東京大学 1976年 文系 第4問 解説

方針・初手
(i) は、集合 $R$ に属する2つの行列を文字で置き、その積を計算する。その際、$A^2$ をケーリー・ハミルトンの定理を用いて $A$ と $I$ の1次結合で表すことで、積も $xI + yA$ の形になることを示す。
(ii) は、$G$ に属する行列 $xI + yA$ の行列式が、$(x, y) \neq (0, 0)$ なる任意の実数 $x, y$ に対して $0$ にならない条件を求める。行列式を $x, y$ の2次同次式として捉え、実数解を持たない条件へと帰着させる。
解法1
(i)
$R$ に属する任意の2つの行列を $X, Y$ とすると、実数 $x_1, y_1, x_2, y_2$ を用いて以下のように表せる。
$$ X = x_1 I + y_1 A $$
$$ Y = x_2 I + y_2 A $$
これらの積 $XY$ を計算すると、以下のようになる。
$$ XY = (x_1 I + y_1 A)(x_2 I + y_2 A) $$
$$ = x_1 x_2 I + (x_1 y_2 + x_2 y_1) A + y_1 y_2 A^2 $$
ここで、行列 $A = \begin{pmatrix} 0 & a \\ 1 & b \end{pmatrix}$ に対してケーリー・ハミルトンの定理を用いると、以下の等式が成り立つ。
$$ A^2 - (0 + b)A + (0 \cdot b - a \cdot 1)I = O $$
$$ A^2 - bA - aI = O $$
$$ A^2 = aI + bA $$
これを先ほどの積の式に代入する。
$$ XY = x_1 x_2 I + (x_1 y_2 + x_2 y_1) A + y_1 y_2 (aI + bA) $$
$$ = (x_1 x_2 + a y_1 y_2) I + (x_1 y_2 + x_2 y_1 + b y_1 y_2) A $$
$x_1, x_2, y_1, y_2, a, b$ はすべて実数であるから、$x_1 x_2 + a y_1 y_2$ および $x_1 y_2 + x_2 y_1 + b y_1 y_2$ も実数となる。
したがって、積 $XY$ は $xI + yA$($x, y$ は実数)の形に表されるため、集合 $R$ に属することが示された。
(ii)
$G$ に属する行列 $X = xI + yA$ は、$R$ から $O$ を除いた集合の要素であるため、$(x, y) \neq (0, 0)$ である。
$X$ を成分で表すと、以下のようになる。
$$ X = x \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} + y \begin{pmatrix} 0 & a \\ 1 & b \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} x & ay \\ y & x + by \end{pmatrix} $$
行列 $X$ が逆行列をもつための条件は、その行列式 $\det(X)$ が $0$ でないことである。
$$ \det(X) = x(x + by) - ay \cdot y = x^2 + bxy - ay^2 $$
「$G$ に属する任意の行列が逆行列をもつ」ということは、$(x, y) \neq (0, 0)$ を満たす任意の実数 $x, y$ に対して、$\det(X) \neq 0$ が成り立つことである。
これは、方程式 $\det(X) = 0$ すなわち $x^2 + bxy - ay^2 = 0$ が $(x, y) = (0, 0)$ 以外の実数解を持たないことと同値である。
$y = 0$ のとき、$(x, y) \neq (0, 0)$ より $x \neq 0$ である。このとき、$\det(X) = x^2 > 0$ となり、$\det(X) \neq 0$ は常に成り立つ。
$y \neq 0$ のとき、$\det(X) = 0$ の両辺を $y^2$ で割ると以下のようになる。
$$ \left(\frac{x}{y}\right)^2 + b \left(\frac{x}{y}\right) - a = 0 $$
ここで $t = \frac{x}{y}$ とおくと、$t$ は実数全体をとりうる。
$$ t^2 + bt - a = 0 $$
任意の $y \neq 0$ に対して $\det(X) \neq 0$ となるためには、この $t$ についての2次方程式が実数解を持たなければよい。
したがって、この2次方程式の判別式を $D$ とすると、$D < 0$ が条件となる。
$$ D = b^2 - 4 \cdot 1 \cdot (-a) = b^2 + 4a < 0 $$
これを整理して、求める条件は以下の不等式となる。
$$ a < - \frac{1}{4} b^2 $$
解説
2次正方行列の集合が和や実数倍、さらに積について閉じているかという、抽象代数学の「環」や「体」を背景にした行列の典型問題である。
(i) はケーリー・ハミルトンの定理を用いて高次の行列を1次以下に下げる基本的な計算操作ができれば容易に示せる。
(ii) は「任意の行列が逆行列をもつ」という条件を、行列式 $\det(X) \neq 0$ に言い換え、さらに2変数の2次同次式 $x^2 + bxy - ay^2 = 0$ が $(0,0)$ 以外の自明でない実数解を持たない条件へと帰着させる。変数を1つにまとめる($y^2$ で割って $\frac{x}{y}$ を作る)処理は、同次式の扱いとして定石である。
図示の際は、横軸と縦軸の取り方に注意する。一般に点 $(a, b)$ の領域を図示する場合は、横軸を $a$ 軸、縦軸を $b$ 軸にとることが多いため、式が $a = f(b)$ の形をしていることに留意して放物線の向きを間違えないようにする。
答え
(i)
略(解法1の証明を参照)
(ii)
点 $(a, b)$ のある範囲は、不等式 $a < - \frac{1}{4} b^2$ を満たす領域である。
図示すると、横軸を $a$ 軸、縦軸を $b$ 軸とする座標平面上において、原点を頂点とし $a$ 軸の負の方向へ開く放物線 $a = - \frac{1}{4} b^2$ (または $b^2 = -4a$)の左側の領域となる。境界線は含まない。
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