東京大学 1975年 文系 第2問 解説

方針・初手
与えられた等式から分母を払い、すべての $x$(ただし $x \neq 0$)で成り立つ多項式の恒等式に帰着させて考えるのが基本方針である。恒等式は $x=0$ や $x=-1$ のような特定の値の代入、または両辺の因数($x$ や $x+1$ など)の個数の比較、次数の比較によって条件を絞り込むことができる。 極限($x \to \infty$)を考えて、両辺の漸近挙動(オーダーや係数)を比較するアプローチも非常に有効である。ここでは多項式の因数に着目する解法と、極限を利用する解法の2通りを示す。
解法1
与えられた等式
$$ \frac{(x+1)^k}{x^l} - 1 = \frac{(x+1)^m}{x^n} $$
の左辺を通分すると、
$$ \frac{(x+1)^k - x^l}{x^l} = \frac{(x+1)^m}{x^n} $$
となる。分母を払うと、
$$ x^n \{ (x+1)^k - x^l \} = x^l (x+1)^m \quad \cdots \text{①} $$
が得られる。等式が $0$ でないすべての $x$ で成り立つということは、これが $x$ についての多項式としての恒等式であることを意味する。したがって、等式①は $x=0$ や $x=-1$ においても成り立つ。
ここで、$l$ が正か $0$ かで場合分けをする。
(i) $l > 0$ の場合
①の右辺 $x^l (x+1)^m$ は、$x=0$ を代入すると $0$ となるため $x$ を因数に持つ。 一方、左辺の波括弧の中身について $x=0$ を代入すると、
$$ (0+1)^k - 0^l = 1 \neq 0 $$
となるため、$(x+1)^k - x^l$ は $x$ を因数に持たない。 恒等式①の両辺において、$x$ を因数として持つ個数(すなわち $x=0$ を根とする重複度)は一致しなければならない。右辺は $x$ をちょうど $l$ 個持ち、左辺は $x$ をちょうど $n$ 個持つから、
$$ n = l $$
が成り立つ。これを①に代入すると、
$$ x^l \{ (x+1)^k - x^l \} = x^l (x+1)^m $$
多項式として両辺を $x^l$ で割ると、
$$ (x+1)^k - x^l = (x+1)^m $$
これを変形して、
$$ (x+1)^m \{ (x+1)^{k-m} - 1 \} = x^l \quad \cdots \text{②} $$
ここで、恒等式②の両辺に $x=-1$ を代入する。 右辺は $(-1)^l \neq 0$($l > 0$ より)である。しかし、もし $m > 0$ であれば、左辺は因数 $(x+1)^m$ を持つため $0$ となってしまい、矛盾する。 したがって、$m = 0$ でなければならない。
$m=0$ を②に代入すると、
$$ (x+1)^k - 1 = x^l $$
$$ (x+1)^k = x^l + 1 \quad \cdots \text{③} $$
これが恒等式となる。両辺の最高次の次数を比較すると、$k = l$ である。 さらに、③の両辺に $x=1$ を代入すると、
$$ 2^k = 1^l + 1 = 2 $$
となり、$2^k = 2$ より $k=1$ を得る。 このとき $l=k=1$ であり、$n=l=1$ である。 $(k, l, m, n) = (1, 1, 0, 1)$ のとき、等式③は $(x+1)^1 = x^1 + 1$ となり確かに恒等的に成り立つ。
(ii) $l = 0$ の場合
元の等式は、
$$ (x+1)^k - 1 = \frac{(x+1)^m}{x^n} $$
両辺に $x^n$ をかけると、
$$ x^n \{ (x+1)^k - 1 \} = (x+1)^m \quad \cdots \text{④} $$
④は多項式の恒等式である。 右辺 $(x+1)^m$ は、$x=0$ を代入すると $1^m = 1 \neq 0$ となり、$x$ を因数に持たない。 もし $n > 0$ であれば、④の左辺は $x^n$ を持つため全体として $x$ を因数に持つことになり矛盾する。 したがって、$n = 0$ である。 $n=0$ を④に代入すると、
$$ (x+1)^k - 1 = (x+1)^m $$
$$ (x+1)^k - (x+1)^m = 1 $$
これが恒等式となるためには両辺の次数が一致しなければならないが、右辺は定数であるから左辺も定数でなければならない。 しかし、左辺が定数となるのは、 ・$k = m$ のとき(左辺は $0$ となり、$0=1$ で矛盾) ・$k=0$ かつ $m=0$ のとき(左辺は $1-1=0$ となり、$0=1$ で矛盾) のみであり、いずれの場合も等式は成立しない。 よって、$l=0$ のとき条件を満たす組は存在しない。
(i), (ii) より、求める組は $(k, l, m, n) = (1, 1, 0, 1)$ のみである。
解法2
与式を
$$ \frac{(x+1)^k - x^l}{x^l} = \frac{(x+1)^m}{x^n} \quad \cdots \text{①} $$
とする。$0$ でないすべての $x$ について成り立つので、$x \to \infty$ のときの挙動(オーダーと極限値)は両辺で一致しなければならない。 $x \to \infty$ のとき、各辺の極限を考えるため、$k$ と $l$ の大小で場合分けをする。
(i) $k < l$ の場合
$x \to \infty$ のとき、$\frac{(x+1)^k}{x^l} \to 0$ であるから、
$$ (\text{①の左辺}) = \frac{(x+1)^k}{x^l} - 1 \to -1 $$
となる。 一方、右辺 $\frac{(x+1)^m}{x^n}$ が $0$ でない定数に収束するためには $m = n$ でなければならず、そのときの極限値は最高次係数の比である $1$ となる。 これは左辺の極限値 $-1$ と一致しないため不適である。
(ii) $k > l$ の場合
$x \to \infty$ のとき、①の左辺は最高次が $x^{k-l}$ となり、その係数は $1$ だから $+ \infty$ に発散する。 右辺も $+ \infty$ に発散しなければならないので $m > n$ であり、最高次 $x^{m-n}$(係数 $1$)として発散する。 両辺の発散のオーダーと係数が一致しなければならないから、
$$ k - l = m - n > 0 \quad \cdots \text{②} $$
が成り立つ。 さらに①の両辺に $x^l$ をかけると、
$$ (x+1)^k - x^l = x^{l-n} (x+1)^m $$
となる。②より $l-n = k-m$ であるから、
$$ (x+1)^k - x^l = x^{k-m} (x+1)^m $$
ここで多項式の恒等式として $x=-1$ を代入すると、左辺は $0 - (-1)^l$、右辺は $0$ となるため、
$$ -(-1)^l = 0 $$
となるが、これは不可能である。よって $k > l$ の場合も不適である。
(iii) $k = l$ の場合
もし $k=0$ の場合、$l=0$ となる。左辺は $\frac{1}{1} - 1 = 0$ となり、右辺は $\frac{(x+1)^m}{x^n}$ となるが、分子が恒等的に $0$ になることはないため不適。よって $k \ge 1$ である。 ①の左辺は、分子を二項定理を用いて展開すると
$$ \frac{(x^k + kx^{k-1} + \cdots + 1) - x^k}{x^k} = \frac{k x^{k-1} + \frac{k(k-1)}{2} x^{k-2} + \cdots + 1}{x^k} $$
となる。 $x \to \infty$ のとき、この式は $\frac{k}{x}$ と同値な漸近挙動を示す。 右辺 $\frac{(x+1)^m}{x^n}$ は $x^{m-n}$ と同値な漸近挙動を示す。 両辺の漸近挙動が一致するためには、次数について
$$ -1 = m - n \implies n = m + 1 $$
であり、係数について
$$ k = 1 $$
でなければならない。 $k=1$ であり、$k=l$ より $l=1$。 これらを元の等式に代入すると、
$$ \frac{x+1}{x} - 1 = \frac{(x+1)^m}{x^{m+1}} $$
$$ \frac{1}{x} = \frac{(x+1)^m}{x^{m+1}} $$
両辺に $x^{m+1}$ をかけると、
$$ x^m = (x+1)^m $$
これが恒等式になるためには、両辺の次数比較(または定数項の比較)から $m=0$ でなければならない。 $m=0$ のとき等式は $1 = 1$ となり成立する。 このとき $n = m+1 = 1$ である。
以上より、求める組は $(1, 1, 0, 1)$ のみである。
解説
有理式の恒等式を扱う問題である。分母を払って「多項式の恒等式」に持ち込むのが鉄則である。多項式の恒等式では、以下の3つの見方が強力な武器となる。
- 特定の値の代入: 本問では $x=0$ や $x=-1$ を代入することで、式の一部を $0$ にして条件を絞り込んだ。
- 因数定理と重複度: $(x+1)^k - x^l$ が $x$ を因数に持たないことを利用して、$x$ の冪乗の指数を特定した。
- 極限と漸近挙動の比較: 解法2のように $x \to \infty$ のときの最高次の振る舞い(オーダーと係数)を比較することで、指数の関係性を一気に暴くことができる。 いずれの方針でも、行き詰まることなく解答にたどり着ける良問である。
答え
$$ (k, l, m, n) = (1, 1, 0, 1) $$
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