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北海道大学 1992年 文系 第2問 解説

旧課程/行列・一次変換数学2/式と証明テーマ/存在証明
北海道大学 1992年 文系 第2問 解説

方針・初手

単位円上の点 $(x,y)$ が変換によって単位円上の点 $(X,Y)$ に移る条件から、まずは恒等式を用いて行列の成分 $a, b, c, d$ が満たすべき関係式を導出する。その後、得られた行列 $A$ の候補について、「単位円上のすべての点 $P$ に対して $f(P) \neq P$」という条件、すなわち「単位円上に不動点をもたない」ための条件を調べる。

解法1

単位円 $x^2 + y^2 = 1$ 上の任意の点 $P(x, y)$ の $f$ による像を $(X, Y)$ とすると、以下が成り立つ。

$$ \begin{pmatrix} X \\ Y \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} ax + by \\ cx + dy \end{pmatrix} $$

点 $(X, Y)$ も単位円上にあるため、$X^2 + Y^2 = 1$ を満たす。これを $x, y$ の式で表すと次のようになる。

$$ (ax + by)^2 + (cx + dy)^2 = 1 $$

展開して整理する。

$$ (a^2 + c^2)x^2 + 2(ab + cd)xy + (b^2 + d^2)y^2 = 1 $$

これが $x^2 + y^2 = 1$ を満たすすべての $(x, y)$ に対して成り立つ。 $(x, y) = (1, 0)$ のとき、上の式に代入して $a^2 + c^2 = 1$ を得る。 $(x, y) = (0, 1)$ のとき、上の式に代入して $b^2 + d^2 = 1$ を得る。 これらを元の式に代入すると、以下のようになる。

$$ x^2 + 2(ab + cd)xy + y^2 = 1 $$

ここで $x^2 + y^2 = 1$ であるから、以下の関係が導かれる。

$$ 2(ab + cd)xy = 0 $$

これが任意の $(x, y)$ (例えば $(x, y) = \left(\frac{1}{\sqrt{2}}, \frac{1}{\sqrt{2}}\right)$ など)で成り立つため、$ab + cd = 0$ が得られる。

$a^2 + c^2 = 1$ より、$a = \cos\alpha, c = \sin\alpha$($0 \leqq \alpha < 2\pi$)とおける。 $b^2 + d^2 = 1$ より、$d = \cos\beta, b = \sin\beta$($0 \leqq \beta < 2\pi$)とおける。 これらを $ab + cd = 0$ に代入する。

$$ \cos\alpha \sin\beta + \sin\alpha \cos\beta = 0 $$

加法定理より、以下のように変形できる。

$$ \sin(\alpha + \beta) = 0 $$

よって、$\alpha + \beta = n\pi$($n$ は整数)すなわち $\beta = n\pi - \alpha$ となる。

(i) $n$ が偶数のとき $\cos\beta = \cos\alpha, \sin\beta = -\sin\alpha$ となるため、$d = a, b = -c$ である。このとき、行列 $A$ は次のように表される。

$$ A = \begin{pmatrix} a & -c \\ c & a \end{pmatrix} $$

この変換において $f(P) = P$ を満たす点 $P(x, y)$ が存在するかを調べる。

$$ \begin{pmatrix} a & -c \\ c & a \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} $$

$$ \begin{cases} (a - 1)x - cy = 0 \\ cx + (a - 1)y = 0 \end{cases} $$

この連立方程式の係数行列の行列式は $(a - 1)^2 + c^2$ である。$a^2 + c^2 = 1$ を用いると、行列式の値は $2 - 2a$ となる。 単位円上の点 $(x, y) \neq (0, 0)$ がこの方程式の解となる(すなわち $f(P) = P$ となる)ための条件は、行列式が $0$ となること、つまり $a = 1$ である。 したがって、「すべての点 $P$ について $f(P) \neq P$」となる条件は、$a \neq 1$ である。

(ii) $n$ が奇数のとき $\cos\beta = -\cos\alpha, \sin\beta = \sin\alpha$ となるため、$d = -a, b = c$ である。このとき、行列 $A$ は次のように表される。

$$ A = \begin{pmatrix} a & c \\ c & -a \end{pmatrix} $$

同様に $f(P) = P$ を満たす点 $P(x, y)$ が存在するかを調べる。

$$ \begin{pmatrix} a & c \\ c & -a \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} $$

$$ \begin{cases} (a - 1)x + cy = 0 \\ cx - (a + 1)y = 0 \end{cases} $$

この連立方程式の係数行列の行列式は $-(a - 1)(a + 1) - c^2 = 1 - a^2 - c^2$ である。$a^2 + c^2 = 1$ より、行列式の値は常に $0$ となる。 行列式が $0$ であるから、この連立方程式は $(0, 0)$ 以外の無数の解(直線)をもつ。この直線と単位円 $x^2 + y^2 = 1$ は必ず交点をもつため、$f(P) = P$ を満たす単位円上の点 $P$ が必ず存在する。 したがって、こちらのケースは問題の条件を満たさない。

以上より、条件を満たす行列 $A$ は (i) の形に限られ、求める1次変換は定まる。

解法2

単位円を単位円自身に移す1次変換(直交変換)は、幾何学的には「原点を中心とする回転移動」または「原点を通る直線を対称軸とする対称移動(折り返し)」のいずれかである。

(i) 対称移動の場合 ある直線 $l$ に関する対称移動であるとする。このとき、直線 $l$ と単位円の交点(必ず2つ存在する)は変換によって動かない。すなわち、これらの交点を $P$ とすると $f(P) = P$ が成り立ってしまうため、「すべての点 $P$ に対して $f(P) \neq P$」という条件に反する。

(ii) 回転移動の場合 原点を中心とする回転角 $\theta$ の回転移動であるとする。行列 $A$ は以下のように表される。

$$ A = \begin{pmatrix} \cos\theta & -\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta \end{pmatrix} $$

回転移動において動かない点(不動点)が存在するのは、回転角が $2n\pi$($n$ は整数)であり、変換が恒等変換となる場合に限られる。 このとき、すべての点で $f(P) = P$ となるため条件を満たさない。 逆に、恒等変換でなければ(すなわち $\cos\theta \neq 1$ であれば)、原点以外のすべての点は移動するため、単位円上のすべての点 $P$ において $f(P) \neq P$ となる。

したがって、求める変換は恒等変換を除く回転移動である。成分を用いて表すと、$A = \begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix}$(ただし $a^2 + b^2 = 1$ かつ $a \neq 1$)となる。

解説

直交行列(単位円を単位円に移す変換)の性質を問う典型的な問題である。 直交変換には行列式が $1$ となる回転移動と、行列式が $-1$ となる対称移動(折り返し)の2種類が存在する。図形的な意味を把握していれば、解法2のように「対称移動の場合は対称軸上の点が不動点になる」「回転移動の場合は原点以外に不動点はない」という事実から、直ちに回転移動であることを特定できる。代数的に解く解法1においても、連立方程式が非自明な解をもつ条件(行列式=0)を適切に活用することで、見通しよく論証できる。

答え

求める1次変換 $f$ は、以下の行列 $A$ で表される変換である。

$$ A = \begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix} \quad (ただし、a^2 + b^2 = 1 \text{ かつ } a \neq 1) $$

(※ 「原点周りの回転移動(ただし回転角が $2n\pi$ の場合を除く)」という解答も同値である)

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