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京都大学 1972年 理系 第1問 解説

数学C/平面ベクトルテーマ/数学的帰納法テーマ/整式の証明
京都大学 1972年 理系 第1問 解説

方針・初手

$n$ 個のベクトルの和が加える順序によらないことを、数学的帰納法を用いて証明する。

問題文で与えられた「一般の場合も同様とする」という記述は、ベクトルの和が常に左から順に計算されること、すなわち和が左結合であることを意味している。式で表せば以下のようになる。

$$ \vec{X_1} + \vec{X_2} + \cdots + \vec{X_k} = (\vec{X_1} + \vec{X_2} + \cdots + \vec{X_{k-1}}) + \vec{X_k} $$

この定義と、与えられた2つまたは3つのベクトルについての「交換法則」「結合法則」を利用して、$n=k+1$ 個の和を帰納法の仮定が使える形に変形していくのが方針である。

解法1

自然数 $n$ に対する命題「$n$ 個のベクトル $\vec{A_1}, \vec{A_2}, \cdots, \vec{A_n}$ の和は、その順序を任意にかえたベクトル $\vec{B_1}, \vec{B_2}, \cdots, \vec{B_n}$ の和に等しい」を $P(n)$ とする。

(i)

$n=1, 2$ のとき

$n=1$ のときは、並べ替えは $\vec{B_1} = \vec{A_1}$ のみであり明らかに $P(1)$ は成り立つ。

$n=2$ のとき、順序をかえたものは $(\vec{B_1}, \vec{B_2}) = (\vec{A_1}, \vec{A_2})$ または $(\vec{A_2}, \vec{A_1})$ である。 前者の場合は自明に和が等しく、後者の場合は問題で与えられた法則 $\vec{A} + \vec{B} = \vec{B} + \vec{A}$ を用いれば $\vec{A_1} + \vec{A_2} = \vec{A_2} + \vec{A_1}$ となり等しい。 よって、$P(2)$ は成り立つ。

(ii)

$n=k$ ($k \geqq 2$) のとき、$P(k)$ が成り立つと仮定する。

すなわち、任意の $k$ 個のベクトルの和は、加える順序によらないと仮定する。

$n=k+1$ 個のベクトル $\vec{A_1}, \vec{A_2}, \cdots, \vec{A_{k+1}}$ と、その順序を任意にかえたベクトル $\vec{B_1}, \vec{B_2}, \cdots, \vec{B_{k+1}}$ について考える。 $\vec{B_{k+1}}$ は $\vec{A_1}, \cdots, \vec{A_{k+1}}$ のうちのいずれかであるから、それを $\vec{A_m}$ ($1 \leqq m \leqq k+1$) とおく。 ここで、$m$ の値によって場合分けを行う。

(ア)

$m = k+1$ のとき

$\vec{B_{k+1}} = \vec{A_{k+1}}$ であるから、$\vec{B_1}, \cdots, \vec{B_k}$ は残りの $k$ 個のベクトル $\vec{A_1}, \cdots, \vec{A_k}$ の順序をかえたものである。 和の定義より、以下が成り立つ。

$$ \vec{B_1} + \cdots + \vec{B_k} + \vec{B_{k+1}} = (\vec{B_1} + \cdots + \vec{B_k}) + \vec{B_{k+1}} $$

帰納法の仮定 $P(k)$ より、$\vec{B_1} + \cdots + \vec{B_k} = \vec{A_1} + \cdots + \vec{A_k}$ が成り立つので、

$$ (\vec{B_1} + \cdots + \vec{B_k}) + \vec{B_{k+1}} = (\vec{A_1} + \cdots + \vec{A_k}) + \vec{A_{k+1}} $$

和の定義より、右辺は $\vec{A_1} + \cdots + \vec{A_{k+1}}$ に等しい。よって、この場合 $P(k+1)$ は成り立つ。

(イ)

$1 \leqq m \leqq k$ のとき

和の定義より、以下のように表せる。

$$ \vec{A_1} + \cdots + \vec{A_{k+1}} = (\vec{A_1} + \cdots + \vec{A_k}) + \vec{A_{k+1}} $$

ここで、$k$ 個のベクトル $\vec{A_1}, \cdots, \vec{A_k}$ の和について帰納法の仮定 $P(k)$ を用いると、これらを加える順序は任意にかえてよい。 $\vec{A_1}, \cdots, \vec{A_k}$ から $\vec{A_m}$ を除いた $k-1$ 個のベクトルの和を $\vec{C}$ とおく。($k \geqq 2$ より $k-1 \geqq 1$ であるから、$\vec{C}$ はベクトルとして定まる) $\vec{A_m}$ を最後尾に並べ替えることで、$\vec{A_1} + \cdots + \vec{A_k} = \vec{C} + \vec{A_m}$ と表せる。 これを上の式に代入すると、

$$ (\vec{A_1} + \cdots + \vec{A_k}) + \vec{A_{k+1}} = (\vec{C} + \vec{A_m}) + \vec{A_{k+1}} $$

$\vec{C}, \vec{A_m}, \vec{A_{k+1}}$ はそれぞれ1つのベクトルとみなせるため、問題で与えられた3つのベクトルの加法の法則が適用できる。 結合法則と交換法則を用いて変形すると、

$$ \begin{aligned} (\vec{C} + \vec{A_m}) + \vec{A_{k+1}} &= \vec{C} + (\vec{A_m} + \vec{A_{k+1}}) \\ &= \vec{C} + (\vec{A_{k+1}} + \vec{A_m}) \\ &= (\vec{C} + \vec{A_{k+1}}) + \vec{A_m} \end{aligned} $$

となる。 ここで、$\vec{C} + \vec{A_{k+1}}$ は、全体 $\vec{A_1}, \cdots, \vec{A_{k+1}}$ から $\vec{A_m}$ を除いた $k$ 個のベクトルの和である。 一方、$\vec{B_1}, \cdots, \vec{B_k}$ は、全体 $\vec{A_1}, \cdots, \vec{A_{k+1}}$ から $\vec{B_{k+1}}$ (= $\vec{A_m}$) を除いた $k$ 個のベクトルを並べたものである。 これら $k$ 個のベクトルの集まりは一致しており、帰納法の仮定 $P(k)$ によりその和は順序によらないから、

$$ \vec{C} + \vec{A_{k+1}} = \vec{B_1} + \cdots + \vec{B_k} $$

が成り立つ。これを代入すると、

$$ (\vec{C} + \vec{A_{k+1}}) + \vec{A_m} = (\vec{B_1} + \cdots + \vec{B_k}) + \vec{B_{k+1}} $$

和の定義より、これは $\vec{B_1} + \cdots + \vec{B_{k+1}}$ に等しい。 よって、この場合も $P(k+1)$ は成り立つ。

以上 (i), (ii) より、すべての自然数 $n$ について命題 $P(n)$ が成り立つことが示された。

解説

本問は、普段当たり前のように使っている「和の順序交換」が、実は隣接要素の交換と結合法則から厳密に証明できることを問う、代数学の基礎的な問題だ。

証明の要となるのは、和が「左から順に足していく」という再帰的な構造で定義されている点だ。数学的帰納法の中で、最後尾の要素を任意のものにすげ替える操作が必要になるが、ここで「3つのベクトルの加法の法則」を用いて、塊の一部を引き剥がして入れ替えるという論理展開が最大のポイントとなる。

また、途中過程で $k-1$ 個のベクトルの和 $\vec{C}$ を設定するため、帰納法の出発点を $n=1$ だけでなく $n=2$ まで確認して $k \geqq 2$ とした点も、論理の欠陥を防ぐための重要な処理だ。

答え

数学的帰納法により、$\vec{A_1} + \vec{A_2} + \cdots + \vec{A_n} = \vec{B_1} + \vec{B_2} + \cdots + \vec{B_n}$ が成り立つことが示された。(証明は解法1に記載の通り)

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