大阪大学 1985年 文系 第2問 解説

方針・初手
行列による1次変換が「直線を同じ直線にうつす」という幾何学的な条件を、数式に翻訳する。 直線上の点を表す方法として、直線の「方向ベクトル」に着目して媒介変数表示を利用するアプローチ(解法1)と、直線の「方程式(法線ベクトル)」に着目するアプローチ(解法2)が考えられる。 いずれの方法でも、ある連立1次方程式が自明でない解をもつ条件(係数行列の行列式が $0$ になること)を利用して、目的の2次方程式を導出する。
解法1
変換を表す行列を $A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}$ とする。
直線 $l$ の方向ベクトルを $\vec{d} = \begin{pmatrix} p \\ q \end{pmatrix}$ とおく。ただし直線であるから $\vec{d} \neq \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix}$ である。
直線 $l$ が同じ直線 $l$ にうつされるとき、$l$ 上の任意の点の像もまた $l$ 上にある。 $l$ 上の相異なる2点 $\mathrm{P}, \mathrm{Q}$ をとると、その位置ベクトルの差 $\vec{\mathrm{Q}} - \vec{\mathrm{P}} = \vec{\mathrm{PQ}}$ は方向ベクトル $\vec{d}$ に平行である。 点 $\mathrm{P}, \mathrm{Q}$ の $A$ による像をそれぞれ $\mathrm{P}', \mathrm{Q}'$ とすると、仮定よりこれらも $l$ 上の点である。 したがって、ベクトル $\vec{\mathrm{P}'\mathrm{Q}'}$ は直線 $l$ に平行なベクトルであるか、または $\mathrm{P}', \mathrm{Q}'$ が一致して零ベクトルになる。
ここで、行列による1次変換の線形性から、以下の式が成り立つ。
$$ \vec{\mathrm{P}'\mathrm{Q}'} = A\vec{\mathrm{Q}} - A\vec{\mathrm{P}} = A(\vec{\mathrm{Q}} - \vec{\mathrm{P}}) = A\vec{\mathrm{PQ}} $$
$\vec{\mathrm{PQ}}$ は $\vec{d}$ の実数倍であるから、結局 $A\vec{d}$ が $\vec{d}$ と平行であるか、または零ベクトルになることがわかる。 よって、ある実数 $k$ が存在して次のように表せる。
$$ A\vec{d} = k\vec{d} $$
これを成分で書き下すと、
$$ \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \begin{pmatrix} p \\ q \end{pmatrix} = k \begin{pmatrix} p \\ q \end{pmatrix} $$
式を整理すると、以下のようになる。
$$ \begin{pmatrix} a - k & b \\ c & d - k \end{pmatrix} \begin{pmatrix} p \\ q \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} $$
ここで、$\vec{d} = \begin{pmatrix} p \\ q \end{pmatrix} \neq \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix}$ であるから、この $p, q$ についての連立1次方程式は自明でない解をもたなければならない。 そのための必要十分条件は、係数行列の行列式が $0$ になることである。
$$ (a - k)(d - k) - bc = 0 $$
これを展開して整理する。
$$ k^2 - (a + d)k + ad - bc = 0 $$
実数 $k$ がこの方程式を満たすということは、方程式 $x^2 - (a+d)x + ad - bc = 0$ が実数解 $x = k$ をもつことに他ならない。
解法2
変換を表す行列を $A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}$ とする。
直線 $l$ の方程式を $pu + qv + r = 0$ とおく。ただし、直線であるための条件として $(p, q) \neq (0, 0)$ である。
直線 $l$ 上の任意の点 $(u, v)$ は、変換によって点 $(u', v')$ にうつされる。
$$ \begin{pmatrix} u' \\ v' \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \begin{pmatrix} u \\ v \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} au + bv \\ cu + dv \end{pmatrix} $$
直線 $l$ が同じ直線 $l$ にうつされる条件より、この像 $(u', v')$ も $l$ 上の点であるから、以下の式を満たす。
$$ pu' + qv' + r = 0 $$
これに $(u', v')$ の成分を代入する。
$$ p(au + bv) + q(cu + dv) + r = 0 $$
$u, v$ について整理する。
$$ (ap + cq)u + (bp + dq)v + r = 0 $$
これが、$pu + qv + r = 0$ を満たす任意の $(u, v)$ に対して成り立つ。 すなわち、これら2つの $u, v$ の1次方程式は同じ直線上の関係を表しているため、係数が比例関係になければならない。(仮に像が1点に潰れる場合でも、比例定数が $0$ の場合として表せる) よって、ある実数 $k$ が存在して、次の関係が成り立つ。
$$ \begin{cases} ap + cq = kp \\ bp + dq = kq \\ r = kr \end{cases} $$
第1式および第2式を整理する。
$$ \begin{cases} (a - k)p + cq = 0 \\ bp + (d - k)q = 0 \end{cases} $$
これを行列を用いて表す。
$$ \begin{pmatrix} a - k & c \\ b & d - k \end{pmatrix} \begin{pmatrix} p \\ q \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} $$
$(p, q) \neq (0, 0)$ であるから、この連立方程式が自明でない解をもつ条件として、係数行列の行列式は $0$ でなければならない。
$$ (a - k)(d - k) - bc = 0 $$
展開して整理する。
$$ k^2 - (a + d)k + ad - bc = 0 $$
この等式は、実数 $k$ が方程式 $x^2 - (a+d)x + ad - bc = 0$ の解であることを示している。したがって、この2次方程式は実数解をもつ。
解説
問題の2次方程式 $x^2 - (a+d)x + ad - bc = 0$ は、行列 $A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}$ の特性方程式 $\det(A - xI) = 0$ に他ならない。 行列 $A$ による変換で直線が同じ直線にうつされるという幾何学的な事象は、代数的には行列 $A$ が実数の固有値をもつ(直線の方向ベクトルが固有ベクトルとなる)ことと同値である。 解法1は直線の「方向ベクトル(行列 $A$ の固有ベクトル)」に着目し、解法2は直線の「法線ベクトル(転置行列 $^tA$ の固有ベクトル)」に着目した解法となっている。
答え
行列 $A$ による変換で不変となる直線の方向ベクトル、あるいは法線ベクトルに着目して係数行列の行列式を考えることで、$x^2 - (a+d)x + ad - bc = 0$ を満たす実数 $x$ (固有値)が存在することが示された。
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