九州大学 1986年 理系 第1問 解説

方針・初手
- 「任意の単位ベクトル $\vec{d}$」に対して成り立つ恒等式であることに着目し、計算に都合の良い特定のベクトルを代入して性質を導き出す。
- (1) では、空間の基本ベクトル(互いに直交する3つの単位ベクトル)を代入して辺々を足し合わせることで、各ベクトルの大きさの2乗の和を作り出す。
- (2) では、問題の等式に $\vec{a}$ や $\vec{b}$ 自身を代入することで、$\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$ の内積の値を求め、これらが互いに直交すること(正規直交基底であること)を示す。
解法1
(1)
空間において、互いに直交する3つの単位ベクトル $\vec{e}_1, \vec{e}_2, \vec{e}_3$ をとる。 これらは空間の基底をなすため、任意のベクトル $\vec{v}$ は実数 $x, y, z$ を用いて $\vec{v} = x\vec{e}_1 + y\vec{e}_2 + z\vec{e}_3$ と成分表示できる。 このとき、$\vec{v}\cdot\vec{e}_1 = x$, $\vec{v}\cdot\vec{e}_2 = y$, $\vec{v}\cdot\vec{e}_3 = z$ が成り立つため、$\vec{v}$ は
$$ \vec{v} = (\vec{v}\cdot\vec{e}_1)\vec{e}_1 + (\vec{v}\cdot\vec{e}_2)\vec{e}_2 + (\vec{v}\cdot\vec{e}_3)\vec{e}_3 $$
と表すことができ、その大きさの2乗はピタゴラスの定理より
$$ |\vec{v}|^2 = (\vec{v}\cdot\vec{e}_1)^2 + (\vec{v}\cdot\vec{e}_2)^2 + (\vec{v}\cdot\vec{e}_3)^2 $$
となる。 問題の条件より、任意の単位ベクトル $\vec{d}$ に対して
$$ (\vec{a}\cdot\vec{d})^2 + (\vec{b}\cdot\vec{d})^2 + (\vec{c}\cdot\vec{d})^2 = k $$
が成り立つ。 $\vec{e}_1, \vec{e}_2, \vec{e}_3$ はすべて単位ベクトルであるから、これらをそれぞれ $\vec{d}$ として代入すると、以下の3式が得られる。
$$ (\vec{a}\cdot\vec{e}_1)^2 + (\vec{b}\cdot\vec{e}_1)^2 + (\vec{c}\cdot\vec{e}_1)^2 = k $$
$$ (\vec{a}\cdot\vec{e}_2)^2 + (\vec{b}\cdot\vec{e}_2)^2 + (\vec{c}\cdot\vec{e}_2)^2 = k $$
$$ (\vec{a}\cdot\vec{e}_3)^2 + (\vec{b}\cdot\vec{e}_3)^2 + (\vec{c}\cdot\vec{e}_3)^2 = k $$
これらの辺々を足し合わせると、
$$ \sum_{i=1}^3 (\vec{a}\cdot\vec{e}_i)^2 + \sum_{i=1}^3 (\vec{b}\cdot\vec{e}_i)^2 + \sum_{i=1}^3 (\vec{c}\cdot\vec{e}_i)^2 = 3k $$
となる。 先に示した性質より $\sum_{i=1}^3 (\vec{a}\cdot\vec{e}_i)^2 = |\vec{a}|^2$ などが成り立つため、上式は
$$ |\vec{a}|^2 + |\vec{b}|^2 + |\vec{c}|^2 = 3k $$
となる。 条件より $\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$ は単位ベクトルであるから、$|\vec{a}| = |\vec{b}| = |\vec{c}| = 1$ である。 したがって、
$$ 1^2 + 1^2 + 1^2 = 3k $$
$$ 3 = 3k $$
よって、$k = 1$ である。
(2)
(1) の結果より、任意の単位ベクトル $\vec{d}$ に対して以下の等式が成り立つ。
$$ (\vec{a}\cdot\vec{d})^2 + (\vec{b}\cdot\vec{d})^2 + (\vec{c}\cdot\vec{d})^2 = 1 $$
$\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$ も単位ベクトルであるから、上式の $\vec{d}$ に $\vec{a}$ を代入すると、
$$ (\vec{a}\cdot\vec{a})^2 + (\vec{b}\cdot\vec{a})^2 + (\vec{c}\cdot\vec{a})^2 = 1 $$
$|\vec{a}| = 1$ より $\vec{a}\cdot\vec{a} = 1$ であるから、
$$ 1 + (\vec{b}\cdot\vec{a})^2 + (\vec{c}\cdot\vec{a})^2 = 1 $$
$$ (\vec{b}\cdot\vec{a})^2 + (\vec{c}\cdot\vec{a})^2 = 0 $$
実数の2乗の和が $0$ になるのはそれぞれが $0$ のときに限るため、
$$ \vec{a}\cdot\vec{b} = 0, \quad \vec{c}\cdot\vec{a} = 0 $$
となる。 同様に、等式の $\vec{d}$ に $\vec{b}$ を代入すると、
$$ (\vec{a}\cdot\vec{b})^2 + (\vec{b}\cdot\vec{b})^2 + (\vec{c}\cdot\vec{b})^2 = 1 $$
$$ 0 + 1 + (\vec{b}\cdot\vec{c})^2 = 1 $$
$$ (\vec{b}\cdot\vec{c})^2 = 0 $$
よって $\vec{b}\cdot\vec{c} = 0$ が得られる。 以上より、$\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$ は互いに直交する単位ベクトルであることがわかる。
ここで、$\vec{p} = \vec{a} + 2\vec{b} + 3\vec{c}$ と $\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$ の内積をそれぞれ計算する。
$$ \vec{a}\cdot\vec{p} = \vec{a}\cdot(\vec{a} + 2\vec{b} + 3\vec{c}) = |\vec{a}|^2 + 2(\vec{a}\cdot\vec{b}) + 3(\vec{c}\cdot\vec{a}) = 1 + 0 + 0 = 1 $$
$$ \vec{b}\cdot\vec{p} = \vec{b}\cdot(\vec{a} + 2\vec{b} + 3\vec{c}) = (\vec{a}\cdot\vec{b}) + 2|\vec{b}|^2 + 3(\vec{b}\cdot\vec{c}) = 0 + 2\cdot 1 + 0 = 2 $$
$$ \vec{c}\cdot\vec{p} = \vec{c}\cdot(\vec{a} + 2\vec{b} + 3\vec{c}) = (\vec{c}\cdot\vec{a}) + 2(\vec{b}\cdot\vec{c}) + 3|\vec{c}|^2 = 0 + 0 + 3\cdot 1 = 3 $$
したがって、求める式の値は、
$$ (\vec{a}\cdot\vec{p})^2 + (\vec{b}\cdot\vec{p})^2 + (\vec{c}\cdot\vec{p})^2 = 1^2 + 2^2 + 3^2 = 1 + 4 + 9 = 14 $$
となる。
解説
- 「任意の単位ベクトル $\vec{d}$ に対して成り立つ」という条件の扱い方が問われる問題である。(1)では空間の正規直交基底 $\vec{e}_1, \vec{e}_2, \vec{e}_3$ を代入し、(2)では $\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$ 自身を代入するという、適切なベクトルの選択ができるかが鍵となる。
- (2)の過程を通じて、条件を満たす $\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$ が空間の正規直交基底をなしていることが判明する。この事実に気づけば、$\vec{p} = \vec{a} + 2\vec{b} + 3\vec{c}$ はまさに $\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$ を基底としたときの成分表示 $(1, 2, 3)$ そのものであり、求める値が $|\vec{p}|^2 = 1^2 + 2^2 + 3^2 = 14$ となる構造が見えやすくなる。
- 成分表示を用いて $x, y, z$ の恒等式として係数比較を行う解法もあるが、計算量が多く、クロスタームの処理から $\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$ の直交性を示す部分で直交行列の知識($AA^T = E \iff A^TA = E$)がないと論理が煩雑になりやすい。本解説のようにベクトルをそのまま扱う図形的・代数的手法が最も簡明である。
答え
(1) $k = 1$
(2) $14$
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