東京大学 2013年 理系 第4問 解説

方針・初手
与えられたベクトル方程式の各項は、点 $P$ から各頂点へ向かう単位ベクトル(大きさが $1$ のベクトル)を表している。単位ベクトル 3 つの和が $\overrightarrow{0}$ になるという条件から、これらのベクトルがなす角を図形的に判断するのが第一歩である。
後半は、前半で求めた角度と与えられた辺の長さを活用し、$\triangle PAB, \triangle PBC, \triangle PCA$ のそれぞれで余弦定理を用いて連立方程式を立てる。これを工夫して解くことが求められる。
解法1
(1)
点 $P$ から各頂点へ向かう単位ベクトルをそれぞれ $\vec{e}_A, \vec{e}_B, \vec{e}_C$ とおく。すなわち、
$$ \vec{e}_A = \frac{\overrightarrow{PA}}{|\overrightarrow{PA}|}, \quad \vec{e}_B = \frac{\overrightarrow{PB}}{|\overrightarrow{PB}|}, \quad \vec{e}_C = \frac{\overrightarrow{PC}}{|\overrightarrow{PC}|} $$
これらはすべて大きさが $1$ である。与えられた条件式は次のように書ける。
$$ \vec{e}_A + \vec{e}_B + \vec{e}_C = \overrightarrow{0} $$
これを $\vec{e}_A + \vec{e}_B = -\vec{e}_C$ と変形し、両辺の大きさの 2 乗をとる。
$$ |\vec{e}_A|^2 + 2\vec{e}_A \cdot \vec{e}_B + |\vec{e}_B|^2 = |-\vec{e}_C|^2 $$
各単位ベクトルの大きさは $1$ であるから、
$$ 1 + 2\vec{e}_A \cdot \vec{e}_B + 1 = 1 $$
整理すると、
$$ \vec{e}_A \cdot \vec{e}_B = -\frac{1}{2} $$
$\vec{e}_A$ と $\vec{e}_B$ のなす角は $\angle APB$ に等しい。$0^\circ < \angle APB < 180^\circ$ より、
$$ \angle APB = 120^\circ $$
同様の計算により、$\vec{e}_B \cdot \vec{e}_C = -\frac{1}{2}$、$\vec{e}_C \cdot \vec{e}_A = -\frac{1}{2}$ も導けるため、
$$ \angle APC = 120^\circ $$
(2)
$|\overrightarrow{PA}| = x, |\overrightarrow{PB}| = y, |\overrightarrow{PC}| = z$ とおく。$P$ は三角形の内部の点であるから $x, y, z > 0$ である。 $\triangle ABC$ は $\angle BAC = 90^\circ$ の直角三角形であるから、三平方の定理より、
$$ BC^2 = AB^2 + AC^2 = 1^2 + (\sqrt{3})^2 = 4 $$
したがって $BC = 2$ である。 (1)より $\angle APB = \angle BPC = \angle CPA = 120^\circ$ である。$\triangle PAB, \triangle PBC, \triangle PCA$ のそれぞれで余弦定理を適用すると、$\cos 120^\circ = -\frac{1}{2}$ より以下の連立方程式を得る。
$$ \begin{cases} x^2 + y^2 + xy = 1 & \cdots \text{①} \\ y^2 + z^2 + yz = 4 & \cdots \text{②} \\ z^2 + x^2 + zx = 3 & \cdots \text{③} \end{cases} $$
ここで、面積の関係を用いて解を進める。$\triangle ABC$ の面積は、3つの小三角形の面積の和に等しいため、
$$ \frac{1}{2} \cdot 1 \cdot \sqrt{3} = \frac{1}{2}xy \sin 120^\circ + \frac{1}{2}yz \sin 120^\circ + \frac{1}{2}zx \sin 120^\circ $$
$$ \frac{\sqrt{3}}{2} = \frac{\sqrt{3}}{4} (xy + yz + zx) $$
よって、
$$ xy + yz + zx = 2 \quad \cdots \text{④} $$
次に、①、②、③ の両辺を足し合わせると、
$$ 2(x^2 + y^2 + z^2) + (xy + yz + zx) = 8 $$
これに ④ を代入すると、
$$ 2(x^2 + y^2 + z^2) + 2 = 8 $$
$$ x^2 + y^2 + z^2 = 3 \quad \cdots \text{⑤} $$
④と⑤を用いて $(x+y+z)^2$ を計算する。
$$ (x+y+z)^2 = (x^2 + y^2 + z^2) + 2(xy + yz + zx) = 3 + 2 \cdot 2 = 7 $$
$x+y+z > 0$ であるから、
$$ x + y + z = \sqrt{7} \quad \cdots \text{⑥} $$
ここで、②と③の差をとると、
$$ y^2 - x^2 + z(y - x) = 1 $$
$$ (y - x)(x + y + z) = 1 $$
これに ⑥ を代入して、
$$ y - x = \frac{1}{\sqrt{7}} \quad \cdots \text{⑦} $$
同様に、③と①の差をとると、
$$ z^2 - y^2 + x(z - y) = 2 $$
$$ (z - y)(x + y + z) = 2 $$
これに ⑥ を代入して、
$$ z - y = \frac{2}{\sqrt{7}} \quad \cdots \text{⑧} $$
⑦と⑧より、$y = x + \frac{1}{\sqrt{7}}$, $z = y + \frac{2}{\sqrt{7}} = x + \frac{3}{\sqrt{7}}$ となる。これを ⑥ に代入する。
$$ x + \left(x + \frac{1}{\sqrt{7}}\right) + \left(x + \frac{3}{\sqrt{7}}\right) = \frac{7}{\sqrt{7}} $$
$$ 3x + \frac{4}{\sqrt{7}} = \frac{7}{\sqrt{7}} $$
$$ 3x = \frac{3}{\sqrt{7}} \implies x = \frac{1}{\sqrt{7}} = \frac{\sqrt{7}}{7} $$
これより $y, z$ も求まる。
$$ y = \frac{\sqrt{7}}{7} + \frac{\sqrt{7}}{7} = \frac{2\sqrt{7}}{7} $$
$$ z = \frac{\sqrt{7}}{7} + \frac{3\sqrt{7}}{7} = \frac{4\sqrt{7}}{7} $$
解法2
(2)において、面積を用いずに代数的に連立方程式を解く別解
余弦定理から得られた①、②、③の式から差を作り、因数分解する手順までは解法1と同様に行う。
$$ (y - x)(x + y + z) = 1 \quad \cdots \text{⑦'} $$
$$ (z - y)(x + y + z) = 2 \quad \cdots \text{⑧'} $$
ここで、$x + y + z = k$ ($k > 0$)とおく。⑦'、⑧'より、
$$ y - x = \frac{1}{k} \implies y = x + \frac{1}{k} $$
$$ z - y = \frac{2}{k} \implies z = x + \frac{3}{k} $$
これらを $x + y + z = k$ に代入する。
$$ x + \left(x + \frac{1}{k}\right) + \left(x + \frac{3}{k}\right) = k $$
$$ 3x = k - \frac{4}{k} = \frac{k^2 - 4}{k} \implies x = \frac{k^2 - 4}{3k} $$
また、$y$ は次のように表される。
$$ y = \frac{k^2 - 4}{3k} + \frac{3}{3k} = \frac{k^2 - 1}{3k} $$
①式 $x^2 + xy + y^2 = 1$ は $(x+y)^2 - xy = 1$ と変形できるので、$x, y$ を代入して $k$ についての方程式を立てる。
$$ x + y = \frac{2k^2 - 5}{3k}, \quad xy = \frac{(k^2 - 4)(k^2 - 1)}{9k^2} $$
$$ \left( \frac{2k^2 - 5}{3k} \right)^2 - \frac{(k^2 - 4)(k^2 - 1)}{9k^2} = 1 $$
両辺に $9k^2$ を掛ける。
$$ (4k^4 - 20k^2 + 25) - (k^4 - 5k^2 + 4) = 9k^2 $$
$$ 3k^4 - 15k^2 + 21 = 9k^2 $$
$$ k^4 - 8k^2 + 7 = 0 $$
$$ (k^2 - 1)(k^2 - 7) = 0 $$
$k > 0$ より $k=1$ または $k=\sqrt{7}$ である。 $k=1$ のとき $x = \frac{1-4}{3} = -1 < 0$ となり不適である。 $k=\sqrt{7}$ のとき、解法1と同様に $x, y, z$ の値が正となり適する。
解説
単位ベクトルの和が $\overrightarrow{0}$ になるという条件は、各ベクトルを平行移動して繋げると正三角形が作れることを意味し、ベクトルのなす角が $120^\circ$ になるという有名な性質である。この結果、点 $P$ は各辺を見込む角が等しくなる「フェルマー点」となる。
後半の連立方程式は、そのまま代入消去を試みると次数が上がり計算が非常に困難になる。解法1のように「図形の面積和」という幾何的な視点を数式に取り入れることで、$xy+yz+zx$ や $x+y+z$ といった対称式の値が見え、劇的に計算量を減らすことができる。連立2次方程式を解く際の工夫として、式の和や差をとって因数分解する手法は難関大でよく求められる処理である。
答え
(1)
$\angle APB = 120^\circ, \angle APC = 120^\circ$
(2)
$|\overrightarrow{PA}| = \frac{\sqrt{7}}{7}, \quad |\overrightarrow{PB}| = \frac{2\sqrt{7}}{7}, \quad |\overrightarrow{PC}| = \frac{4\sqrt{7}}{7}$
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