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東京大学 1989年 理系 第3問 解説

数学C/複素数平面旧課程/行列・一次変換テーマ/整式の証明
東京大学 1989年 理系 第3問 解説

方針・初手

(1) は、条件通りに $z = x + iy \ (y > 0)$ とおいて $f(z)$ の虚部を計算し、それが正になることを直接示すのが確実である。あるいは、$w = f(z)$ とおいて $z$ を $w$ で表し、$z$ の虚部が正であることから $w$ の虚部の符号を調べる方法(逆変換を考える方法)もある。

(2) は、一次分数変換の合成が、係数を並べた行列の積に対応することを利用する。$f_n(z)$ は対応する行列の $n$ 乗によって決まるため、$A^5$ が単位行列の実数倍(スカラー行列)になる条件を求める。行列の $n$ 乗の計算には、ケーリー・ハミルトンの定理を用いた多項式の割り算、または固有値の利用が有効である。

解法1

(1)

$z \in H$ より、$x, y$ を実数、$y > 0$ として $z = x + iy$ とおく。 このとき、

$$ z + 1 = (x + 1) + iy $$

$y > 0$ であるから $z + 1 \neq 0$ であり、

$$ \frac{1}{z + 1} = \frac{(x + 1) - iy}{(x + 1)^2 + y^2} $$

となる。これを用いて $f(z)$ を計算すると、

$$ f(z) = \frac{z + 1 - q}{z + 1} = 1 - \frac{q}{z + 1} = 1 - \frac{q \{ (x + 1) - iy \}}{(x + 1)^2 + y^2} $$

$$ f(z) = \left( 1 - \frac{q(x + 1)}{(x + 1)^2 + y^2} \right) + i \frac{qy}{(x + 1)^2 + y^2} $$

$q > 0$ であり、$y > 0$ であるから、

$$ \frac{qy}{(x + 1)^2 + y^2} > 0 $$

すなわち $\text{Im}(f(z)) > 0$ となるので、$f(z)$ もまた $H$ に属することが示された。

(2)

一次分数変換 $f(z) = \frac{z + 1 - q}{z + 1}$ の係数から、行列 $A$ を次のように定める。

$$ A = \begin{pmatrix} 1 & 1 - q \\ 1 & 1 \end{pmatrix} $$

$f_n(z)$ の係数は $A^n$ の成分として表される。$A^n$ を

$$ A^n = \begin{pmatrix} a_n & b_n \\ c_n & d_n \end{pmatrix} $$

とおくと、

$$ f_n(z) = \frac{a_n z + b_n}{c_n z + d_n} $$

となる。 条件より、すべての $z \in H$ に対して $f_{10}(z) = f_5(z)$ が成り立つ。 $f_{10}(z) = f_5(f_5(z))$ であり、(1) の結果から $z \in H$ ならば $f_5(z) \in H$ である。 $w = f_5(z)$ とおくと、$z$ が $H$ のすべての元を動くとき、$w$ は $H$ 内にある無数の値をとる。 したがって、無数の $w$ に対して $f_5(w) = w$ が成立しなければならない。

$$ \frac{a_5 w + b_5}{c_5 w + d_5} = w $$

$$ c_5 w^2 + (d_5 - a_5)w - b_5 = 0 $$

この $w$ についての2次方程式が3つ以上の解をもつためには、すべての係数が $0$ でなければならない。すなわち、

$$ c_5 = 0, \quad d_5 - a_5 = 0, \quad b_5 = 0 $$

よって、$A^5$ は実数 $a_5$ を用いて

$$ A^5 = \begin{pmatrix} a_5 & 0 \\ 0 & a_5 \end{pmatrix} = a_5 E $$

と表される($E$ は単位行列)。 ここで、$\det A = 1 - (1 - q) = q > 0$ より $\det(A^5) = q^5 \neq 0$ であるから、$a_5 \neq 0$ である。

行列 $A$ に対してケーリー・ハミルトンの定理を用いると、

$$ A^2 - 2A + qE = O $$

が成り立つ。多項式 $x^5$ を $x^2 - 2x + q$ で割ると、商は $x^3 + 2x^2 + (4 - q)x + (8 - 4q)$ となり、余りは $(q^2 - 12q + 16)x + (4q^2 - 8q)$ となる。すなわち、

$$ x^5 = (x^2 - 2x + q)\{ x^3 + 2x^2 + (4 - q)x + (8 - 4q) \} + (q^2 - 12q + 16)x + (4q^2 - 8q) $$

行列 $A$ を代入すると、

$$ A^5 = (q^2 - 12q + 16)A + (4q^2 - 8q)E $$

となる。これが $a_5 E$ の形になるためには、

$$ (q^2 - 12q + 16)A = (a_5 - 4q^2 + 8q)E $$

が成り立つ必要がある。ここで、$A$ は $q$ の値によらず単位行列の実数倍(スカラー行列)にはならないため、$A$ の係数は $0$ でなければならない。

$$ q^2 - 12q + 16 = 0 $$

これを解いて、

$$ q = 6 \pm \sqrt{36 - 16} = 6 \pm 2\sqrt{5} $$

このとき、$A^5 = (4q^2 - 8q)E$ となる。 $q^2 - 12q + 16 = 0$ より $4q^2 - 8q = 4(12q - 16) - 8q = 40q - 64$ であるから、

$$ a_5 = 40(6 \pm 2\sqrt{5}) - 64 = 176 \pm 80\sqrt{5} \neq 0 $$

となり、$a_5 \neq 0$ の条件を満たす。 また、$2\sqrt{5} = \sqrt{20} < 5$ より $6 - 2\sqrt{5} > 1 > 0$ であるから、$q = 6 \pm 2\sqrt{5}$ はともに正の実数という条件を満たす。

解法2

(1)

$w = f(z)$ とおく。

$$ w = \frac{z + 1 - q}{z + 1} $$

分母を払って整理すると、

$$ w(z + 1) = z + 1 - q $$

$$ z(w - 1) = -w + 1 - q $$

ここで $w = 1$ とすると $0 = -q$ となるが、条件 $q > 0$ に矛盾するため $w \neq 1$ である。よって $w - 1$ で割ることができ、

$$ z = \frac{-(w - 1) - q}{w - 1} = -1 - \frac{q}{w - 1} $$

分母を実数化すると、

$$ z = -1 - \frac{q(\bar{w} - 1)}{|w - 1|^2} $$

両辺の虚部をとると、実数である定数は虚部に影響しないため、

$$ \text{Im}(z) = \frac{q}{|w - 1|^2} \text{Im}(w) $$

$z \in H$ より $\text{Im}(z) > 0$ であり、$q > 0$、$|w - 1|^2 > 0$ であるから、$\text{Im}(w) > 0$ となる。 したがって $f(z) \in H$ である。

(2)

(解法1と同様の議論により、$A^5 = a_5 E \ (a_5 \neq 0)$ となる条件を求める) 行列 $A$ の特性方程式は、

$$ \lambda^2 - 2\lambda + q = 0 $$

である。$A^5$ が単位行列の実数倍になるためには、$A$ の2つの固有値 $\lambda_1, \lambda_2$ について $\lambda_1^5 = \lambda_2^5$ であり、かつそれが実数となる必要がある。 $q$ の値で場合分けをする。

(i) $0 < q \leqq 1$ のとき 固有値は実数 $\lambda = 1 \pm \sqrt{1 - q}$ となる。 $q = 1$ のとき $\lambda = 1$ (重解)であるが、$A = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 1 & 1 \end{pmatrix}$ は $A^5 = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 5 & 1 \end{pmatrix} \neq a_5 E$ となり不適。 $0 < q < 1$ のときは相異なる実数固有値をもつが、$\lambda_1^5 = \lambda_2^5$ は $\lambda_1 = \lambda_2$ を意味し、相異なることに矛盾する。よって不適。

(ii) $q > 1$ のとき 固有値は相異なる虚数 $\lambda = 1 \pm i\sqrt{q - 1}$ となる。 これを極形式 $\lambda = r(\cos \theta \pm i\sin \theta)$ で表すと、

$$ r = \sqrt{1^2 + (\sqrt{q - 1})^2} = \sqrt{q} $$

$$ \cos \theta = \frac{1}{\sqrt{q}}, \quad \sin \theta = \frac{\sqrt{q - 1}}{\sqrt{q}} \quad \left( 0 < \theta < \frac{\pi}{2} \right) $$

$\lambda^5 = q^{\frac{5}{2}} (\cos 5\theta \pm i\sin 5\theta)$ が実数となるためには、$\sin 5\theta = 0$ が必要である。 $0 < \theta < \frac{\pi}{2}$ より $0 < 5\theta < \frac{5\pi}{2}$ であるから、

$$ 5\theta = \pi, \quad 2\pi $$

すなわち $\theta = \frac{\pi}{5}, \frac{2\pi}{5}$ である。 ここで $\sin 3\theta = \sin(5\theta - 2\theta) = \pm \sin 2\theta$ であるから、いずれにしても

$$ 3\sin \theta - 4\sin^3 \theta = \pm 2\sin \theta \cos \theta $$

$\sin \theta \neq 0$ で割り、$\sin^2 \theta = 1 - \cos^2 \theta$ を用いると、

$$ 4\cos^2 \theta \pm 2\cos \theta - 1 = 0 $$

となる。複号のいずれにせよ、移項して両辺を2乗すると、

$$ (2\cos \theta)^2 = (4\cos^2 \theta - 1)^2 $$

$$ 4\cos^2 \theta = 16\cos^4 \theta - 8\cos^2 \theta + 1 $$

$$ 16\cos^4 \theta - 12\cos^2 \theta + 1 = 0 $$

ここで $\cos^2 \theta = \frac{1}{q}$ を代入すると、

$$ 16 \left( \frac{1}{q} \right)^2 - 12 \left( \frac{1}{q} \right) + 1 = 0 $$

両辺に $q^2$ をかけて整理すると、

$$ q^2 - 12q + 16 = 0 $$

これを解いて $q = 6 \pm 2\sqrt{5}$ となる。これらはともに $q > 1$ を満たす。

解説

複素数平面における一次分数変換と、それに付随する行列の累乗がテーマの問題である。 (1) では実部と虚部に分けて計算する力、または $w = f(z)$ の逆変換から虚部の符号を評価する力が問われる。 (2) では $f_{10}(z) = f_5(z)$ から「$A^{10} = c A^5$ となるから $A^5$ はスカラー行列である」と見抜くことが最大のポイントである。$A^5$ を求めるにあたっては、解法1のようにケーリー・ハミルトンの定理を用いて次数下げを行うのが標準的かつ計算ミスの少ない手法である。解法2のように固有値の偏角に注目する方法は、幾何学的な意味(複素数平面における回転)を捉えやすく、三角方程式から $q$ の満たす方程式を逆算できるため非常に鮮やかである。

答え

$$ q = 6 \pm 2\sqrt{5} $$

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