名古屋大学 1989年 理系 第5問 解説

方針・初手
三角形 $ABC$ が鋭角三角形であることを示すには、3つの内角がすべて鋭角であること、すなわち余弦定理により $$ AB^2 + CA^2 > BC^2, \quad BC^2 + AB^2 > CA^2, \quad CA^2 + BC^2 > AB^2 $$ のすべてが成り立つことを示せばよい。 本問のような「対辺の長さがそれぞれ等しい四面体」は等面四面体と呼ばれる。図形的な対称性が高いため、対辺の中点を結ぶ線分に着目して座標系を設定するか、空間ベクトルの内積と四面体の存在条件(高さや体積が正であること)を利用することで鮮やかに証明できる。
解法1
四面体 $ABCD$ の各辺の中点を次のように定める。
- $P, Q$: それぞれ辺 $AB, CD$ の中点
- $R, S$: それぞれ辺 $AC, BD$ の中点
- $T, U$: それぞれ辺 $AD, BC$ の中点
まず、四角形 $PRQS$ に着目する。 $\triangle ABC$ において、中点連結定理より $PR \parallel BC$ かつ $PR = \frac{1}{2}BC$ である。 $\triangle DBC$ において、中点連結定理より $SQ \parallel BC$ かつ $SQ = \frac{1}{2}BC$ である。 よって $PR \parallel SQ$ かつ $PR = SQ$ となり、四角形 $PRQS$ は平行四辺形である。
さらに、$\triangle ABD$ に着目すると、中点連結定理より $PS = \frac{1}{2}AD$ である。 問題の条件 $AD = BC$ より、$PR = PS$ が成り立つ。 隣り合う辺の長さが等しい平行四辺形はひし形であるから、四角形 $PRQS$ はひし形である。 ひし形の対角線は直交するため、$PQ \perp RS$ が成り立つ。
同様にして、四角形 $PTQU$ に着目すると、$PT = PU = \frac{1}{2}BD = \frac{1}{2}AC$ よりひし形となり、$PQ \perp TU$ が成り立つ。 四角形 $RTSU$ に着目すると、$RT = RU = \frac{1}{2}CD = \frac{1}{2}AB$ よりひし形となり、$RS \perp TU$ が成り立つ。
以上より、3つの線分 $PQ, RS, TU$ は互いに直交する。 これらの交点を原点 $O$ とし、直線 $PQ, RS, TU$ をそれぞれ $x$ 軸、$y$ 軸、$z$ 軸とする直交座標系を導入する。 線分の長さを $PQ = 2x_0, RS = 2y_0, TU = 2z_0$ とすると、各中点の座標は次のように表せる。
$$ P(x_0, 0, 0), \quad Q(-x_0, 0, 0) $$
$$ R(0, y_0, 0), \quad S(0, -y_0, 0) $$
$$ T(0, 0, z_0), \quad U(0, 0, -z_0) $$
4頂点 $A, B, C, D$ の位置ベクトルを $\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}, \vec{d}$ とすると、中点の定義から以下の関係式が成り立つ。
$$ \begin{cases} \vec{a} + \vec{b} = 2\vec{p} = (2x_0, 0, 0) \\ \vec{a} + \vec{c} = 2\vec{r} = (0, 2y_0, 0) \\ \vec{b} + \vec{c} = 2\vec{u} = (0, 0, -2z_0) \end{cases} $$
第1式と第2式を足して第3式を引くと、 $$ 2\vec{a} = (2x_0, 2y_0, 2z_0) \implies A(x_0, y_0, z_0) $$ が得られる。同様にして他の頂点の座標を求めると、 $$ B(x_0, -y_0, -z_0), \quad C(-x_0, y_0, -z_0), \quad D(-x_0, -y_0, z_0) $$ となる。 この座標を用いて、$\triangle ABC$ の各辺の長さの2乗を計算する。
$$ AB^2 = (x_0-x_0)^2 + (y_0 - (-y_0))^2 + (z_0 - (-z_0))^2 = 4y_0^2 + 4z_0^2 $$
$$ BC^2 = (-x_0-x_0)^2 + (y_0 - (-y_0))^2 + (-z_0 - (-z_0))^2 = 4x_0^2 + 4y_0^2 $$
$$ CA^2 = (x_0 - (-x_0))^2 + (y_0-y_0)^2 + (z_0 - (-z_0))^2 = 4x_0^2 + 4z_0^2 $$
これらを用いて、$\angle BAC$ について余弦定理の分子を評価する。
$$ AB^2 + CA^2 - BC^2 = (4y_0^2 + 4z_0^2) + (4x_0^2 + 4z_0^2) - (4x_0^2 + 4y_0^2) = 8z_0^2 $$
4点 $A, B, C, D$ は四面体を構成するため同一平面上にはなく、$z_0 \neq 0$ である。 したがって $8z_0^2 > 0$ となり、$AB^2 + CA^2 > BC^2$、すなわち $\angle BAC < 90^\circ$ が示される。 同様に、 $$ BC^2 + AB^2 - CA^2 = 8y_0^2 > 0 \implies \angle ABC < 90^\circ $$
$$ CA^2 + BC^2 - AB^2 = 8x_0^2 > 0 \implies \angle BCA < 90^\circ $$ が成り立つため、$\triangle ABC$ は鋭角三角形であることが証明された。
解法2
$\vec{b} = \vec{AB}, \vec{c} = \vec{AC}, \vec{d} = \vec{AD}$ とおく。 条件より $|\vec{b}| = |\vec{c}-\vec{d}|$, $|\vec{c}| = |\vec{b}-\vec{d}|$, $|\vec{d}| = |\vec{b}-\vec{c}|$ である。 これらの両辺を2乗して整理すると、
$$ |\vec{b}|^2 = |\vec{c}|^2 - 2\vec{c}\cdot\vec{d} + |\vec{d}|^2 $$
$$ |\vec{c}|^2 = |\vec{b}|^2 - 2\vec{b}\cdot\vec{d} + |\vec{d}|^2 $$
$$ |\vec{d}|^2 = |\vec{b}|^2 - 2\vec{b}\cdot\vec{c} + |\vec{c}|^2 $$
第3式を変形すると、$\vec{b}\cdot\vec{c} = \frac{|\vec{b}|^2+|\vec{c}|^2-|\vec{d}|^2}{2}$ となる。 ここで、 $$ x = \vec{b}\cdot\vec{c}, \quad y = \vec{c}\cdot\vec{d}, \quad z = \vec{d}\cdot\vec{b} $$ とおくと、上の3式から $$ |\vec{b}|^2 = x+z, \quad |\vec{c}|^2 = x+y, \quad |\vec{d}|^2 = y+z $$ と表せる。 $\vec{b}, \vec{c}, \vec{d}$ は四面体をなすため一次独立である。平面 $ABC$ 上に点 $H$ を、$\vec{DH} \perp 平面 ABC$ となるようにとる。 $\vec{AH} = s\vec{b} + t\vec{c}$ ($s, t$ は実数)とおくと、$\vec{DH} = \vec{AH} - \vec{d} = s\vec{b} + t\vec{c} - \vec{d}$ である。 $\vec{DH} \perp \vec{b}$ かつ $\vec{DH} \perp \vec{c}$ より、$\vec{DH}\cdot\vec{b} = 0$ および $\vec{DH}\cdot\vec{c} = 0$ が成り立つので、
$$ \begin{cases} s|\vec{b}|^2 + t(\vec{b}\cdot\vec{c}) = \vec{d}\cdot\vec{b} \\ s(\vec{b}\cdot\vec{c}) + t|\vec{c}|^2 = \vec{d}\cdot\vec{c} \end{cases} \implies \begin{cases} s(x+z) + tx = z \\ sx + t(x+y) = y \end{cases} $$
この連立方程式を解く。行列式 $\Delta = (x+z)(x+y) - x^2 = xy+yz+zx$ は、$\Delta = |\vec{b}|^2|\vec{c}|^2 - (\vec{b}\cdot\vec{c})^2 > 0$ より正である。 これを解いて $s = \frac{zx}{\Delta}, t = \frac{xy}{\Delta}$ を得る。 このとき、 $$ |\vec{AH}|^2 = s(\vec{AH}\cdot\vec{b}) + t(\vec{AH}\cdot\vec{c}) = sz + ty = \frac{x(y^2+z^2)}{xy+yz+zx} $$ となる。四面体が存在することから、高さ $DH$ について $DH^2 > 0$ が成り立つため、
$$ DH^2 = |\vec{d}|^2 - |\vec{AH}|^2 = y+z - \frac{x(y^2+z^2)}{xy+yz+zx} = \frac{yz(2x+y+z)}{xy+yz+zx} > 0 $$
ここで、分母は $\Delta > 0$ であり、分子のカッコ内は $2x+y+z = x + (x+y+z) = |\vec{b}|^2 > 0$ であるため、$yz > 0$ が導かれる。 対称性から、同様に $zx > 0, xy > 0$ も成り立つ。 $x, y, z$ はすべて同符号となるが、仮にすべて負だとすると $|\vec{b}|^2 = x+z < 0$ となり矛盾する。 したがって、$x > 0, y > 0, z > 0$ である。
$\triangle ABC$ において内積を調べると、
$$ \vec{AB}\cdot\vec{AC} = \vec{b}\cdot\vec{c} = x > 0 $$
$$ \vec{BA}\cdot\vec{BC} = (-\vec{b})\cdot(\vec{c}-\vec{b}) = |\vec{b}|^2 - \vec{b}\cdot\vec{c} = (x+z) - x = z > 0 $$
$$ \vec{CA}\cdot\vec{CB} = (-\vec{c})\cdot(\vec{b}-\vec{c}) = |\vec{c}|^2 - \vec{b}\cdot\vec{c} = (x+y) - x = y > 0 $$
3つの内積がすべて正であるため、$\triangle ABC$ の3つの内角はすべて鋭角である。
解説
本問で扱われている四面体は「等面四面体」と呼ばれ、4つの面がすべて合同な三角形で構成されています。 解法1は、等面四面体が「直方体の8つの頂点から、互いに隣り合わない4つの頂点を選んでできる四面体」として直方体に埋め込めるという有名事実を、中点連結定理を用いて自力で構成したものです。計算が非常に簡明になる強力なアプローチです。 解法2は、空間ベクトルを用いて内積を辺の長さで表現し、四面体がつぶれずに空間内に存在するための条件(高さが正、あるいはグラム行列式が正)から内積の符号を決定する正攻法です。ベクトルを用いた論証力を問う良問といえます。
答え
(証明終) 対辺の長さが等しい四面体 $ABCD$ において、$\triangle ABC$ の3つの内角がすべて鋭角になることが示されたため、$\triangle ABC$ は鋭角三角形である。
自分の記録
誤りを報告
解説の誤り、誤字、表示崩れに気づいた場合は送信してください。ログイン不要です。











