東京大学 1997年 理系 第2問 解説

方針・初手
与えられた不等式が「すべての整数 $m$ に対して」成り立つような実数 $a$ の条件を求める問題である。
変数が整数に限定されているため、左辺を $m$ の2次関数とみて判別式を用いる(実数全体での成立条件を求める)アプローチでは、軸の位置によって最小値をとる整数 $m$ が変わり、場合分けが非常に煩雑になる。
そこで、不等式を $a$ について整理し、$a$ の1次不等式として捉え直す方針が有効である。あるいは、$m$ に特定の値を代入して $a$ の必要条件を絞り込み、それが十分条件でもあることを示すアプローチも強力である。
解法1
与えられた不等式を展開し、$a$ について整理する。
$$ m^2 - am + m + \frac{n^2}{2n+1}a > 0 $$
$$ a \left( m - \frac{n^2}{2n+1} \right) < m(m+1) \quad \cdots (1) $$
ここで、$4n^2 = (2n-1)(2n+1) + 1$ であり、$n$ は正の整数であるから $2n+1 \ge 3$ である。このことから、$4n^2$ は $2n+1$ で割り切れないため、$n^2$ も $2n+1$ で割り切れない。したがって $\frac{n^2}{2n+1}$ は整数ではなく、$m - \frac{n^2}{2n+1} = 0$ となる整数 $m$ は存在しない。
すべての整数 $m$ に対して (1) が成り立つための $a$ の条件を、$m - \frac{n^2}{2n+1}$ の符号で場合分けして求める。
(i)
$m < \frac{n^2}{2n+1}$ を満たす整数 $m$ のとき
$m - \frac{n^2}{2n+1} < 0$ であるから、(1) の両辺をこれで割ると
$$ a > \frac{m(m+1)}{m - \frac{n^2}{2n+1}} $$
これが範囲内のすべての整数 $m$ で成り立つためには、$a$ は右辺の最大値より大きければよい。右辺を $h(m)$ とおくと、分母は常に負である。 $m \le -1$ のとき、$m(m+1) \ge 0$ より $h(m) \le 0$ である。また $m=0$ のとき、$h(0) = 0$ である。 $0 < m < \frac{n^2}{2n+1}$ なる整数 $m$ が存在する場合、$m(m+1) > 0$ より $h(m) < 0$ である。 したがって、$h(m)$ は $m=0, -1$ のとき最大値 $0$ をとる。ゆえに
$$ a > 0 $$
(ii)
$m > \frac{n^2}{2n+1}$ を満たす整数 $m$ のとき
$m - \frac{n^2}{2n+1} > 0$ であるから、(1) の両辺をこれで割ると
$$ a < \frac{m(m+1)}{m - \frac{n^2}{2n+1}} $$
これが範囲内のすべての整数 $m$ で成り立つためには、$a$ は右辺の最小値より小さければよい。右辺を $k = \frac{n^2}{2n+1}$ を用いて変形する。
$$ \begin{aligned} \frac{m(m+1)}{m - k} &= \frac{(m-k)^2 + (2k+1)(m-k) + k^2+k}{m-k} \\ &= (m-k) + \frac{k(k+1)}{m-k} + 2k + 1 \end{aligned} $$
$m-k > 0$ かつ $k(k+1) > 0$ であるから、相加平均と相乗平均の大小関係より
$$ (m-k) + \frac{k(k+1)}{m-k} \ge 2\sqrt{k(k+1)} $$
等号が成立するのは $m-k = \sqrt{k(k+1)}$ のときである。ここで、
$$ k(k+1) = \frac{n^2}{2n+1} \left( \frac{n^2}{2n+1} + 1 \right) = \frac{n^2(n+1)^2}{(2n+1)^2} $$
であるから、$\sqrt{k(k+1)} = \frac{n(n+1)}{2n+1}$ となる。等号成立条件は
$$ m - \frac{n^2}{2n+1} = \frac{n(n+1)}{2n+1} \iff m = \frac{n^2 + n^2 + n}{2n+1} = n $$
$n$ は正の整数であり、$n > \frac{n^2}{2n+1}$ を満たすため、条件に適する。 したがって、$m=n$ のとき右辺は最小値をとる。その最小値は
$$ \frac{n(n+1)}{n - \frac{n^2}{2n+1}} = \frac{n(n+1)}{\frac{n(n+1)}{2n+1}} = 2n+1 $$
ゆえに
$$ a < 2n+1 $$
(i), (ii) より、求める $a$ の範囲は $0 < a < 2n+1$ である。
解法2
与式を $F(m) > 0$ とする。
$$ F(m) = m^2 - (a-1)m + \frac{n^2}{2n+1}a $$
[必要条件]
すべての整数 $m$ に対して $F(m) > 0$ が成り立つならば、特定の整数 $m=0, n$ についても成り立つ。
$m=0$ のとき、$F(0) = \frac{n^2}{2n+1}a > 0$ であり、$n$ は正の整数より $\frac{n^2}{2n+1} > 0$ であるから
$$ a > 0 $$
$m=n$ のとき、$F(n) > 0$ より
$$ \begin{aligned} F(n) &= n^2 - (a-1)n + \frac{n^2}{2n+1}a \\ &= n(n+1) - a\left( n - \frac{n^2}{2n+1} \right) \\ &= n(n+1) - a\frac{n(n+1)}{2n+1} > 0 \end{aligned} $$
$n(n+1) > 0$ であるから、両辺を割って
$$ 1 - \frac{a}{2n+1} > 0 \iff a < 2n+1 $$
よって、$0 < a < 2n+1$ が必要である。
[十分条件]
逆に $0 < a < 2n+1$ のとき、すべての整数 $m$ に対して $F(m) > 0$ となることを示す。$F(m)$ を $a$ について整理すると
$$ F(m) = a\left( \frac{n^2}{2n+1} - m \right) + m(m+1) $$
これを $a$ の1次関数(または定数関数)とみて $g_m(a)$ とおく。$a$ の区間 $[0, 2n+1]$ の両端点における $g_m(a)$ の値は
$$ g_m(0) = m(m+1) $$
$$ \begin{aligned} g_m(2n+1) &= (2n+1)\left( \frac{n^2}{2n+1} - m \right) + m(m+1) \\ &= n^2 - (2n+1)m + m^2 + m \\ &= m^2 - 2nm + n^2 = (n-m)^2 \end{aligned} $$
$g_m(a)$ は $a$ の1次式であるから、区間 $0 < a < 2n+1$ 上の値は、両端点の値の線形結合として次のように表せる。
$$ g_m(a) = \left( 1 - \frac{a}{2n+1} \right)g_m(0) + \frac{a}{2n+1}g_m(2n+1) $$
$$ g_m(a) = \left( 1 - \frac{a}{2n+1} \right)m(m+1) + \frac{a}{2n+1}(n-m)^2 $$
ここで、$0 < a < 2n+1$ より $1 - \frac{a}{2n+1} > 0$ かつ $\frac{a}{2n+1} > 0$ である。 また、$m$ は整数であるから $m(m+1) \ge 0$ かつ $(n-m)^2 \ge 0$ である。
もしある整数 $m$ において $g_m(a) = 0$ となると仮定すると、各項が $0$ 以上であるため、$m(m+1) = 0$ かつ $(n-m)^2 = 0$ が同時に成り立たなければならない。 $m(m+1) = 0$ を満たすのは $m=0, -1$ のみであるが、このとき $n$ は正の整数であるため $(n-m)^2$ は $n^2 > 0$ または $(n+1)^2 > 0$ となり、$0$ にはならない。
したがって、$m(m+1)$ と $(n-m)^2$ が同時に $0$ になる整数 $m$ は存在しない。ゆえに、任意の整数 $m$ に対して $g_m(a) > 0$、すなわち $F(m) > 0$ が成り立つ。
以上より、求める条件は $0 < a < 2n+1$ である。
解説
「すべての整数 $m$ に対して」という条件が課された絶対不等式の問題である。実数全体であれば判別式に持ち込めるが、整数限定の場合は別の工夫が必要となる。
解法1は、不等式を $a$ の条件として捉え直す(定数分離に似た発想)ことで、分数関数の最大・最小問題に帰着させる素直な方針である。その際、分子の次数下げと相加相乗平均の活用が計算を劇的に楽にする。
解法2は、難関大の整数・不等式問題で威力を発揮する「必要条件から絞り込み、十分性を確認する」方針である。特に、ある変数の1次関数とみなすことで「端点での符号が正なら開区間内部でも正である」という直線の性質を利用する論理は、非常に汎用性が高く美しい解法といえる。
答え
$$ 0 < a < 2n+1 $$
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