名古屋大学 1992年 理系 第1問 解説

方針・初手
行列 $X$ に関する方程式 $X^2 = A$ を満たす $X$ が存在するための $A$ の条件を求める問題です。 行列の 2 乗に関する問題では、ケーリー・ハミルトンの定理を用いて次数下げを行い、$X$ と $A$ の関係式を導く方針が定石です。 また、行列 $A$ が対称行列であることを利用し、直交行列で対角化して考えるアプローチも有効です。
解法1
行列 $X = \begin{pmatrix} p & q \\ r & s \end{pmatrix}$ に対して、ケーリー・ハミルトンの定理より、
$$X^2 - (p+s)X + (ps-qr)E = O$$
が成り立つ。ここで、$t = p+s$、$d = ps-qr$ とおくと、$p, q, r, s$ は実数であるから $t, d$ も実数であり、
$$X^2 = tX - dE$$
となる。条件 $X^2 = A$ より、
$$tX - dE = A$$
$$tX = A + dE = \begin{pmatrix} a+d & b \\ b & a+d \end{pmatrix} \quad \cdots (*)$$
が成り立つ。ここで、$t$ の値で場合分けを行う。
(i) $t \neq 0$ のとき
$(*)$ より、
$$X = \begin{pmatrix} \frac{a+d}{t} & \frac{b}{t} \\ \frac{b}{t} & \frac{a+d}{t} \end{pmatrix}$$
と表せる。実数 $u = \frac{a+d}{t}, v = \frac{b}{t}$ を用いて $X = \begin{pmatrix} u & v \\ v & u \end{pmatrix}$ とおくと、
$$X^2 = \begin{pmatrix} u^2+v^2 & 2uv \\ 2uv & u^2+v^2 \end{pmatrix}$$
となる。$X^2 = A$ であるから、各成分を比較して、
$$\begin{cases} u^2+v^2 = a \\ 2uv = b \end{cases}$$
これらを足し引きすることで、
$$\begin{aligned} a+b &= u^2+2uv+v^2 = (u+v)^2 \ge 0 \\ a-b &= u^2-2uv+v^2 = (u-v)^2 \ge 0 \end{aligned}$$
を得る。したがって、$a+b \ge 0$ かつ $a-b \ge 0$ が必要である。
逆に、$a+b \ge 0$ かつ $a-b \ge 0$ が成り立つとき、$u+v = \sqrt{a+b}, u-v = \sqrt{a-b}$、すなわち
$$u = \frac{\sqrt{a+b}+\sqrt{a-b}}{2}, \quad v = \frac{\sqrt{a+b}-\sqrt{a-b}}{2}$$
と定めれば、これらは実数であり、この $u, v$ から定まる $X$ は $X^2=A$ を満たす。 このとき、$t = p+s = u+u = 2u = \sqrt{a+b}+\sqrt{a-b}$ となる。 仮定より $t \neq 0$ であるから、$\sqrt{a+b}+\sqrt{a-b} \neq 0$ すなわち $(a, b) \neq (0, 0)$ であれば、$t \neq 0$ を満たす実数 $p, q, r, s$ が存在する。
(ii) $t = 0$ のとき
$(*)$ より、
$$\begin{pmatrix} 0 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a+d & b \\ b & a+d \end{pmatrix}$$
となるため、$b = 0$ かつ $a+d = 0$(すなわち $a = -d$)が必要である。
$t = p+s = 0$ より $s = -p$ であり、$d = ps-qr = -p^2-qr$ である。 したがって、
$$a = -(-p^2-qr) = p^2+qr$$
となる。$b = 0$ のとき、$p, q, r$ を適当な実数に選ぶことで $p^2+qr$ は任意の実数値をとることができる(例えば $p=0, q=1$ と固定すれば $a=r$ となり、$r$ を動かせば任意の実数 $a$ を表現できる)。
よって、$b = 0$ であれば、任意の実数 $a$ に対して条件を満たす実数 $p, q, r, s$ が存在する。 なお、この条件には (i) で除外された $(a,b)=(0,0)$ の場合も含まれる。
以上 (i), (ii) より、求める条件は「$a+b \ge 0$ かつ $a-b \ge 0$」 または 「$b = 0$」である。
解法2
行列 $A$ は対称行列であり、直交行列 $P = \frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1 \end{pmatrix}$ によって対角化可能である。 実際、$P^{-1} = P$ であり、
$$P^{-1}AP = P \begin{pmatrix} a & b \\ b & a \end{pmatrix} P = \begin{pmatrix} a+b & 0 \\ 0 & a-b \end{pmatrix}$$
となる。
$X^2 = A$ の両辺に左から $P^{-1}$、右から $P$ を掛けると、
$$P^{-1}X^2P = P^{-1}AP$$
$$(P^{-1}XP)^2 = \begin{pmatrix} a+b & 0 \\ 0 & a-b \end{pmatrix}$$
$Y = P^{-1}XP$ とおくと、$P, P^{-1}$ は実行列であるため、$X$ が実行列であることと $Y$ が実行列であることは同値である。 したがって、
$$Y^2 = \begin{pmatrix} a+b & 0 \\ 0 & a-b \end{pmatrix}$$
を満たす実行列 $Y = \begin{pmatrix} x & y \\ z & w \end{pmatrix}$ が存在するための条件を求めればよい。
$$Y^2 = \begin{pmatrix} x^2+yz & y(x+w) \\ z(x+w) & yz+w^2 \end{pmatrix}$$
であるから、条件は以下の連立方程式に帰着する。
$$\begin{cases} x^2+yz = a+b \quad \cdots (1) \\ y(x+w) = 0 \quad \cdots (2) \\ z(x+w) = 0 \quad \cdots (3) \\ yz+w^2 = a-b \quad \cdots (4) \end{cases}$$
(i) $x+w \neq 0$ のとき
(2), (3) より $y=0$ かつ $z=0$ である。 このとき (1), (4) は $x^2 = a+b, w^2 = a-b$ となる。 $x, w$ は実数であるから、$a+b \ge 0$ かつ $a-b \ge 0$ が必要である。
逆にこの条件が成り立つとき、$x = \sqrt{a+b}, w = \sqrt{a-b}$ と定めれば (1)〜(4) を満たす。 ただし $x+w \neq 0$ であるためには $\sqrt{a+b}+\sqrt{a-b} \neq 0$、すなわち $(a, b) \neq (0, 0)$ が必要である。
(ii) $x+w = 0$ のとき
$w = -x$ である。 (1), (4) はそれぞれ $x^2+yz = a+b$ と $x^2+yz = a-b$ となる。 これらが同時に成り立つためには $a+b = a-b$、すなわち $b = 0$ が必要である。
このとき $a = x^2+yz$ となるが、$y, z$ として任意の実数をとれるため、$x^2+yz$ は任意の実数値をとりうる。 よって $b = 0$ であれば、任意の実数 $a$ に対して条件を満たす $x, y, z, w$ が存在する。
以上より、求める条件は「$a+b \ge 0$ かつ $a-b \ge 0$」または「$b = 0$」である。
解説
2次正方行列の決定問題において、$X^2 = A$ を満たす $X$ を直接成分計算で求めようとすると、4つの文字の連立2次方程式となり処理が煩雑になります。 解法1のようにケーリー・ハミルトンの定理を用いて $X^2$ を $X$ の 1次式に降次することで、$X$ を $A$ で簡潔に表すことができます。このとき、トレース $t$ が $0$ になるか否かでの場合分けを忘れないようにすることが最大のポイントです。 また、解法2のように与えられた行列 $A$ の対称性に着目し、対角化を用いて問題を単純な形に帰着させる手法も非常に強力で見通しが良くなります。
答え
求める条件は、
$$a+b \ge 0 \quad \text{かつ} \quad a-b \ge 0 \quad (\text{すなわち} \quad a \ge |b|)$$
または
$$b = 0$$
である。
図示する範囲は、横軸を $a$ 軸、縦軸を $b$ 軸とする $ab$ 平面において、 不等式 $a \ge |b|$ が表す領域(境界線を含む)と、直線 $b=0$ ($a$ 軸全体)を合わせた部分となる。
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