九州大学 1980年 文系 第4問 解説

方針・初手
(1) 行列 $A$ に対する2次方程式のような関係式が与えられている。ケーリー・ハミルトンの定理から得られる式と与式を比較することで各値を求める。ただし、安易な係数比較は論理的な飛躍となるため、$A$ が単位行列の実数倍となる場合を背理法を用いて排除し、係数比較の正当性を示す必要がある。
(2) 与えられた関係式を利用して次数下げを行い、$A^2$、$A^3$ をそれぞれ $A$ と $I$ の1次結合として表す。それにより各成分を具体的に求め、式の値を計算する。
解法1
(1) 行列 $A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}$ について、ケーリー・ハミルトンの定理より、以下の等式が成り立つ。
$$A^2 - (a+d)A + (ad-bc)I = O$$
また、条件より以下の等式が与えられている。
$$A^2 - A + I = O$$
2つの式の辺々を引くと、
$$\{1 - (a+d)\}A + \{(ad-bc) - 1\}I = O$$
ここで、$1 - (a+d) \neq 0$ と仮定する。このとき、$A$ は実数 $k$ を用いて $A = kI$ と表せる。 これを $A^2 - A + I = O$ に代入すると、
$$(k^2 - k + 1)I = O$$
よって、$k^2 - k + 1 = 0$ となる。これを変形すると、
$$\left(k - \frac{1}{2}\right)^2 + \frac{3}{4} = 0$$
これを満たす実数 $k$ は存在しない。$A$ の成分は実数であるから、$A = kI$ ($k$は実数)となることはなく、矛盾する。 したがって、仮定は誤りであり、$1 - (a+d) = 0$ が成り立つ。 これより $a+d = 1$ である。
これを先の引いた式に代入すると、
$$\{(ad-bc) - 1\}I = O$$
単位行列 $I$ は零行列ではないため、$(ad-bc) - 1 = 0$ となり、$ad-bc = 1$ を得る。
(2) $A^2 - A + I = O$ より、
$$A^2 = A - I = \begin{pmatrix} a-1 & b \\ c & d-1 \end{pmatrix}$$
これと $A^2 = \begin{pmatrix} a_2 & b_2 \\ c_2 & d_2 \end{pmatrix}$ の各成分を比較すると、$a_2 = a-1$、$b_2 = b$、$c_2 = c$、$d_2 = d-1$ となる。 したがって、
$$a_2 + d_2 = (a-1) + (d-1) = a + d - 2$$
(1)より $a+d=1$ であるから、
$$a_2 + d_2 = 1 - 2 = -1$$
また、
$$\begin{aligned} a_2 d_2 - b_2 c_2 &= (a-1)(d-1) - bc \\ &= ad - a - d + 1 - bc \\ &= (ad - bc) - (a + d) + 1 \end{aligned}$$
(1)より $ad-bc=1$、$a+d=1$ であるから、
$$a_2 d_2 - b_2 c_2 = 1 - 1 + 1 = 1$$
次に $n=3$ のとき、 $A^3 = A \cdot A^2 = A(A - I) = A^2 - A$ ここで与式より $A^2 - A = -I$ であるから、
$$A^3 = -I = \begin{pmatrix} -1 & 0 \\ 0 & -1 \end{pmatrix}$$
これと $A^3 = \begin{pmatrix} a_3 & b_3 \\ c_3 & d_3 \end{pmatrix}$ の各成分を比較すると、$a_3 = -1$、$b_3 = 0$、$c_3 = 0$、$d_3 = -1$ となる。 したがって、
$$a_3 + d_3 = -1 + (-1) = -2$$
$$a_3 d_3 - b_3 c_3 = (-1) \cdot (-1) - 0 \cdot 0 = 1$$
解説
(1)では、与えられた2次方程式のような関係式と、ケーリー・ハミルトンの定理で得られる式を係数比較する手法が定石である。しかし、単に「係数を比較して」と済ませてしまうと論理的な飛躍($A$ が単位行列の実数倍である可能性の排除漏れ)が生じるため、解答のように背理法を用いて丁寧に記述することが求められる。
(2)では、$a_n+d_n$ は行列 $A^n$ の対角成分の和(トレース)、$a_nd_n-b_nc_n$ は行列式($\Delta(A^n)$)を表している。行列式の乗法性 $\Delta(A^n) = \{\Delta(A)\}^n$ を知っていれば、$n$ の値によらずつねに $1^n = 1$ になることが直ちにわかり、見通しよく解を進めることができる。対角成分の和については、次数下げの要領で $A^2, A^3$ を具体的に求めて計算するのが確実である。
答え
(1) $a+d = 1$, $ad-bc = 1$
(2) $n=2$ のとき、$a_2+d_2 = -1$, $a_2d_2-b_2c_2 = 1$ $n=3$ のとき、$a_3+d_3 = -2$, $a_3d_3-b_3c_3 = 1$
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