東京工業大学 2023年 理系 第3問 解説

方針・初手
1回の操作で得られる複素数 $w$ をすべて列挙し、それらを絶対値と偏角に着目して極形式で表すことが最初のステップである。複素数の積の性質「積の絶対値は絶対値の積」「積の偏角は偏角の和」を利用することで、問題は「各絶対値が出る回数の組み合わせ」と「偏角の和に関する確率漸化式」に帰着される。
解法1
カード $\{0, 1, \sqrt{3}\}$ から順に2枚選んで実部と虚部とする方法は $3 \times 2 = 6$ 通りあり、各事象の確率はすべて $\frac{1}{6}$ である。 1回の操作で得られる複素数 $w$ をすべて列挙し、絶対値 $r$ と偏角 $\theta$ ($0 \le \theta < 2\pi$)を用いて極形式で分類する。
- $0+1i = i$ ($r=1, \theta=\frac{\pi}{2}$)
- $0+\sqrt{3}i = \sqrt{3}i$ ($r=\sqrt{3}, \theta=\frac{\pi}{2}$)
- $1+0i = 1$ ($r=1, \theta=0$)
- $1+\sqrt{3}i$ ($r=2, \theta=\frac{\pi}{3}$)
- $\sqrt{3}+0i = \sqrt{3}$ ($r=\sqrt{3}, \theta=0$)
- $\sqrt{3}+1i = \sqrt{3}+i$ ($r=2, \theta=\frac{\pi}{6}$)
(1)
1回の操作で得られる複素数の絶対値は $1, \sqrt{3}, 2$ のいずれかであり、それらが出る確率はそれぞれ以下のようになる。
- $r=1$ となる確率:$\frac{2}{6} = \frac{1}{3}$
- $r=\sqrt{3}$ となる確率:$\frac{2}{6} = \frac{1}{3}$
- $r=2$ となる確率:$\frac{2}{6} = \frac{1}{3}$
$n$ 回の操作のうち、$r=1, \sqrt{3}, 2$ が出た回数をそれぞれ $x, y, z$ とすると、$x, y, z$ は $x+y+z=n$ を満たす非負整数である。 このとき $n$ 個の複素数の積 $z_n$ の絶対値は以下のようになる。
$$ |z_n| = 1^x \cdot (\sqrt{3})^y \cdot 2^z = 3^{\frac{y}{2}} 2^z $$
条件 $|z_n| < 5$ すなわち $3^{\frac{y}{2}} 2^z < 5$ を満たす非負整数 $(y, z)$ の組を、大きい値を取りやすい $z$ で場合分けして求める。
- $z \ge 3$ のとき、$|z_n| \ge 2^3 = 8 > 5$ となり不適。
- $z=2$ のとき、$4 \cdot 3^{\frac{y}{2}} < 5$ より $3^{\frac{y}{2}} < 1.25$。よって $y=0$。
- $z=1$ のとき、$2 \cdot 3^{\frac{y}{2}} < 5$ より $3^{\frac{y}{2}} < 2.5$、$3^y < 6.25$。よって $y=0, 1$。
- $z=0$ のとき、$3^{\frac{y}{2}} < 5$ より $3^y < 25$。よって $y=0, 1, 2$。
したがって、条件を満たす $(y, z)$ の組と、それに伴う $x = n-y-z$ は以下のようになる。それぞれの事象は互いに排反である。
(i)
$(y, z) = (0, 0)$ のとき、$x = n$。確率は $\left(\frac{1}{3}\right)^n$。 (ii)
$(y, z) = (1, 0)$ のとき、$x = n-1$ ($n \ge 1$)。確率は ${}_n\mathrm{C}_{1} \left(\frac{1}{3}\right)^n = n\left(\frac{1}{3}\right)^n$。 (iii)
$(y, z) = (0, 1)$ のとき、$x = n-1$ ($n \ge 1$)。確率は ${}_n\mathrm{C}_{1} \left(\frac{1}{3}\right)^n = n\left(\frac{1}{3}\right)^n$。 (iv)
$(y, z) = (2, 0)$ のとき、$x = n-2$ ($n \ge 2$)。確率は $\frac{n(n-1)}{2} \left(\frac{1}{3}\right)^n$。 (v)
$(y, z) = (1, 1)$ のとき、$x = n-2$ ($n \ge 2$)。確率は $\frac{n!}{1!1!(n-2)!} \left(\frac{1}{3}\right)^n = n(n-1)\left(\frac{1}{3}\right)^n$。 (vi)
$(y, z) = (0, 2)$ のとき、$x = n-2$ ($n \ge 2$)。確率は $\frac{n(n-1)}{2} \left(\frac{1}{3}\right)^n$。
$n \ge 2$ のとき、求める確率 $P_n$ は (i) から (vi) の和である。
$$ P_n = \left( 1 + n + n + \frac{n(n-1)}{2} + n(n-1) + \frac{n(n-1)}{2} \right) \left(\frac{1}{3}\right)^n $$
$$ P_n = \left( 1 + 2n + 2n(n-1) \right) \left(\frac{1}{3}\right)^n $$
$$ P_n = \frac{2n^2 + 1}{3^n} $$
$n=1$ のときは (i), (ii), (iii) の和となり $P_1 = (1 + 1 + 1) \cdot \frac{1}{3} = 1$ である。これは上の式に $n=1$ を代入した値と一致する。 よって、すべての正の整数 $n$ について $P_n = \frac{2n^2 + 1}{3^n}$ である。
(2)
$z_n^2$ が実数となる条件は、$\arg(z_n^2)$ が $\pi$ の整数倍、すなわち $\arg(z_n)$ が $\frac{\pi}{2}$ の整数倍となることである。
$k$ 回目の操作で得られる複素数の偏角を $\theta_k$ とすると、$\theta_k \in \{0, \frac{\pi}{6}, \frac{\pi}{3}, \frac{\pi}{2}\}$ である。 $\theta_k$ は $\frac{\pi}{6}$ の整数倍であるから、整数 $m_k$ を用いて $\theta_k = \frac{\pi}{6} m_k$ とおく。 各複素数に対応する $m_k$ の値と確率は以下の通りである。
- $\theta_k = 0 \implies m_k = 0$(確率 $\frac{1}{3}$)
- $\theta_k = \frac{\pi}{6} \implies m_k = 1$(確率 $\frac{1}{6}$)
- $\theta_k = \frac{\pi}{3} \implies m_k = 2$(確率 $\frac{1}{6}$)
- $\theta_k = \frac{\pi}{2} \implies m_k = 3$(確率 $\frac{1}{3}$)
$n$ 回の積 $z_n$ の偏角は $\arg(z_n) = \sum_{k=1}^n \theta_k = \frac{\pi}{6} \sum_{k=1}^n m_k$ である。 $\arg(z_n)$ が $\frac{\pi}{2}$ の整数倍となる条件は、$\frac{\pi}{6} \sum_{k=1}^n m_k = \frac{\pi}{2} l$ ($l$ は整数)となること、すなわち $\sum_{k=1}^n m_k$ が $3$ の倍数となることである。
ここで、各 $m_k$ を $3$ で割った余り $c_k$ を考えると、$c_k \in \{0, 1, 2\}$ であり、それぞれの確率は以下のようになる。
- $c_k = 0$ となる確率:$m_k = 0, 3$ の場合であり $\frac{1}{3} + \frac{1}{3} = \frac{2}{3}$
- $c_k = 1$ となる確率:$m_k = 1$ の場合であり $\frac{1}{6}$
- $c_k = 2$ となる確率:$m_k = 2$ の場合であり $\frac{1}{6}$
$M_n = \sum_{k=1}^n c_k \pmod 3$ とする。 $M_n$ が $0, 1, 2$ となる確率をそれぞれ $A_n, B_n, C_n$ とする。求める確率 $Q_n$ は $A_n$ に等しい。 $n$ 回目から $n+1$ 回目への推移を考えると、以下の漸化式が成り立つ。
$$ \begin{aligned} A_{n+1} &= \frac{2}{3} A_n + \frac{1}{6} B_n + \frac{1}{6} C_n \end{aligned} $$
$A_n + B_n + C_n = 1$ より $B_n + C_n = 1 - A_n$ を代入する。
$$ A_{n+1} = \frac{2}{3} A_n + \frac{1}{6} (1 - A_n) $$
$$ A_{n+1} = \frac{1}{2} A_n + \frac{1}{6} $$
この漸化式を変形すると、以下のようになる。
$$ A_{n+1} - \frac{1}{3} = \frac{1}{2} \left( A_n - \frac{1}{3} \right) $$
数列 $\{ A_n - \frac{1}{3} \}$ は公比 $\frac{1}{2}$ の等比数列である。 初項 $A_1$ は $c_1 = 0$ となる確率であるから、$A_1 = \frac{2}{3}$ である。
$$ A_n - \frac{1}{3} = \left( \frac{2}{3} - \frac{1}{3} \right) \left( \frac{1}{2} \right)^{n-1} = \frac{1}{3} \left( \frac{1}{2} \right)^{n-1} $$
よって、$Q_n$ は以下のようになる。
$$ A_n = \frac{1}{3} + \frac{1}{3} \left( \frac{1}{2} \right)^{n-1} $$
$$ A_n = \frac{2^{n-1} + 1}{3 \cdot 2^{n-1}} $$
解説
複素数の積を扱う際、絶対値と偏角に分けて考えるという極形式の基本方針が有効に機能する問題である。 操作によって得られる複素数がどのような絶対値・偏角を持つかを調べ上げることが最大の鍵となる。(1)は組み合わせと指数の不等式処理であり、場合の数が限られているため数え上げによって解決できる。(2)は「和が3の倍数となる確率」という典型的な確率漸化式の問題に帰着される。遷移則において $+1$ と $+2$ される確率がともに $\frac{1}{6}$ と等しいおかげで、$B_n$ と $C_n$ を個別に扱うことなく、ただちに $A_n$ だけの2項間漸化式を作ることができる。
答え
(1)
$$ P_n = \frac{2n^2 + 1}{3^n} $$
(2)
$$ Q_n = \frac{2^{n-1} + 1}{3 \cdot 2^{n-1}} $$
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