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九州大学 2002年 理系 第9問 解説

旧課程/行列・一次変換数学2/式と証明テーマ/整式の証明
九州大学 2002年 理系 第9問 解説

方針・初手

行列の累乗についての条件式 $A^2 = A$ が与えられているため、行列の正則性(逆行列の有無)や、ケーリー・ハミルトンの定理を活用して次数を下げるのが基本方針です。 (1) では $A$ が正則であることを利用します。(2) では $|A|=0$ であることからケーリー・ハミルトンの定理を適用します。(3) では $(A+B)^2 = A+B$ を展開し、(1)(2) の結果を組み合わせて $A+B$ の形を絞り込みます。

解法1

(1)

$A$ はべき等行列であるから、

$$A^2 = A$$

かつ $A \neq O$ である。条件 $ad - bc \neq 0$ より $A$ は正則であり、逆行列 $A^{-1}$ をもつ。 $A^2 = A$ の両辺に左から $A^{-1}$ を掛けると、

$$A^{-1} A^2 = A^{-1} A$$

$$A = E$$

よって求める行列 $A$ は、

$$A = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}$$

(2)

行列 $A$ についてケーリー・ハミルトンの定理より、

$$A^2 - (a+d)A + (ad-bc)E = O$$

条件 $ad - bc = 0$ より、

$$A^2 = (a+d)A$$

が成り立つ。$A$ がべき等行列であるための条件は、$A \neq O$ かつ $A^2 = A$ である。 $A^2 = A$ とすると、

$$(a+d)A = A$$

$$(a+d-1)A = O$$

ここで $A \neq O$ であるから、

$$a+d-1 = 0 \iff a+d = 1$$

逆に $a+d = 1$ のとき、$(a+d-1)A = O \implies A^2 = A$ が成り立つ。 もし $A = O$ であったとすると、$a=b=c=d=0$ となり $a+d=0$ となるが、これは $a+d=1$ に矛盾する。したがって $A \neq O$ であり、$A$ はべき等行列の条件を満たす。 以上より、求める必要十分条件は、

$$a+d = 1$$

(3)

$A+B$ もべき等行列であるから、$(A+B)^2 = A+B$ かつ $A+B \neq O$ である。 $(A+B)^2 = A^2 + AB + BA + B^2$ であり、$A, B$ もべき等行列なので $A^2=A, B^2=B$ を用いると、

$$A + AB + BA + B = A + B$$

$$AB + BA = O \dots ①$$

①の両辺に左から $A$ を掛けると、

$$A^2B + ABA = O \iff AB + ABA = O \dots ②$$

①の両辺に右から $A$ を掛けると、

$$ABA + BA^2 = O \iff ABA + BA = O \dots ③$$

② $-$ ③ を計算すると、

$$AB - BA = O \iff AB = BA$$

これを①に代入すると、

$$2AB = O \iff AB = O$$

これより $BA = O$ も成り立つ。

ここで、$A$ が正則($ad-bc \neq 0$)であると仮定すると、(1) より $A=E$ となる。 これを $AB=O$ に代入すると $EB=O \implies B=O$ となるが、これは $B$ がべき等行列($B \neq O$)であることに矛盾する。 したがって $A$ は正則ではなく、$ad-bc=0$ である。同様にして $B$ も正則ではなく、$eh-fg=0$ である。 これより $A, B$ には (2) の結果が適用でき、$A$ の対角成分の和は $a+d=1$、$B$ の対角成分の和は $e+h=1$ となる。

行列 $A+B$ について、その対角成分の和は $(a+e)+(d+h) = (a+d)+(e+h) = 1+1=2$ である。 また、$A+B$ の行列式を $\Delta$ とおく。ケーリー・ハミルトンの定理より、

$$(A+B)^2 - 2(A+B) + \Delta E = O$$

$A+B$ はべき等行列なので $(A+B)^2 = A+B$ である。代入して整理すると、

$$-(A+B) + \Delta E = O \iff A+B = \Delta E$$

$$A+B = \begin{pmatrix} \Delta & 0 \\ 0 & \Delta \end{pmatrix}$$

この行列の対角成分の和は $2\Delta$ であり、これが $2$ に等しいことから、

$$2\Delta = 2 \implies \Delta = 1$$

したがって、

$$A+B = E = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}$$

また、このような $A, B$ の組としては、例えば

$$A = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}, \quad B = \begin{pmatrix} 0 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}$$

が挙げられる。これらは $A^2=A, B^2=B, A \neq O, B \neq O$ を満たし、和が $E$(正則なべき等行列)となるため条件を満たす。

解説

行列の積が可換とは限らないため、$(A+B)^2$ の展開式に $AB+BA$ が現れることに注意して処理を進めるのがポイントです。$AB+BA=O$ から $AB=BA=O$ を引き出す変形は、行列の等式の扱いに慣れていないと難しく感じられるかもしれません。 また、(3) の後半で $A+B$ を具体的に求める際、(1)(2) の誘導に乗り、「$A, B$ は正則でない」ことを見抜いてトレース(対角成分の和)の性質を利用する流れは、旧課程の行列分野における典型的な良問の構成です。

答え

(1)

$$A = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}$$

(2)

$$a+d = 1$$

(3)

$$A+B = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}$$

組の例:

$$A = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}, \quad B = \begin{pmatrix} 0 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}$$

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