名古屋大学 2000年 理系 第4問 解説

方針・初手
問題文の「$C$ の影とは $C$ 内の点から平面 $H$ へひいた垂線の足全体のなす図形である」という記述から、光の進行方向に関わらず、立方体 $C$ を平面 $H$ に正射影した図形の面積を求めればよいことが分かります。
立方体は凸多面体であるため、その正射影の面積は、特定の方向から見て「見える」面の正射影の面積の総和として求めるアプローチ(解法1)と、立方体を構成する3つの基底ベクトルを正射影して平面上の図形として面積を直接計算するアプローチ(解法2)が考えられます。
解法1
平面 $H$ は原点を通り、ベクトル $\vec{l} = (-a_1, -a_2, -a_3)$ に垂直な平面である。 ここで、平面 $H$ の単位法線ベクトルとして $\vec{n} = -\vec{l} = (a_1, a_2, a_3)$ をとる。問題の条件より $|\vec{l}| = 1$ であるから、$|\vec{n}| = 1$ であり、$a_1^2 + a_2^2 + a_3^2 = 1$ が成り立つ。また、$a_1 > 0, a_2 > 0, a_3 > 0$ である。
求める影の面積は、立方体 $C$ を平面 $H$ へ正射影した図形の面積である。 立方体 $C$ は凸多面体であるため、ある方向 $\vec{n}$ から平行光線を当てたときの影の面積は、光が直接当たる面(すなわち外向き法線ベクトルと $\vec{n}$ のなす角が鋭角になる面)の正射影の面積の総和に等しい。
立方体 $C$ は $x, y, z$ 軸に平行な6つの面をもつ。それらの外向き単位法線ベクトルは $\pm\vec{e}_1, \pm\vec{e}_2, \pm\vec{e}_3$ (ただし $\vec{e}_1 = (1,0,0), \vec{e}_2 = (0,1,0), \vec{e}_3 = (0,0,1)$)である。 これらと $\vec{n}$ との内積を考えると、$a_i > 0$ であることから、内積が正(なす角が鋭角)となるのは $\vec{e}_1, \vec{e}_2, \vec{e}_3$ の3つである。
これらを法線にもつ面は、それぞれ平面 $x=1, y=1, z=1$ に含まれる正方形であり、その面積はすべて $1$ である。 面積 $S$ の平面図形を、法線ベクトルが $\vec{n}$ の平面へ正射影した図形の面積 $S'$ は、元の平面の単位法線ベクトルを $\vec{m}$ とすると、$S' = S|\vec{m} \cdot \vec{n}|$ で与えられる。
したがって、光が当たる3つの面の正射影の面積 $S_1, S_2, S_3$ はそれぞれ以下のようになる。
$$ S_1 = 1 \times |\vec{e}_1 \cdot \vec{n}| = a_1 $$
$$ S_2 = 1 \times |\vec{e}_2 \cdot \vec{n}| = a_2 $$
$$ S_3 = 1 \times |\vec{e}_3 \cdot \vec{n}| = a_3 $$
これら3つの面の正射影は平面 $H$ 上で互いに重ならず、影全体を隙間なく構成する。 よって、求める影の面積はこれらの和となる。
$$ S_1 + S_2 + S_3 = a_1 + a_2 + a_3 $$
解法2
平面 $H$ の単位法線ベクトルを $\vec{n} = -\vec{l} = (a_1, a_2, a_3)$ とする。$|\vec{n}| = 1$ より $a_1^2 + a_2^2 + a_3^2 = 1$ である。
立方体 $C$ は、3つのベクトル $\vec{e}_1 = (1, 0, 0), \vec{e}_2 = (0, 1, 0), \vec{e}_3 = (0, 0, 1)$ によって張られる平行六面体である。 これらのベクトルを平面 $H$ へ正射影したベクトルをそれぞれ $\vec{p}_1, \vec{p}_2, \vec{p}_3$ とすると、
$$ \vec{p}_i = \vec{e}_i - (\vec{e}_i \cdot \vec{n})\vec{n} \quad (i=1,2,3) $$
と表される。具体的には以下のようになる。
$$ \vec{p}_1 = \vec{e}_1 - a_1\vec{n} $$
$$ \vec{p}_2 = \vec{e}_2 - a_2\vec{n} $$
$$ \vec{p}_3 = \vec{e}_3 - a_3\vec{n} $$
立方体の平面 $H$ への影は、これら3つのベクトルによって平面 $H$ 上に張られる六角形の領域となる。 ここで、$\vec{p}_i$ どうしの内積を計算すると、例えば $\vec{p}_1$ と $\vec{p}_2$ については、
$$ \begin{aligned} \vec{p}_1 \cdot \vec{p}_2 &= (\vec{e}_1 - a_1\vec{n}) \cdot (\vec{e}_2 - a_2\vec{n}) \\ &= \vec{e}_1 \cdot \vec{e}_2 - a_2(\vec{e}_1 \cdot \vec{n}) - a_1(\vec{e}_2 \cdot \vec{n}) + a_1 a_2 |\vec{n}|^2 \\ &= 0 - a_1 a_2 - a_1 a_2 + a_1 a_2 \\ &= -a_1 a_2 \end{aligned} $$
となる。$a_1, a_2 > 0$ より $\vec{p}_1 \cdot \vec{p}_2 < 0$ であり、$\vec{p}_1$ と $\vec{p}_2$ は鈍角をなす。対称性から、これら3つのベクトルは互いにすべて鈍角をなす。 したがって、この影の領域は、原点周りに重なりなく配置された3つの平行四辺形($\vec{p}_1$ と $\vec{p}_2$、$\vec{p}_2$ と $\vec{p}_3$、$\vec{p}_3$ と $\vec{p}_1$ によって張られる平行四辺形)から構成される。
$\vec{p}_1$ と $\vec{p}_2$ が張る平行四辺形の面積 $S_{12}$ を求める。 $|\vec{p}_1|^2$ および $|\vec{p}_2|^2$ を計算すると、
$$ \begin{aligned} |\vec{p}_1|^2 &= |\vec{e}_1 - a_1\vec{n}|^2 = |\vec{e}_1|^2 - 2a_1(\vec{e}_1 \cdot \vec{n}) + a_1^2|\vec{n}|^2 = 1 - 2a_1^2 + a_1^2 = 1 - a_1^2 \\ |\vec{p}_2|^2 &= 1 - a_2^2 \end{aligned} $$
となる。平行四辺形の面積の公式より、
$$ \begin{aligned} S_{12}^2 &= |\vec{p}_1|^2 |\vec{p}_2|^2 - (\vec{p}_1 \cdot \vec{p}_2)^2 \\ &= (1 - a_1^2)(1 - a_2^2) - (-a_1 a_2)^2 \\ &= 1 - a_1^2 - a_2^2 + a_1^2 a_2^2 - a_1^2 a_2^2 \\ &= 1 - a_1^2 - a_2^2 \end{aligned} $$
ここで、$a_1^2 + a_2^2 + a_3^2 = 1$ を用いると $S_{12}^2 = a_3^2$ となる。$a_3 > 0$ であるから、$S_{12} = a_3$ である。 同様に対称性から、$\vec{p}_2$ と $\vec{p}_3$ が張る平行四辺形の面積は $a_1$、$\vec{p}_3$ と $\vec{p}_1$ が張る平行四辺形の面積は $a_2$ となる。
よって、求める影の面積はこれら3つの平行四辺形の面積の和であり、$a_1 + a_2 + a_3$ となる。
解説
空間図形における正射影の面積を求める典型的な問題です。 「面積 $S$ の図形を、なす角 $\theta$ の平面に正射影した面積は $S\cos\theta$ になる」という事実(解法1のベース)を知っていると、ほとんど計算せずに答えを導き出すことができます。
一方、解法2のようにベクトルを用いて厳密に立式し、代数的に計算して求める手法も、空間図形の確実な処理能力として重要です。特に成分が具体的に与えられている場合、ベクトルの内積や面積公式を用いたアプローチが強力な武器となります。
また、投影された図形が「重ならない」ことの論理的な裏付け(解法1では凸多面体の性質、解法2では正射影されたベクトルのなす角が鈍角であること)を押さえておくことも、論証の飛躍を防ぐポイントです。
答え
$$ a_1 + a_2 + a_3 $$
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