大阪大学 1984年 理系 第1問 解説

方針・初手
1次変換 $f$ を表す行列を $A$ とおき、$A^2 = E$($E$ は単位行列)となることを目指す。 直線をベクトルを用いて表現し、1次変換によって図形がうつるという条件を数式化する。 アプローチとしては、直線を「法線ベクトルを用いた方程式(内積)」として扱う方法と、「交点と方向ベクトル」に注目して1次独立な基底の変換を追う方法の2通りが考えられる。
解法1
点 $(x, y)$ の位置ベクトルを $\vec{x} = \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}$、1次変換 $f$ を表す行列を $A$ とする。 直線 $l_1, l_2$ の法線ベクトルをそれぞれ $\vec{n}_1 = \begin{pmatrix} p_1 \\ q_1 \end{pmatrix}, \vec{n}_2 = \begin{pmatrix} p_2 \\ q_2 \end{pmatrix}$ とおくと、直線の方程式は内積を用いて次のように表せる。
$$ l_1 : \vec{n}_1 \cdot \vec{x} = -1 $$
$$ l_2 : \vec{n}_2 \cdot \vec{x} = -1 $$
$f$ によって $l_1$ 上の点 $\vec{x}$ は $l_2$ 上の点 $A\vec{x}$ にうつる。 すなわち、$\vec{n}_1 \cdot \vec{x} = -1$ を満たす任意の $\vec{x}$ に対して、$\vec{n}_2 \cdot (A\vec{x}) = -1$ が成り立つ。 内積の性質より $\vec{n}_2 \cdot (A\vec{x}) = (A^T \vec{n}_2) \cdot \vec{x}$ であるから、以下が成り立つ。
$$ \vec{n}_1 \cdot \vec{x} = -1 \implies (A^T \vec{n}_2) \cdot \vec{x} = -1 $$
直線 $l_1$ 上の定点($\vec{n}_1 \cdot \vec{x}_0 = -1$)を $\vec{x}_0$、直線 $l_1$ の方向ベクトル($\vec{n}_1 \cdot \vec{d} = 0$)を $\vec{d}$ とすると、直線 $l_1$ 上の任意の点 $\vec{x}$ は実数 $t$ を用いて $\vec{x} = \vec{x}_0 + t\vec{d}$ と表せる。 これを $(A^T \vec{n}_2) \cdot \vec{x} = -1$ に代入すると、
$$ (A^T \vec{n}_2) \cdot (\vec{x}_0 + t\vec{d}) = -1 $$
$$ (A^T \vec{n}_2) \cdot \vec{x}_0 + t \{ (A^T \vec{n}_2) \cdot \vec{d} \} = -1 $$
これが任意の $t$ で成り立つためには、$(A^T \vec{n}_2) \cdot \vec{d} = 0$ が必要である。 $\vec{d}$ は $\vec{n}_1$ に垂直なベクトルであるため、それと垂直になるベクトル $A^T \vec{n}_2$ は $\vec{n}_1$ に平行である。 ゆえに、実数 $k$ を用いて $A^T \vec{n}_2 = k \vec{n}_1$ とおける。 これを $(A^T \vec{n}_2) \cdot \vec{x}_0 = -1$ に代入すると、
$$ k (\vec{n}_1 \cdot \vec{x}_0) = -1 $$
$\vec{n}_1 \cdot \vec{x}_0 = -1$ より $k(-1) = -1$ すなわち $k = 1$ となる。 したがって、次が成り立つ。
$$ A^T \vec{n}_2 = \vec{n}_1 $$
同様に、$f$ によって $l_2$ の点が $l_1$ にうつる条件から、次が成り立つ。
$$ A^T \vec{n}_1 = \vec{n}_2 $$
これらの関係式より、法線ベクトル $\vec{n}_1, \vec{n}_2$ に対して行列 $(A^T)^2$ を作用させると、
$$ (A^T)^2 \vec{n}_1 = A^T(A^T \vec{n}_1) = A^T \vec{n}_2 = \vec{n}_1 $$
$$ (A^T)^2 \vec{n}_2 = A^T(A^T \vec{n}_2) = A^T \vec{n}_1 = \vec{n}_2 $$
問題の条件「$l_1, l_2$ は平行でない」より、法線ベクトル $\vec{n}_1, \vec{n}_2$ は1次独立である。 1次独立な2つのベクトルに対して恒等的に作用するため、行列 $(A^T)^2$ は単位行列 $E$ である。
$$ (A^T)^2 = (A^2)^T = E $$
両辺の転置をとって $A^2 = E^T = E$ となる。 よって、合成変換 $f \cdot f$ は恒等変換である。
解法2
1次変換 $f$ を表す行列を $A$ とする。 直線の方程式の定数項は $1 (\neq 0)$ であるから、$l_1, l_2$ は原点を通らない。 $l_1$ と $l_2$ は平行ではないため、ただ1つの交点を持つ。この交点を $C(\vec{c})$ とおく。 $f$ は $l_1$ を $l_2$ に、$l_2$ を $l_1$ にうつすため、その交点 $C$ は $f$ によって「$l_2$ に含まれ、かつ $l_1$ に含まれる点」すなわち交点 $C$ 自身にうつる。 よって $A\vec{c} = \vec{c}$ であり、$\vec{c}$ は原点ではないため $\vec{c} \neq \vec{0}$ である。
$l_1, l_2$ の方向ベクトルをそれぞれ $\vec{d}_1, \vec{d}_2$ とする。$l_1$ と $l_2$ が平行でないことから、$\vec{d}_1$ と $\vec{d}_2$ は1次独立である。 $l_1$ 上の任意の点 $\vec{p}$ は実数 $t$ を用いて $\vec{p} = \vec{c} + t \vec{d}_1$ と表せる。 $f$ による像は $A\vec{p} = A\vec{c} + t A\vec{d}_1 = \vec{c} + t A\vec{d}_1$ となり、これが任意の $t$ で $l_2$ 上にあることから、ベクトル $A\vec{d}_1$ は $l_2$ の方向ベクトル $\vec{d}_2$ に平行である。 同様に、$l_2$ 上の点を $f$ でうつした結果から、$A\vec{d}_2$ は $l_1$ の方向ベクトル $\vec{d}_1$ に平行である。 1次変換により直線が1点に潰れることはないため、0でない実数 $k_1, k_2$ を用いて次のように表せる。
$$ A\vec{d}_1 = k_1 \vec{d}_2 $$
$$ A\vec{d}_2 = k_2 \vec{d}_1 $$
ここで $\vec{d}_1, \vec{d}_2$ は1次独立であるから、平面上のベクトル $\vec{c}$ はこれらを基底として、実数 $\alpha, \beta$ を用いて次のように一意に表せる。
$$ \vec{c} = \alpha \vec{d}_1 + \beta \vec{d}_2 $$
両辺に $A$ を掛けると、
$$ A\vec{c} = \alpha A\vec{d}_1 + \beta A\vec{d}_2 = \alpha k_1 \vec{d}_2 + \beta k_2 \vec{d}_1 = \beta k_2 \vec{d}_1 + \alpha k_1 \vec{d}_2 $$
一方、$A\vec{c} = \vec{c} = \alpha \vec{d}_1 + \beta \vec{d}_2$ であるから、$\vec{d}_1, \vec{d}_2$ の係数を比較して、
$$ \alpha = \beta k_2 $$
$$ \beta = \alpha k_1 $$
もし $\alpha = 0$ ならば $\beta = 0$ となり $\vec{c} = \vec{0}$ となってしまうが、これは $\vec{c} \neq \vec{0}$ に矛盾するため $\alpha \neq 0$ かつ $\beta \neq 0$ である。 上の2式を掛け合わせて $\alpha \beta = \alpha \beta k_1 k_2$ となり、$\alpha \beta \neq 0$ より両辺を割って $k_1 k_2 = 1$ を得る。
合成変換 $f \cdot f$ を表す行列は $A^2$ であり、基底 $\vec{d}_1, \vec{d}_2$ の変換を考えると、
$$ A^2 \vec{d}_1 = A(k_1 \vec{d}_2) = k_1 (k_2 \vec{d}_1) = k_1 k_2 \vec{d}_1 = \vec{d}_1 $$
$$ A^2 \vec{d}_2 = A(k_2 \vec{d}_1) = k_2 (k_1 \vec{d}_2) = k_1 k_2 \vec{d}_2 = \vec{d}_2 $$
1次独立な2つのベクトル $\vec{d}_1, \vec{d}_2$ に対し、行列 $A^2$ が恒等的に作用するため、$A^2 = E$(単位行列)である。
解説
1次変換が図形を特定の図形へうつす条件を、いかに数式へと翻訳するかが問われる問題である。 解法1では直線の法線ベクトルを用い、内積方程式が恒等的に成り立つ条件から行列の転置の性質を巧みに引き出している。「包含関係にある2つの直線が一致する条件」を厳密に処理する力が求められる。 解法2では「交点が不変になること」を突破口とし、ベクトルの1次独立性と係数比較という図形的な視点で解き進めている。いずれの解法も、最終的には「平面上の任意のベクトルが、1次独立な2つのベクトルの線形結合で表せること(基底の性質)」を利用して $A^2 = E$ を結論づけている点が重要である。
答え
題意の変換 $f$ を表す行列を $A$ とおくと、平面の基底となる1次独立な2つのベクトルに対して $A^2$ が恒等的に作用することが示される。したがって $A^2$ は単位行列となり、合成変換 $f \cdot f$ は恒等変換であると示された。
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