名古屋大学 1980年 理系 第1問 解説

方針・初手
(1) は行列の累乗の計算問題である。定義に従って $A^2, A^3$ を順に計算し、与えられた $A^3$ の成分と比較して $b$ を求める方法と、ケーリー・ハミルトンの定理を用いて次数下げを行う方法が考えられる。
(2) は (1) で求めた $b$ の式に対して、$a > 0$ の範囲での最大値を求める問題である。式に変数が逆数の形で含まれていることに着目し、相加平均と相乗平均の大小関係を利用するのが最も簡明である。また、関数とみなして微分法を用いて増減を調べることもできる。
解法1
(1)
行列 $A$ の累乗を順に計算する。
$$ \begin{aligned} A^2 &= \begin{pmatrix} a & b \\ 0 & \frac{1}{a} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a & b \\ 0 & \frac{1}{a} \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} a^2 & ab + \frac{b}{a} \\ 0 & \frac{1}{a^2} \end{pmatrix} \end{aligned} $$
さらに $A^3$ を計算する。
$$ \begin{aligned} A^3 &= A^2 A \\ &= \begin{pmatrix} a^2 & ab + \frac{b}{a} \\ 0 & \frac{1}{a^2} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a & b \\ 0 & \frac{1}{a} \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} a^3 & a^2 b + \left( ab + \frac{b}{a} \right) \frac{1}{a} \\ 0 & \frac{1}{a^3} \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} a^3 & a^2 b + b + \frac{b}{a^2} \\ 0 & \frac{1}{a^3} \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} a^3 & b \left( a^2 + 1 + \frac{1}{a^2} \right) \\ 0 & \frac{1}{a^3} \end{pmatrix} \end{aligned} $$
条件より、この行列が $\begin{pmatrix} a^3 & 1 \\ 0 & \frac{1}{a^3} \end{pmatrix}$ と等しいので、$(1, 2)$ 成分を比較して次式を得る。
$$ b \left( a^2 + 1 + \frac{1}{a^2} \right) = 1 $$
行列 $A$ が定義されることから $a \neq 0$ であり、$a^2 > 0, \frac{1}{a^2} > 0$ であるため、常に $a^2 + 1 + \frac{1}{a^2} > 0$ である。よって両辺をこれで割ることができ、$b$ を $a$ の式で表すと次のようになる。
$$ b = \frac{1}{a^2 + 1 + \frac{1}{a^2}} $$
(2)
(1) で求めた $b$ の式について、$a > 0$ における最大値を求める。 分母の式 $a^2 + 1 + \frac{1}{a^2}$ の最小値を考えればよい。
$a > 0$ より $a^2 > 0$ および $\frac{1}{a^2} > 0$ であるから、相加平均と相乗平均の大小関係より次の不等式が成り立つ。
$$ a^2 + \frac{1}{a^2} \geqq 2 \sqrt{a^2 \cdot \frac{1}{a^2}} = 2 $$
等号が成立するのは $a^2 = \frac{1}{a^2}$ のとき、すなわち $a^4 = 1$ のときである。$a > 0$ であるから $a = 1$ のときに等号が成立する。
したがって、分母について以下の不等式が成り立つ。
$$ a^2 + 1 + \frac{1}{a^2} \geqq 2 + 1 = 3 $$
分母の最小値が $3$ であるから、$b$ の値は次の範囲となる。
$$ b = \frac{1}{a^2 + 1 + \frac{1}{a^2}} \leqq \frac{1}{3} $$
よって、$b$ の最大値は $\frac{1}{3}$ である。
解法2
(1)
行列 $A$ に対してケーリー・ハミルトンの定理を適用する。単位行列を $E$ とすると次が成り立つ。
$$ A^2 - \left( a + \frac{1}{a} \right) A + \left( a \cdot \frac{1}{a} - b \cdot 0 \right) E = O $$
$$ A^2 - \left( a + \frac{1}{a} \right) A + E = O $$
これより、$A^2$ を $A$ で表すことができる。
$$ A^2 = \left( a + \frac{1}{a} \right) A - E $$
両辺に $A$ を掛けて $A^3$ を求める。
$$ \begin{aligned} A^3 &= \left( a + \frac{1}{a} \right) A^2 - A \\ &= \left( a + \frac{1}{a} \right) \left\{ \left( a + \frac{1}{a} \right) A - E \right\} - A \\ &= \left\{ \left( a + \frac{1}{a} \right)^2 - 1 \right\} A - \left( a + \frac{1}{a} \right) E \\ &= \left( a^2 + 1 + \frac{1}{a^2} \right) A - \left( a + \frac{1}{a} \right) E \end{aligned} $$
右辺の $(1, 2)$ 成分を計算する。$E$ の $(1, 2)$ 成分は $0$ であるから、$A$ の $(1, 2)$ 成分である $b$ を用いて次のように表される。
$$ \left( a^2 + 1 + \frac{1}{a^2} \right) b $$
これが条件で与えられた $A^3$ の $(1, 2)$ 成分である $1$ と等しいので、以下の式を得る。
$$ b \left( a^2 + 1 + \frac{1}{a^2} \right) = 1 $$
したがって、$b$ は次のように求まる。
$$ b = \frac{1}{a^2 + 1 + \frac{1}{a^2}} $$
(2)
(1) より、$b = \frac{1}{f(a)}$ (ただし $f(a) = a^2 + 1 + \frac{1}{a^2}$)と表せる。$b$ を最大にするには、$f(a)$ を最小にすればよい。
$f(a)$ を微分して増減を調べる。
$$ \begin{aligned} f'(a) &= 2a - \frac{2}{a^3} \\ &= \frac{2a^4 - 2}{a^3} \\ &= \frac{2(a^2 + 1)(a+1)(a-1)}{a^3} \end{aligned} $$
$a > 0$ の範囲において、$a^2 + 1 > 0, a+1 > 0, a^3 > 0$ であるため、$f'(a)$ の符号は $a-1$ の符号と一致する。したがって、増減表は次のようになる。
$$ \begin{array}{c|c|c|c|c} a & (0) & \cdots & 1 & \cdots \\ \hline f'(a) & & - & 0 & + \\ \hline f(a) & & \searrow & 3 & \nearrow \end{array} $$
増減表より、$f(a)$ は $a=1$ のとき最小値 $3$ をとる。
よって、$b = \frac{1}{f(a)}$ の最大値は $\frac{1}{3}$ である。
解説
行列の累乗計算と、最大値・最小値問題の基本的な融合問題である。
(1) では、2次正方行列の3乗程度であれば、解法1のように成分を直接計算しても十分に素早く解答できる。ケーリー・ハミルトンの定理(解法2)を用いると、行列の積の計算ミスを減らしやすくなるため、どちらの手法も身につけておきたい。
(2) では、分母に $a^2$ と $\frac{1}{a^2}$ という逆数同士の和が現れるため、「相加平均と相乗平均の大小関係」を第一手として発想できるかが鍵となる。微分(解法2)でも確実に解けるが、計算の手間を考慮すると相加相乗平均を用いる方が鮮やかでミスも少ない。相加相乗平均を用いる際は、変数が正であることの確認と、等号成立条件の確認を必ず記述すること。
答え
(1) $$ b = \frac{1}{a^2 + 1 + \frac{1}{a^2}} \quad \left( b = \frac{a^2}{a^4 + a^2 + 1} も可 \right) $$
(2) $$ \frac{1}{3} $$
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