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京都大学 1996年 理系 第3問 解説

旧課程/行列・一次変換数学C/平面ベクトル数学2/式と証明テーマ/整式の証明
京都大学 1996年 理系 第3問 解説

方針・初手

与えられた条件から、特定のベクトル $\vec{v}$ についての性質がわかっています。平面上の1次変換(または2次正方行列)が恒等変換であることを示すには、任意のベクトル $\vec{x}$ に対して $f^3(\vec{x}) = \vec{x}$ が成り立つことを示すか、表現行列 $A$ について $A^3 = I$(単位行列)となることを示すのが定石です。 本問では、$\vec{v}$ と $f(\vec{v})$ が一次独立になることを示し、これらを平面の基底として任意のベクトルを表現するアプローチ(解法1)と、ハミルトン・ケーリーの定理を用いて行列の次数下げを行うアプローチ(解法2)が有効です。

解法1

$\vec{v} = \vec{0}$ と仮定すると、$f(\vec{v}) = \vec{0} = \vec{v}$ となり $f(\vec{v}) \neq \vec{v}$ に矛盾する。 よって、$\vec{v} \neq \vec{0}$ である。

$\vec{v}$ と $f(\vec{v})$ が一次従属であると仮定する。 $\vec{v} \neq \vec{0}$ であるから、実数 $k$ を用いて $f(\vec{v}) = k\vec{v}$ と表せる。 仮定 $f(\vec{v}) \neq \vec{v}$ より、$k \neq 1$ である。 1次変換の線形性より

$$ f^3(\vec{v}) = f^2(k\vec{v}) = k f^2(\vec{v}) = k^2 f(\vec{v}) = k^3\vec{v} $$

となる。条件 $f^3(\vec{v}) = \vec{v}$ より

$$ k^3\vec{v} = \vec{v} $$

$$ (k^3 - 1)\vec{v} = \vec{0} $$

$\vec{v} \neq \vec{0}$ より $k^3 - 1 = 0$ すなわち $k^3 = 1$ となる。 $k$ は実数であるから $k = 1$ となるが、これは $k \neq 1$ に矛盾する。 したがって、$\vec{v}$ と $f(\vec{v})$ は一次独立である。

$\vec{v}$ と $f(\vec{v})$ は一次独立な平面上の2つのベクトルであるから、これらは平面の基底をなす。 ゆえに、平面上の任意のベクトル $\vec{x}$ は、実数 $s, t$ を用いて

$$ \vec{x} = s\vec{v} + t f(\vec{v}) $$

と一意に表すことができる。 このベクトル $\vec{x}$ を $f^3$ で変換すると、線形性より

$$\begin{aligned} f^3(\vec{x}) &= f^3(s\vec{v} + t f(\vec{v})) \\ &= s f^3(\vec{v}) + t f^3(f(\vec{v})) \\ &= s f^3(\vec{v}) + t f(f^3(\vec{v})) \end{aligned}$$

条件より $f^3(\vec{v}) = \vec{v}$ であるから、これを代入して

$$ f^3(\vec{x}) = s\vec{v} + t f(\vec{v}) = \vec{x} $$

任意のベクトル $\vec{x}$ に対して $f^3(\vec{x}) = \vec{x}$ が成り立つので、$f^3$ は恒等変換である。(証明終)

解法2

1次変換 $f$ を表す行列を $A$ とし、ベクトルを列ベクトルで表す。 条件は、$A\vec{v} \neq \vec{v}$ かつ $A^3\vec{v} = \vec{v}$ である。 行列 $A$ は2次正方行列であるから、ハミルトン・ケーリーの定理より、ある実数 $p, q$ が存在して

$$ A^2 + pA + qI = O $$

が成り立つ($I$ は単位行列、$O$ は零行列)。 両辺に $A$ を掛けて整理すると

$$ A^3 = -pA^2 - qA $$

右辺の $A^2$ に $A^2 = -pA - qI$ を代入して次数を下げると

$$\begin{aligned} A^3 &= -p(-pA - qI) - qA \\ &= (p^2 - q)A + pqI \end{aligned}$$

両辺に右からベクトル $\vec{v}$ を掛けると

$$ A^3\vec{v} = (p^2 - q)A\vec{v} + pq\vec{v} $$

条件 $A^3\vec{v} = \vec{v}$ より

$$ \vec{v} = (p^2 - q)A\vec{v} + pq\vec{v} $$

移項して整理すると

$$ (p^2 - q)A\vec{v} + (pq - 1)\vec{v} = \vec{0} $$

ここで、解法1と同様の議論により、$\vec{v}$ と $A\vec{v}$ は一次独立である。 一次独立なベクトルの線形結合が零ベクトルになるためには、各係数が $0$ でなければならないから

$$ p^2 - q = 0 \quad \text{かつ} \quad pq - 1 = 0 $$

第1式より $q = p^2$。これを第2式に代入して $p^3 = 1$。 $p$ は実数であるから $p = 1$。このとき $q = 1$ となる。 これをハミルトン・ケーリーの等式に代入すると

$$ A^2 + A + I = O $$

両辺に左から $A - I$ を掛けると

$$ (A - I)(A^2 + A + I) = O $$

$$ A^3 - I = O $$

$$ A^3 = I $$

したがって、$A^3$ は単位行列であり、$f^3$ は恒等変換である。(証明終)

解説

「ある特定のベクトルについての情報から、変換そのものの性質(任意のベクトルに対する性質)を導く」という、線形代数の本質を突いた良問です。 ポイントは、$\vec{v}$ と $f(\vec{v})$ が一次独立になることに気づけるかどうかです。これらが一次独立であれば、平面上のすべてのベクトルをこの2つの組み合わせで表現できるため、特定のベクトルで成り立つ等式を平面全体に拡張することができます。 解法2のハミルトン・ケーリーの定理を用いる方法は、行列の累乗を一次式に下げる定石手段として非常に汎用性が高く、連立方程式に帰着させる流れも自然なため、受験数学において強力な武器になります。

答え

(証明問題のため、解答は解法1および解法2を参照)

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