名古屋大学 1986年 理系 第5問 解説

方針・初手
(1) は3回の移動について全事象を考え、到達点の原点からの距離 $S$ ごとに確率を求めて期待値を計算する。全事象が $4^3=64$ 通りであるため、全てを分類して数え上げるのが確実である。 (2) は $T_{n+1}$ と $T_n$ の関係式から期待値の漸化式を立てるか、1回ごとの変位ベクトルの和として $X_n, Y_n$ を表して展開する方針が有効である。
解法1
(1) 全事象は $4^3 = 64$ 通りである。3回の移動で到達する点と原点からの距離 $S$ の値について分類する。
(i) $S=3$ となる場合 3回とも同じ方向に進む場合であり、上上上、下下下、左左左、右右右の4通りである。 このとき確率は $\frac{4}{64}$ となる。
(ii) $S=\sqrt{5}$ となる場合 2回が同方向で、1回がそれと直交する方向に進む場合である。 (例:右に2回、上に1回進むと、到達点は $(2,1)$ となり距離は $S = \sqrt{2^2+1^2} = \sqrt{5}$ となる) 直交する2方向の選び方は(縦から1つ、横から1つ選ぶため) $2 \times 2 = 4$ 通りある。 どちらの方向を2回にするかで2通りあるため、方向の組み合わせは $4 \times 2 = 8$ 通りである。 各組み合わせについて、移動の順序は $\frac{3!}{2!} = 3$ 通りある。 合計して $8 \times 3 = 24$ 通りである。 このとき確率は $\frac{24}{64}$ となる。
(iii) $S=1$ となる場合 距離が $1$ となるのは以下の2パターンである。 (ア) 2回が同方向で、1回がそれと逆方向に進む場合 2回進む方向の選び方は4通りである。(逆方向は自動的に決まる) 順序は $\frac{3!}{2!} = 3$ 通りである。 よって $4 \times 3 = 12$ 通りである。 (イ) 3回とも異なる方向で、うち2回が逆方向で打ち消し合う場合 打ち消し合うペアは「上下」または「左右」の2通りである。 残り1回の方向の選び方は、ペアと直交する2通りである。 順序は3回とも異なるので $3! = 6$ 通りである。 よって $2 \times 2 \times 6 = 24$ 通りである。 (ア)(イ) を合わせて $12 + 24 = 36$ 通りである。 このとき確率は $\frac{36}{64}$ となる。
すべて合計すると $4 + 24 + 36 = 64$ となり、全事象を網羅できている。 期待値 $E(S)$ は、これらを用いて以下のように計算できる。
$$ E(S) = 3 \times \frac{4}{64} + \sqrt{5} \times \frac{24}{64} + 1 \times \frac{36}{64} $$
$$ E(S) = \frac{12 + 24\sqrt{5} + 36}{64} $$
$$ E(S) = \frac{48 + 24\sqrt{5}}{64} $$
$$ E(S) = \frac{6 + 3\sqrt{5}}{8} $$
(2) $n$ 回目の移動を終えたときの座標を $(X_n, Y_n) = (x, y)$ とする。このとき $T_n = x^2 + y^2$ である。 ここから $(n+1)$ 回目の移動を行うと、各確率 $\frac{1}{4}$ で $(x, y+1), (x, y-1), (x-1, y), (x+1, y)$ のいずれかに移動する。 したがって、$(X_n, Y_n) = (x, y)$ と固定したときの $T_{n+1} = X_{n+1}^2 + Y_{n+1}^2$ のとりうる値の平均(条件付き期待値)は、
$$ \frac{1}{4} \left\{ x^2 + (y+1)^2 \right\} + \frac{1}{4} \left\{ x^2 + (y-1)^2 \right\} + \frac{1}{4} \left\{ (x-1)^2 + y^2 \right\} + \frac{1}{4} \left\{ (x+1)^2 + y^2 \right\} $$
これを展開して整理すると、
$$ \frac{1}{4} \left( x^2 + y^2 + 2y + 1 + x^2 + y^2 - 2y + 1 + x^2 - 2x + 1 + y^2 + x^2 + 2x + 1 + y^2 \right) $$
$$ = \frac{1}{4} \left( 4x^2 + 4y^2 + 4 \right) = x^2 + y^2 + 1 $$
となる。 これは、任意の到達点 $(x, y)$ に対して、$T_{n+1}$ の期待値が $T_n + 1$ になることを示している。 したがって、全ての事象について期待値をとると、
$$ E(T_{n+1}) = E(T_n) + 1 $$
という漸化式が成り立つ。 $Z_0 = (0, 0)$ より $T_0 = 0$ であり、$E(T_0) = 0$ である。 よって、数列 $\{ E(T_n) \}$ は初項 $0$、公差 $1$ の等差数列となるため、
$$ E(T_n) = n $$
が示された。
解法2
(2) $k$ 回目の移動を表す変位ベクトルを $\vec{v}_k = (x_k, y_k)$ とおく。$(k = 1, 2, \dots, n)$ $\vec{v}_k$ は独立に $(0, 1), (0, -1), (-1, 0), (1, 0)$ をそれぞれ確率 $\frac{1}{4}$ でとる。 $x_k, y_k$ のそれぞれの期待値は、
$$ E(x_k) = 0 \times \frac{1}{4} + 0 \times \frac{1}{4} + (-1) \times \frac{1}{4} + 1 \times \frac{1}{4} = 0 $$
$$ E(y_k) = 1 \times \frac{1}{4} + (-1) \times \frac{1}{4} + 0 \times \frac{1}{4} + 0 \times \frac{1}{4} = 0 $$
また、各移動の長さは $1$ であるから、すべての $k$ に対して常に $x_k^2 + y_k^2 = 1$ が成り立つ。 $n$ 回の移動後の座標 $X_n, Y_n$ は、
$$ X_n = \sum_{k=1}^n x_k, \quad Y_n = \sum_{k=1}^n y_k $$
と表せる。よって、$T_n$ は次のように展開できる。
$$ T_n = X_n^2 + Y_n^2 = \left( \sum_{k=1}^n x_k \right)^2 + \left( \sum_{k=1}^n y_k \right)^2 $$
$$ = \sum_{k=1}^n (x_k^2 + y_k^2) + 2 \sum_{1 \le i < j \le n} (x_i x_j + y_i y_j) $$
ここで、第1項は $\sum_{k=1}^n 1 = n$ である。期待値の線型性より、全体で期待値をとると以下のようになる。
$$ E(T_n) = E(n) + 2 \sum_{1 \le i < j \le n} \{ E(x_i x_j) + E(y_i y_j) \} $$
$i \neq j$ のとき、$i$ 回目と $j$ 回目の移動は互いに独立であるため、確率変数の積の期待値は期待値の積に分解でき、$E(x_i x_j) = E(x_i)E(x_j) = 0 \times 0 = 0$ となる。同様に $E(y_i y_j) = 0$ となる。 したがって、後半のシグマの部分はすべて $0$ となり、
$$ E(T_n) = n + 2 \sum_{1 \le i < j \le n} (0 + 0) = n $$
が示された。
解説
座標平面上のランダムウォーク(確率歩行)に関する問題である。 (1) は直接確率を計算する問題である。漏れや重複がないように、距離と方向の組み合わせをしっかり分類できるかが鍵となる。 (2) は分散の加法性にも通じる重要な性質である。解法1のように状態 $Z_n$ からの1ステップの遷移を考えて漸化式に帰着する方法、または解法2のように移動量の和として立式して独立性を利用する方法のいずれも、確率変数の期待値の扱いとして非常に重要である。 和の期待値の線型性 $E(X+Y) = E(X) + E(Y)$ は常に成り立つが、積の期待値 $E(XY) = E(X)E(Y)$ は $X, Y$ が独立な場合に限ることに注意したい。
答え
(1) $$ E(S) = \frac{6 + 3\sqrt{5}}{8} $$
(2) 題意の通り示された。
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