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東京大学 1989年 文系 第4問 解説

数学1/図形計量数学3/極限テーマ/軌跡・領域テーマ/面積・体積テーマ/図形総合
東京大学 1989年 文系 第4問 解説

方針・初手

正三角形 $\triangle ABC$ が一定の向きを保ったまま、円 $O$ に外接しながら1周するときの通過領域を求める問題である。 領域全体を直接捉えようとすると複雑になるため、以下の手順で考える。

  1. $\triangle ABC$ の重心 $G$ の軌跡を求める。
  2. $G$ の軌跡をもとに、通過領域の「外側の境界」がどのような図形になるかを考える。
  3. 条件から、通過領域の「内側の境界(穴)」がどうなるかを決定する。
  4. 外側の図形の面積から内側の穴の面積を引いて $S$ を求める。

解法1

$\triangle ABC$ の一辺の長さを $a$ とする。円 $O$ の中心を原点とし、$\triangle ABC$ は常に頂点 $A$ を上、辺 $BC$ を水平下側とする向きを保って移動すると設定してよい。 $\triangle ABC$ の重心を $G$ とすると、$G$ から各辺への距離は $h = \frac{\sqrt{3}}{6}a$、各頂点への距離は $2h = \frac{\sqrt{3}}{3}a$ である。

$\triangle ABC$ が円 $O$(半径 $r$)に接しながら移動するときの、$G$ の軌跡 $\Gamma$ を考える。

(i) 各辺が接して動くとき 辺 $BC$ が円 $O$ に接するとき、$\triangle ABC$ は円の外部にあるから、接点は円の最も上の点 $(0,r)$ である。このとき辺 $BC$ は直線 $y=r$ 上を滑り、重心 $G$ は $y=r+h$ 上の $-\frac{a}{2} \le x \le \frac{a}{2}$ の範囲を動く。 辺 $CA, AB$ が接するときも同様であり、$G$ は長さ $a$ の線分を合計3つ描く。これらは、原点を重心とする一辺 $a$ の「逆正三角形」の各辺を、外側に距離 $r$ だけ平行移動した線分である。

(ii) 各頂点が接して動くとき 辺 $BC$ との接点から辺 $CA$ との接点へ移る間、頂点 $C$ が円 $O$ の周上を接点として動く。このとき $C$ は半径 $r$ の円弧(中心角 $120^\circ$)を描く。$\triangle ABC$ は回転せずに平行移動するため、重心 $G$ も半径 $r$ の円弧を描く。 他の頂点が接して回るときも同様である。

以上より、$G$ の軌跡 $\Gamma$ は「一辺 $a$ の逆正三角形を外側に距離 $r$ だけ膨らませた閉曲線」となる。

次に、$\triangle ABC$ の通過領域 $D$ を決定する。

外側の境界について $G$ が軌跡 $\Gamma$ の線分上を動くとき、$\triangle ABC$ が掃く領域は等脚台形となる。例えば上の線分を動くとき、頂点 $A$ は長さ $a$ の線分を描き、領域全体としては下底 $2a$、上底 $a$、高さ $\frac{\sqrt{3}}{2}a$ の等脚台形を形成する。 これら3方向の台形の外周は、一辺 $a$ の正六角形の辺を外側に $r$ 平行移動した線分となる。 さらに $G$ が $\Gamma$ の円弧部分を動くとき、$\triangle ABC$ の最外点の頂点も半径 $r$ の円弧を描き、台形の外周の隙間を滑らかにつなぐ。 したがって、通過領域の外側の境界は「一辺 $a$ の正六角形を外側に距離 $r$ だけ膨らませた図形」となる。

内側の境界(穴)について 条件 (i) より、$\triangle ABC$ は円 $O$ の内部と共有点を持たない。一方で移動中、接点は辺上の点から頂点へと移り変わりながら、円 $O$ の周上を連続して1周する。 接点は常に $\triangle ABC$ の周上にあるため、$\triangle ABC$ は円 $O$ の内部には入らずに、円の境界上のすべての点を通過する。 したがって、通過領域の内部には、ちょうど円 $O$ と一致する半径 $r$ の円の「穴」ができる。

以上より、通過領域 $D$ は「一辺 $a$ の正六角形を外側に $r$ 膨らませた図形」から「半径 $r$ の円」を除いた領域として図示される。

通過領域の面積 $S$ は、外側の図形の面積から内側の穴の面積を引けばよい。 外側の図形の面積は、一辺 $a$ の正六角形、長方形6つ(縦 $r$、横 $a$)、および半径 $r$ の円(中心角 $60^\circ$ の扇形6つ分)の和であるから、

$$ \text{外側の面積} = 6 \times \frac{\sqrt{3}}{4}a^2 + 6ar + \pi r^2 = \frac{3\sqrt{3}}{2}a^2 + 6ar + \pi r^2 $$

ここから内側の穴(面積 $\pi r^2$)を引くので、

$$ S = \left( \frac{3\sqrt{3}}{2}a^2 + 6ar + \pi r^2 \right) - \pi r^2 = \frac{3\sqrt{3}}{2}a^2 + 6ar $$

また、$\triangle ABC$ の面積 $T$ は $T = \frac{\sqrt{3}}{4}a^2$ である。 極限値を計算すると、

$$ \frac{S}{T} = \frac{\frac{3\sqrt{3}}{2}a^2 + 6ar}{\frac{\sqrt{3}}{4}a^2} = 6 + 8\sqrt{3} \frac{r}{a} $$

したがって、$r \to 0$ としたときの極限値は、

$$ \lim_{r \to 0} \frac{S}{T} = 6 $$

解説

図形の平行移動による通過領域(ミンコフスキー和)を背景とした問題である。真正面から不等式で領域を表現しようとすると、境界の交点の処理などで計算が泥沼化する。 $r=0$ の場合(単なる点が正三角形の周りを一周する場合)を想像すると、正三角形の頂点が掃く領域がちょうど「一辺の長さが等しい正六角形」になることが直感的に分かる。本問はこれを法線方向に $r$ だけ膨らませた状況に等しいため、外周と内周の形状から一気に面積を求める図形的な解法が非常に有効である。極限値が $6$ になることも、$r=0$ の領域が正三角形6つ分の正六角形になる事実と見事に一致している。

答え

通過領域の面積 $S$ は、

$$ S = \frac{3\sqrt{3}}{2}a^2 + 6ar $$

極限値は、

$$ \lim_{r \to 0} \frac{S}{T} = 6 $$

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