名古屋大学 2002年 理系 第5問 解説

方針・初手
- (1) は、複素数の絶対値の性質を用いて式変形するか、図形的な意味(垂直二等分線)を考えることで示せる。
- (2) は、$z$ が実数という条件を数式で表現し、複素数平面上での $z+i$ の軌跡を描いて偏角の範囲を視覚的に捉える。
- (3) は、(1) の結果から $z$ が実数であることを用い、(2) の偏角の範囲の条件と組み合わせる。共役複素数の性質を活用することで、方程式を簡潔に処理できる。
解法1
(1)
$z = x+yi$ ($x, y$ は実数)とおく。 与えられた等式 $|z+i| = |z-i|$ の両辺を2乗すると、
$$ |z+i|^2 = |z-i|^2 $$
$$ |x+(y+1)i|^2 = |x+(y-1)i|^2 $$
$$ x^2 + (y+1)^2 = x^2 + (y-1)^2 $$
展開して整理すると、
$$ y^2 + 2y + 1 = y^2 - 2y + 1 $$
$$ 4y = 0 \iff y = 0 $$
よって、$z = x$ となり、$z$ は実数に限られる。(証明終)
(2)
$z$ は実軸上を動くため、$z = x$ ($x$ は実数)とおける。 このとき、$z+i = x+i$ である。 複素数平面上において、点 $z+i$ は、実軸に平行な直線 $y=1$ 上のすべての点を動く。
点 $z+i$ の偏角 $\theta = \arg(z+i)$ は、原点 $\text{O}$ と点 $x+i$ を結ぶ半直線が実軸の正の向きとなす角である。 $x$ が実数全体を動くとき、点 $x+i$ は第1象限および第2象限(および $y$ 軸上)の直線 $y=1$ 上を動く。
- $x \to \infty$ のとき、$\theta \to 0^\circ$
- $x = 0$ のとき、$\theta = 90^\circ$
- $x \to -\infty$ のとき、$\theta \to 180^\circ$
点 $x+i$ は実軸上には存在しないため、$\theta$ が $0^\circ$ および $180^\circ$ になることはない。 したがって、$\arg(z+i)$ の動く範囲は
$$ 0^\circ < \arg(z+i) < 180^\circ $$
である。
(3)
与えられた方程式は
$$ (z+i)^9 = (z-i)^9 \quad \cdots \text{①} $$
である。①の両辺の絶対値をとると、
$$ |z+i|^9 = |z-i|^9 $$
$$ |z+i| = |z-i| $$
(1) の結果より、これを満たす $z$ は実数である。 $z$ が実数のとき、複素数 $z-i$ は $z+i$ の共役複素数となる。すなわち、
$$ z-i = \overline{z+i} $$
これを①に代入すると、
$$ (z+i)^9 = (\overline{z+i})^9 = \overline{(z+i)^9} $$
複素数 $w$ について $w = \bar{w}$ が成り立つことは、$w$ が実数であることと同値である。 よって、$(z+i)^9$ は実数である。
(2) の結果より、$z$ が実数のとき $\theta = \arg(z+i)$ は $0^\circ < \theta < 180^\circ$ を満たす。 $z+i$ を極形式で $r(\cos\theta + i\sin\theta)$ と表す(ただし $r = \sqrt{x^2+1} > 0$)。 ド・モアブルの定理より、
$$ (z+i)^9 = r^9(\cos 9\theta + i\sin 9\theta) $$
これが実数となる条件は、虚部が $0$ になること、すなわち
$$ \sin 9\theta = 0 $$
である。これを解くと、整数 $k$ を用いて
$$ 9\theta = 180^\circ \times k \iff \theta = 20^\circ \times k $$
と表せる。 $0^\circ < \theta < 180^\circ$ を満たす整数 $k$ は $k=1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8$ の $8$ 個である。 (このとき $\tan\theta$ が存在し、$x = \frac{1}{\tan\theta}$ として対応する実数 $z$ がそれぞれ存在するため、すべて①の解となる)
したがって、求める偏角 $\arg(z+i)$ は
$$ 20^\circ, 40^\circ, 60^\circ, 80^\circ, 100^\circ, 120^\circ, 140^\circ, 160^\circ $$
である。
解法2
(1) の別解(図形的考察)
等式 $|z - (-i)| = |z - i|$ は、複素数平面上において、点 $z$ が $2$ 点 $i, -i$ から等距離にあることを示している。 したがって、点 $z$ の軌跡は、線分 $[-i, i]$ の垂直二等分線である。 これは実軸そのものに他ならないため、$z$ は実数に限られる。(証明終)
(3) の別解(方程式を解く方法)
方程式 $(z+i)^9 = (z-i)^9$ において、$z=i$ とすると $2^9 = 0$ となり成り立たない。 よって $z \neq i$ であり、両辺を $(z-i)^9$ で割ることができる。
$$ \left(\frac{z+i}{z-i}\right)^9 = 1 $$
$W = \frac{z+i}{z-i}$ とおくと、$W^9 = 1$ を満たす。 これを解くと、$k = 0, 1, 2, \dots, 8$ として
$$ W = \cos\left(\frac{360^\circ \times k}{9}\right) + i\sin\left(\frac{360^\circ \times k}{9}\right) = \cos(40^\circ k) + i\sin(40^\circ k) $$
$W = 1$ ($k=0$) のとき、$z+i = z-i$ となり $i = -i$ で不適であるから、$k = 1, 2, \dots, 8$ である。 $W = \frac{z+i}{z-i}$ を $z$ について解くと、
$$ z+i = W(z-i) \iff z(1-W) = -i(1+W) $$
$W \neq 1$ より、
$$ z = -i \frac{1+W}{1-W} $$
半角の公式を応用するために $W = \cos(40^\circ k) + i\sin(40^\circ k)$ を代入して変形する。
$$ \begin{aligned} z &= -i \frac{1+\cos(40^\circ k) + i\sin(40^\circ k)}{1-\cos(40^\circ k) - i\sin(40^\circ k)} \\ &= -i \frac{2\cos^2(20^\circ k) + 2i\sin(20^\circ k)\cos(20^\circ k)}{2\sin^2(20^\circ k) - 2i\sin(20^\circ k)\cos(20^\circ k)} \\ &= -i \frac{\cos(20^\circ k) \{ \cos(20^\circ k) + i\sin(20^\circ k) \} }{\sin(20^\circ k) \{ \sin(20^\circ k) - i\cos(20^\circ k) \}} \\ &= -i \frac{\cos(20^\circ k)}{\sin(20^\circ k)} \cdot \frac{\cos(20^\circ k) + i\sin(20^\circ k)}{-i \{ \cos(20^\circ k) + i\sin(20^\circ k) \}} \\ &= \frac{\cos(20^\circ k)}{\sin(20^\circ k)} \end{aligned} $$
よって、$z = \frac{1}{\tan(20^\circ k)}$ となり、$z$ は実数であることが確認できる。 このとき、
$$ z+i = \frac{\cos(20^\circ k)}{\sin(20^\circ k)} + i = \frac{\cos(20^\circ k) + i\sin(20^\circ k)}{\sin(20^\circ k)} $$
$1 \leqq k \leqq 8$ の範囲において、 (i) $k=1, 2, 3, 4$ のとき $0^\circ < 20^\circ k < 90^\circ$ より $\sin(20^\circ k) > 0$ であるから、 $\arg(z+i) = 20^\circ k$ となる。 これは順に $20^\circ, 40^\circ, 60^\circ, 80^\circ$ である。
(ii) $k=5, 6, 7, 8$ のとき $100^\circ \leqq 20^\circ k \leqq 160^\circ$ より $\sin(20^\circ k) > 0$ であるから、同様に $\arg(z+i) = 20^\circ k$ となる。 これは順に $100^\circ, 120^\circ, 140^\circ, 160^\circ$ である。
以上より、求める偏角 $\arg(z+i)$ は $20^\circ, 40^\circ, 60^\circ, 80^\circ, 100^\circ, 120^\circ, 140^\circ, 160^\circ$
解説
前問の結果を次問で利用する典型的な誘導問題である。(1) から $z$ が実数であるという強力な条件が引き出され、これが (3) で大いに活躍する。 (3) では、(1) で得られた「$z$ は実数」という事実から、$(z+i)$ と $(z-i)$ が互いに共役な関係にあることに気づけるかが最大のポイントである。これを利用することで方程式を実数条件にすり替えることができ、面倒な計算を回避できる。 また、ド・モアブルの定理を用いる際、(2) で求めた偏角の範囲 $0^\circ < \theta < 180^\circ$ が、解の個数を絞り込むための必須条件となる。
答え
(1) 解説の通り
(2) $0^\circ < \arg(z+i) < 180^\circ$
(3) $20^\circ, 40^\circ, 60^\circ, 80^\circ, 100^\circ, 120^\circ, 140^\circ, 160^\circ$
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