名古屋大学 2007年 理系 第5問 解説

方針・初手
袋の中から玉を取り出し、同じ色の玉を追加して戻す操作は「ポリアの壺」と呼ばれる有名な確率モデルである。 1回の操作ごとに、袋の中の玉の総数が1個ずつ増えていくことに注意する。
この問題に対しては、大きく分けて2つのアプローチが考えられる。 1つは、玉を取り出す順序によらず、「赤玉が $m-1$ 回、それ以外の玉が $N-m+1$ 回」出る特定の順序の確率が常に等しくなるという性質を用いて、組合せ計算から直接求める方法である(解法1)。 もう1つは、$N$ 回後の状態が $N-1$ 回後の状態からどのように遷移するかを考えて漸化式を立てる方法である。本問では (1) で $N=3$ の場合の確率を具体的に求めるため、その結果から一般項を推測し、数学的帰納法で証明するという流れが自然である(解法2)。
解法1
黄と青の玉をまとめて「赤以外の玉」として扱う。初期状態では、袋の中に赤玉が1個、赤以外の玉が2個、合計3個の玉が入っている。 1回の操作で、引いた玉と同じ色の玉が1個追加されるため、赤玉を引けば赤玉が1個増え、赤以外の玉を引けば赤以外の玉が1個増える。
(1)
$N=3$ のとき、各 $m$ について確率を直接計算する。 3回操作後の玉の総数は 6個 である。
$m=4$ となるのは、赤玉が3回出る場合のみである。
$$ p_3(4) = \frac{1}{3} \cdot \frac{2}{4} \cdot \frac{3}{5} = \frac{6}{60} = \frac{1}{10} $$
$m=3$ となるのは、赤玉が2回、赤以外の玉が1回出る場合である。その出方の順序は ${}_{3}\text{C}_{1} = 3$ 通りある。 たとえば「赤・赤・他」の順に出る確率は $\frac{1}{3} \cdot \frac{2}{4} \cdot \frac{2}{5} = \frac{4}{60} = \frac{1}{15}$ であり、他の順序でも分子に現れる数が並び替わるだけで確率は同じである。
$$ p_3(3) = 3 \times \frac{1}{15} = \frac{1}{5} = \frac{2}{10} $$
$m=2$ となるのは、赤玉が1回、赤以外の玉が2回出る場合である。出方の順序は ${}_{3}\text{C}_{1} = 3$ 通りある。 たとえば「赤・他・他」の順に出る確率は $\frac{1}{3} \cdot \frac{2}{4} \cdot \frac{3}{5} = \frac{6}{60} = \frac{1}{10}$ であり、他の順序でも確率は同じである。
$$ p_3(2) = 3 \times \frac{1}{10} = \frac{3}{10} $$
$m=1$ となるのは、赤以外の玉が3回出る場合のみである。
$$ p_3(1) = \frac{2}{3} \cdot \frac{3}{4} \cdot \frac{4}{5} = \frac{24}{60} = \frac{4}{10} $$
以上より、求める連比は
$$ p_3(1) : p_3(2) : p_3(3) : p_3(4) = \frac{4}{10} : \frac{3}{10} : \frac{2}{10} : \frac{1}{10} = 4 : 3 : 2 : 1 $$
(2)
一般の $N$ 回の操作後に赤玉が $m$ 個 $(1 \leqq m \leqq N+1)$ となるのは、赤玉を $m-1$ 回、赤以外の玉を $N-(m-1) = N-m+1$ 回取り出す場合である。 その取り出し方の順序は ${}_{N}\text{C}_{m-1}$ 通りある。
ここで、特定の順序(たとえば、最初に赤玉が $m-1$ 回連続で出て、その後に赤以外の玉が $N-m+1$ 回連続で出る場合)で玉が取り出される確率を考える。 赤玉が出るたびに赤玉の個数は $1 \to 2 \to \cdots \to m-1$ と増え、赤以外の玉が出るたびに赤以外の玉の個数は $2 \to 3 \to \cdots \to N-m+2$ と増える。 また、玉の総数は操作のたびに $3 \to 4 \to \cdots \to N+2$ と増える。 したがって、この特定の順序で玉が出る確率は次のように表される。
$$ \frac{1 \cdot 2 \cdots (m-1) \times 2 \cdot 3 \cdots (N-m+2)}{3 \cdot 4 \cdots (N+2)} $$
この式を階乗を用いて整理する。
$$ \frac{ (m-1)! \times \frac{(N-m+2)!}{1!} }{ \frac{(N+2)!}{2!} } = \frac{2 \cdot (m-1)! (N-m+2)!}{(N+2)!} $$
この確率は、玉が取り出される順序によらず一定である(順序が変わっても、分子の各因子の現れる順番が変わるだけで、全体として掛け合わされる値は等しいため)。 したがって、求める確率 $p_N(m)$ は、この確率に順序の総数を掛けて得られる。
$$ p_N(m) = {}_{N}\text{C}_{m-1} \times \frac{2 \cdot (m-1)! (N-m+2)!}{(N+2)!} $$
$$ = \frac{N!}{(m-1)!(N-m+1)!} \times \frac{2 \cdot (m-1)! (N-m+2)!}{(N+2)!} $$
$$ = \frac{N!}{(N+2)!} \times \frac{2 \cdot (N-m+2)!}{(N-m+1)!} $$
$$ = \frac{1}{(N+1)(N+2)} \times 2(N-m+2) $$
$$ = \frac{2(N-m+2)}{(N+1)(N+2)} $$
解法2
(1)
$n$ 回操作後の袋の中の玉の総数は $n+3$ 個である。 $n$ 回操作後に赤玉が $m$ 個になる事象は、次の2つの排反な事象のいずれかから生じる。
(i) $n-1$ 回操作後に赤玉が $m$ 個あり、$n$ 回目に赤以外の玉を取り出す。 (このとき、袋の中の赤以外の玉は $(n+2)-m$ 個ある)
(ii) $n-1$ 回操作後に赤玉が $m-1$ 個あり、$n$ 回目に赤玉を取り出す。
よって、次の漸化式が成り立つ。
$$ p_n(m) = p_{n-1}(m) \cdot \frac{n+2-m}{n+2} + p_{n-1}(m-1) \cdot \frac{m-1}{n+2} $$
初期状態として $p_0(1) = 1$、および存在しない状態についての確率は $0$ とする。 漸化式を用いて $n=1, 2, 3$ の確率を順に求める。
$n=1$ のとき、玉の総数は 4 個。
$$ \begin{aligned} p_1(1) &= p_0(1) \cdot \frac{2}{3} = \frac{2}{3} \\ p_1(2) &= p_0(1) \cdot \frac{1}{3} = \frac{1}{3} \end{aligned} $$
$n=2$ のとき、玉の総数は 5 個。
$$ \begin{aligned} p_2(1) &= p_1(1) \cdot \frac{3}{4} = \frac{2}{3} \cdot \frac{3}{4} = \frac{1}{2} \\ p_2(2) &= p_1(2) \cdot \frac{2}{4} + p_1(1) \cdot \frac{1}{4} = \frac{1}{3} \cdot \frac{1}{2} + \frac{2}{3} \cdot \frac{1}{4} = \frac{1}{3} \\ p_2(3) &= p_1(2) \cdot \frac{2}{4} = \frac{1}{3} \cdot \frac{1}{2} = \frac{1}{6} \end{aligned} $$
$n=3$ のとき、玉の総数は 6 個。
$$ \begin{aligned} p_3(1) &= p_2(1) \cdot \frac{4}{5} = \frac{1}{2} \cdot \frac{4}{5} = \frac{2}{5} = \frac{4}{10} \\ p_3(2) &= p_2(2) \cdot \frac{3}{5} + p_2(1) \cdot \frac{1}{5} = \frac{1}{3} \cdot \frac{3}{5} + \frac{1}{2} \cdot \frac{1}{5} = \frac{3}{10} \\ p_3(3) &= p_2(3) \cdot \frac{2}{5} + p_2(2) \cdot \frac{2}{5} = \frac{1}{6} \cdot \frac{2}{5} + \frac{1}{3} \cdot \frac{2}{5} = \frac{1}{5} = \frac{2}{10} \\ p_3(4) &= p_2(3) \cdot \frac{3}{5} = \frac{1}{6} \cdot \frac{3}{5} = \frac{1}{10} \end{aligned} $$
したがって、求める連比は
$$ p_3(1) : p_3(2) : p_3(3) : p_3(4) = \frac{4}{10} : \frac{3}{10} : \frac{2}{10} : \frac{1}{10} = 4 : 3 : 2 : 1 $$
(2)
(1) の計算結果から各 $p_n(m)$ の分子に注目すると、$m$ が 1 増えるごとに確率の分子が 1 ずつ等差で減少していることがわかる。 これより、一般の $N$ に対する確率は次の形になると推測される。
$$ p_N(m) = \frac{2(N-m+2)}{(N+1)(N+2)} $$
この推測が正しいことを、数学的帰納法により証明する。
(I) $N=1$ のとき
$$ \begin{aligned} m=1 \text{ のとき} \quad \frac{2(1-1+2)}{2 \cdot 3} &= \frac{4}{6} = \frac{2}{3} \\ m=2 \text{ のとき} \quad \frac{2(1-2+2)}{2 \cdot 3} &= \frac{2}{6} = \frac{1}{3} \end{aligned} $$
これは (1) で求めた $p_1(1), p_1(2)$ と一致し、成立する。
(II) $N=k$ のとき、すべての $m \ (1 \leqq m \leqq k+1)$ について推測が正しいと仮定する。 すなわち、
$$ p_k(m) = \frac{2(k-m+2)}{(k+1)(k+2)} $$
が成り立つと仮定する。$N=k+1$ のとき、漸化式より
$$ p_{k+1}(m) = p_k(m) \cdot \frac{k+3-m}{k+3} + p_k(m-1) \cdot \frac{m-1}{k+3} $$
帰納法の仮定を代入すると、
$$ p_{k+1}(m) = \frac{2(k-m+2)}{(k+1)(k+2)} \cdot \frac{k-m+3}{k+3} + \frac{2(k-(m-1)+2)}{(k+1)(k+2)} \cdot \frac{m-1}{k+3} $$
$$ = \frac{2}{(k+1)(k+2)(k+3)} \{ (k-m+2)(k-m+3) + (k-m+3)(m-1) \} $$
共通因数 $(k-m+3)$ でくくると、
$$ = \frac{2(k-m+3)}{(k+1)(k+2)(k+3)} \{ (k-m+2) + (m-1) \} $$
$$ = \frac{2(k-m+3)}{(k+1)(k+2)(k+3)} (k+1) $$
$$ = \frac{2(k-m+3)}{(k+2)(k+3)} $$
これは、推測した式の $N$ を $k+1$ に置き換えたものに等しい。 (なお、$m=1$ や $m=k+2$ の端点においては、$p_k(0)=0$、$p_k(k+2)=0$ と解釈することで同様の式変形に帰着される。)
(I), (II) より、すべての自然数 $N$ について推測は正しく、
$$ p_N(m) = \frac{2(N-m+2)}{(N+1)(N+2)} $$
が成り立つ。
解説
ポリアの壺(Polya's urn)を題材にした確率と漸化式の典型問題である。 解法1のように「特定の順序で玉が取り出される確率は、その順序によらず一定である」という性質を利用すると、組合せの計算だけで非常に簡潔に一般項を求めることができる。この性質はポリアの壺における重要な特長であるため、知識として持っておくと見通しが良くなる。
一方で、解法2のように「漸化式を立てて実験し、規則性を推測して数学的帰納法で証明する」というアプローチは、どのような確率の漸化式問題にも対応できる汎用的かつ強力な手法である。本問の (1) は、まさに推測を行うための適切な誘導として機能している。
答え
(1) $p_3(1) : p_3(2) : p_3(3) : p_3(4) = 4 : 3 : 2 : 1$
(2) $p_N(m) = \frac{2(N-m+2)}{(N+1)(N+2)}$
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