名古屋大学 1982年 理系 第1問 解説

方針・初手
与えられた不等式は $a, b$ についての同次式(各項の次数が同じ式)から構成されています。このような不等式を証明する方針としては、主に次の3つが考えられます。 1つ目は、因数分解を用いて差が $0$ 以上であることを式変形のみで示す方法です。 2つ目は、両辺を $b^n$ などで割り、$\frac{a}{b}$ を1つの変数 $x$ とおいて微分法を利用し、1変数関数の最小値問題に帰着させる方法です。 3つ目は、式の特徴から $a^n - b^n$ を定積分の形と捉え、グラフの面積比較(関数の凸性の利用)に持ち込む方法です。
解法1
$n=1$ のとき、不等式の左辺は $a^1 - b^1 = a - b$、右辺は $\frac{1}{2}(a - b)(1 + 1) = a - b$ となり、等号が成立するため与式は成り立つ。
$n \geqq 2$ とする。 右辺から左辺を引いた式について、$a^n - b^n = (a - b)\sum_{k=0}^{n-1} a^{n-1-k}b^k$ であることを用いて因数分解すると、
$$ \frac{n}{2}(a - b)(a^{n-1} + b^{n-1}) - (a^n - b^n) $$ $$ = \frac{n}{2}(a - b)(a^{n-1} + b^{n-1}) - (a - b)\sum_{k=0}^{n-1} a^{n-1-k}b^k $$ $$ = (a - b) \left\{ \frac{n}{2}(a^{n-1} + b^{n-1}) - \sum_{k=0}^{n-1} a^{n-1-k}b^k \right\} $$ となる。
ここで、中括弧の中の式について考える。 $\frac{n}{2}(a^{n-1} + b^{n-1}) = \sum_{k=0}^{n-1} \frac{a^{n-1} + b^{n-1}}{2}$ と表せる。 また、$\sum_{k=0}^{n-1} a^{n-1-k}b^k$ の各項の足し合わせる順番を逆にしても和は変わらないため、
$$ \sum_{k=0}^{n-1} a^{n-1-k}b^k = \frac{1}{2} \sum_{k=0}^{n-1} \left(a^{n-1-k}b^k + a^k b^{n-1-k}\right) $$ と変形できる。これらを用いると、中括弧の中の式は次のようにまとめられる。
$$ \sum_{k=0}^{n-1} \frac{a^{n-1} + b^{n-1}}{2} - \frac{1}{2} \sum_{k=0}^{n-1} \left(a^{n-1-k}b^k + a^k b^{n-1-k}\right) $$ $$ = \frac{1}{2} \sum_{k=0}^{n-1} \left(a^{n-1} + b^{n-1} - a^{n-1-k}b^k - a^k b^{n-1-k}\right) $$
さらに、シグマの中の式は因数分解することができ、
$$ a^{n-1} - a^{n-1-k}b^k - a^k b^{n-1-k} + b^{n-1} $$ $$ = a^{n-1-k}(a^k - b^k) - b^{n-1-k}(a^k - b^k) $$ $$ = (a^{n-1-k} - b^{n-1-k})(a^k - b^k) $$ となる。
$a \geqq b > 0$ であるから、任意の非負整数 $m$ に対して $a^m \geqq b^m$ が成り立つ。 したがって、$0 \leqq k \leqq n-1$ を満たす各 $k$ について、$a^{n-1-k} - b^{n-1-k} \geqq 0$ かつ $a^k - b^k \geqq 0$ である。 よって、その積は
$$ (a^{n-1-k} - b^{n-1-k})(a^k - b^k) \geqq 0 $$ となる。これをすべての $k$ について足し合わせたものも $0$ 以上となるため、中括弧の中の式は $0$ 以上である。
また、条件より $a - b \geqq 0$ であるから、 $$ (a - b) \left\{ \frac{n}{2}(a^{n-1} + b^{n-1}) - \sum_{k=0}^{n-1} a^{n-1-k}b^k \right\} \geqq 0 $$ が示された。 ゆえに、すべての自然数 $n \geqq 1$ に対して $$ a^n - b^n \leqq \frac{n}{2}(a - b)(a^{n-1} + b^{n-1}) $$ が成り立つ。
解法2
$b > 0$ であるから、証明すべき不等式の両辺を $b^n (> 0)$ で割ると、
$$ \left(\frac{a}{b}\right)^n - 1 \leqq \frac{n}{2}\left(\frac{a}{b} - 1\right)\left\{ \left(\frac{a}{b}\right)^{n-1} + 1 \right\} $$ となる。ここで $x = \frac{a}{b}$ とおくと、$a \geqq b > 0$ より $x \geqq 1$ である。 示すべきことは、$x \geqq 1$ を満たす任意の実数 $x$ と自然数 $n$ に対して、
$$ x^n - 1 \leqq \frac{n}{2}(x - 1)(x^{n-1} + 1) $$ が成り立つことである。
$n=1, 2$ のときは、両辺を計算すると一致するため等号が成立し、不等式を満たす。
$n \geqq 3$ とする。関数 $f(x)$ を $$ f(x) = \frac{n}{2}(x - 1)(x^{n-1} + 1) - (x^n - 1) $$ と定義し、$x \geqq 1$ において $f(x) \geqq 0$ を示す。展開して整理すると、
$$ f(x) = \frac{n}{2}(x^n - x^{n-1} + x - 1) - x^n + 1 $$ $$ = \left(\frac{n}{2} - 1\right)x^n - \frac{n}{2}x^{n-1} + \frac{n}{2}x - \left(\frac{n}{2} - 1\right) $$ となる。これを $x$ で微分すると、
$$ f'(x) = n\left(\frac{n}{2} - 1\right)x^{n-1} - \frac{n(n-1)}{2}x^{n-2} + \frac{n}{2} $$ $$ = \frac{n}{2} \left\{ (n-2)x^{n-1} - (n-1)x^{n-2} + 1 \right\} $$ ここで波括弧の中の関数を $g(x) = (n-2)x^{n-1} - (n-1)x^{n-2} + 1$ とおく。これをさらに $x$ で微分すると、
$$ g'(x) = (n-1)(n-2)x^{n-2} - (n-1)(n-2)x^{n-3} $$ $$ = (n-1)(n-2)x^{n-3}(x - 1) $$ $n \geqq 3$ かつ $x \geqq 1$ のとき、$(n-1)(n-2) > 0$、$x^{n-3} > 0$、$x - 1 \geqq 0$ であるため、$g'(x) \geqq 0$ となる。 したがって $g(x)$ は $x \geqq 1$ において単調増加する。 $g(1) = (n-2) - (n-1) + 1 = 0$ であるから、$x \geqq 1$ において $g(x) \geqq 0$ である。
ゆえに、$x \geqq 1$ において $f'(x) = \frac{n}{2}g(x) \geqq 0$ となり、$f(x)$ も単調増加する。 $f(1) = 0$ であるから、$x \geqq 1$ において $f(x) \geqq 0$ が成り立つ。
以上より、元の不等式が証明された。
解法3
$a = b$ のとき、与式の両辺はともに $0$ となり等号が成立する。
$a > b > 0$ とする。 不等式の左辺 $a^n - b^n$ を、関数 $y = t^{n-1}$ の定積分を用いて表すことを考える。
$$ a^n - b^n = \int_{b}^{a} n t^{n-1} dt = n \int_{b}^{a} t^{n-1} dt $$ これを用いると、証明すべき不等式は次のように書き換えられる。
$$ n \int_{b}^{a} t^{n-1} dt \leqq \frac{n}{2}(a - b)(a^{n-1} + b^{n-1}) $$ 両辺を $n$ で割ると、
$$ \int_{b}^{a} t^{n-1} dt \leqq \frac{1}{2}(a - b)(b^{n-1} + a^{n-1}) $$ となる。
この不等式の図形的な意味を考える。 左辺は、区間 $b \leqq t \leqq a$ における曲線 $y = t^{n-1}$ と $t$ 軸の間の面積を表す。 右辺は、4点 $(b, 0), (a, 0), (a, a^{n-1}), (b, b^{n-1})$ を頂点とする台形の面積を表している。
$n=1$ のとき、曲線は $y = 1$(直線)となり、積分の面積も台形の面積も共に $a - b$ で一致する。 $n \geqq 2$ のとき、関数 $y = t^{n-1}$ の第2次導関数は $y'' = (n-1)(n-2)t^{n-3}$ となる。 $t > 0$ において $y'' \geqq 0$ であるため、曲線 $y = t^{n-1}$ は下に凸($n=2$ のときは直線)である。
下に凸(または直線)なグラフにおいては、曲線は常にその両端を結ぶ線分の下側(または同じ位置)にある。 したがって、曲線の下側の面積である積分値は、線分を上辺とする台形の面積以下になる。 ゆえに、不等式
$$ \int_{b}^{a} t^{n-1} dt \leqq \frac{1}{2}(a - b)(b^{n-1} + a^{n-1}) $$ が成り立つ。この両辺に $n$ を掛けることで、与式が示される。
解説
代数的な式変形(解法1)、微分の利用(解法2)、積分の利用(解法3)という、不等式証明における3つの重要なアプローチをすべて適用できる良問です。 文字が複数ある不等式では、解法2のように同次式であることを利用して1変数の問題に帰着させるのが確実な定石です。 また、式の中に $a^n - b^n$ と $a - b$ のペアが見えることから、平均値の定理や積分(解法3)を連想できると、視覚的かつ非常に短い記述で証明を完了させることができます。関数の凸性と台形公式の面積比較は、難関大でしばしば問われるテーマなので習熟しておくとよいでしょう。
答え
与えられた不等式が成り立つことが証明された。(等号成立は $a=b$ または $n=1$ のとき)
自分の記録
誤りを報告
解説の誤り、誤字、表示崩れに気づいた場合は送信してください。ログイン不要です。











