) $0 \leqq p \leqq n-2$ のとき
$l$ は次のように表されます。
$$l = a_p 10^p + \sum_{k=p+1}^{n-1} a_k 10^k$$
次に、$10^n - l$ を計算します。 $10^n - 1 = \sum_{k=0}^{n-1} 9 \cdot 10^k$ (すべての桁が $9$ の $n$ 桁の数)であることを用いると、次のように変形できます。
$$\begin{aligned} 10^n - l &= (10^n - 1) - l + 1 \\ &= \sum_{k=0}^{n-1} 9 \cdot 10^k - \left( a_p 10^p + \sum_{k=p+1}^{n-1} a_k 10^k \right) + 1 \\ &= \sum_{k=0}^{p-1} 9 \cdot 10^k + 1 + (9 - a_p) 10^p + \sum_{k=p+1}^{n-1} (9 - a_k) 10^k \end{aligned}$$
ここで、$\sum_{k=0}^{p-1} 9 \cdot 10^k = 10^p - 1$ を用いると、$\sum_{k=0}^{p-1} 9 \cdot 10^k + 1 = 10^p$ となります。 これを代入して整理します。
$$\begin{aligned} 10^n - l &= 10^p + (9 - a_p) 10^p + \sum_{k=p+1}^{n-1} (9 - a_k) 10^k \\ &= (10 - a_p) 10^p + \sum_{k=p+1}^{n-1} (9 - a_k) 10^k \end{aligned}$$
$a_p \neq 0$ より $1 \leqq a_p \leqq 9$ であるから、$1 \leqq 10 - a_p \leqq 9$ を満たします。 また、$p+1 \leqq k \leqq n-1$ において $0 \leqq 9 - a_k \leqq 9$ を満たします。 したがって、これが $10^n - l$ の $10$ 進数展開そのものです。 $s(l)$ と $s(10^n - l)$ はそれぞれ各桁の数字の和であるから、次のようになります。
$$\begin{aligned} s(l) &= a_p + \sum_{k=p+1}^{n-1} a_k \\ s(10^n - l) &= (10 - a_p) + \sum_{k=p+1}^{n-1} (9 - a_k) \end{aligned}$$
これらを足し合わせます。
$$\begin{aligned} s(l) + s(10^n - l) &= (a_p + 10 - a_p) + \sum_{k=p+1}^{n-1} (a_k + 9 - a_k) \\ &= 10 + \sum_{k=p+1}^{n-1} 9 \\ &= 10 + 9 \{(n - 1) - (p + 1) + 1\} \\ &= 10 + 9(n - 1 - p) \end{aligned}$$
(ii) $p = n-1$ のとき
$l = a_{n-1} 10^{n-1}$ と表されます。 このとき、$10^n - l$ は次のように計算できます。
$$10^n - l = 10^n - a_{n-1} 10^{n-1} = (10 - a_{n-1}) 10^{n-1}$$
$1 \leqq a_{n-1} \leqq 9$ より、$1 \leqq 10 - a_{n-1} \leqq 9$ となり、各桁の和はそのまま係数になります。
$$\begin{aligned} s(l) &= a_{n-1} \\ s(10^n - l) &= 10 - a_{n-1} \end{aligned}$$
これらを足し合わせると、次のようになります。
$$s(l) + s(10^n - l) = a_{n-1} + (10 - a_{n-1}) = 10$$
これは (i) で得られた式 $10 + 9(n - 1 - p)$ に $p = n-1$ を代入した値と一致します。
以上の (i), (ii) より、すべての $0 \leqq p \leqq n-1$ について
$$s(l) + s(10^n - l) = 10 + 9(n - 1 - p)$$
が成り立ちます。 $n$ は固定された自然数であるから、この値が最小となるのは $p$ が最大のとき、すなわち $p = n-1$ のときです。 このとき、最小値は $10 + 9 \cdot 0 = 10$ となります。
また、最小値をとるときの $l$ の条件は $p = n-1$、すなわち $a_0 = a_1 = \dots = a_{n-2} = 0$ かつ $a_{n-1} \neq 0$ です。 したがって、$l = a_{n-1} 10^{n-1}$ と表され、$1 \leqq a_{n-1} \leqq 9$ の整数であるから、求める自然数 $l$ は $c \cdot 10^{n-1}$ ($c = 1, 2, \dots, 9$)の形のものに限られます。
解法2
一般に、$2$ つの自然数 $A, B$ について、和 $A+B$ を筆算で計算する際に生じる繰り上がりの回数を $k$ とすると、各桁の数字の和 $s(\cdot)$ について次の等式が成り立つことが知られています。
$$s(A+B) = s(A) + s(B) - 9k$$
(ある位で和が $10$ 以上になり上の位へ $1$ 繰り上がるたびに、計算結果の各位の数字の和は $10 - 1 = 9$ だけ減少するためです。)
本問において、$A = l, B = 10^n - l$ とすると、$A+B = 10^n$ です。 $s(10^n) = 1$ であるから、上記の等式に代入すると、
$$1 = s(l) + s(10^n - l) - 9k$$
よって、次のように表せます。
$$s(l) + s(10^n - l) = 9k + 1$$
この値が最小となるのは、繰り上がりの回数 $k$ が最小となるときです。 $l \geqq 1, 10^n - l \geqq 1$ であり、これらを足して $n+1$ 桁の数 $10^n$ になるためには、少なくとも最上位($10^{n-1}$ の位から $10^n$ の位への)の繰り上がりが $1$ 回は必要です。 ゆえに、$k \geqq 1$ であるから、最小値は $k=1$ のときの $9 \cdot 1 + 1 = 10$ となります。
$k=1$ となる条件、すなわち繰り上がりがちょうど $1$ 回だけ生じる条件を考えます。 和が $10^n$ となるから、$10^{n-1}$ の位から $10^n$ の位への繰り上がりは必須です。 したがって、それより下位の位($10^0$ の位から $10^{n-2}$ の位)においては一切繰り上がりが生じてはなりません。 和の各桁が $0$ であることと、下位からの繰り上がりがないことから、これらの位における $l$ の数字はすべて $0$ でなければなりません。 よって、$l$ は $10^{n-1}$ の倍数です。 $1 \leqq l \leqq 10^n - 1$ の範囲でこれを満たすのは、$l = c \cdot 10^{n-1}$ ($c = 1, 2, \dots, 9$)のときです。 逆にこのとき、
$$10^n - l = 10^n - c \cdot 10^{n-1} = (10 - c) \cdot 10^{n-1}$$
となり、足し算 $c \cdot 10^{n-1} + (10 - c) \cdot 10^{n-1}$ は $10^{n-1}$ の位でのみ繰り上がりが生じるため、確かに $k=1$ を満たします。
解説
各桁の和を考える問題において、$10^n - 1$ ($99\dots9$)を経由する引き算の処理は定石です。解法1のように、最下位から見て初めて現れる $0$ でない桁を基準に数式を立てることで、厳密に処理できます。
また、解法2で示した繰り上がり回数と桁の和の関係式 $s(x+y) = s(x) + s(y) - 9k$ は、整数問題において非常に有用な性質であり、難関大学でしばしば背景知識として問われます。これを使いこなせると、見通しよく解答を構成することができます。
答え
最小値: $10$
最小値を与える自然数 $l$: $c \cdot 10^{n-1}$ ($c$ は $1, 2, 3, \dots, 9$ の整数)
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