名古屋大学 1983年 文系 第2問 解説

注意
画像の1次変換の行列について、右下成分が「$5$」と読めますが、このまま計算すると結果が著しく複雑になります。作問の意図として「$\frac{5}{\sqrt{3}}$」の誤植である可能性も考えられますが、本解説では画像通り右下成分を $5$ と解釈した場合の解答を作成します。誤植であった場合の結果については「解説」にて補足します。
方針・初手
1次変換によって正方形が長方形にうつされるための条件は、変換後も正方形の隣り合う2辺が直交することである。 原点を1つの頂点とする正方形の隣り合う2辺を表すベクトルを $\vec{u}, \vec{v}$ とおき、変換後のベクトル $A\vec{u}, A\vec{v}$ の内積が $0$ になるような $\vec{u}, \vec{v}$ の方向を求める。
解法1
原点 $O(0,0)$ を1つの頂点とする正方形を $O P Q R$ とし、隣り合う2辺を表すベクトルを $\vec{OP}, \vec{OR}$ とする。 正方形の1辺の長さを $r$ ($r>0$) とし、直線 $OP$ が $x$ 軸の正の向きとなす角を $\theta$ とすると、
$$ \vec{OP} = \begin{pmatrix} r \cos \theta \\ r \sin \theta \end{pmatrix} $$
と表せる。$\vec{OR}$ は $\vec{OP}$ を $\pm 90^\circ$ 回転させたベクトルであるから、
$$ \vec{OR} = \begin{pmatrix} \mp r \sin \theta \\ \pm r \cos \theta \end{pmatrix} $$
となる(複号同順)。 正方形全体が $y \geqq 0$ の部分にあるための条件は、すべての頂点の $y$ 座標が $0$ 以上になることである。 点 $P, R$ の $y$ 座標について $\sin \theta \geqq 0$ かつ $\pm \cos \theta \geqq 0$ が必要となる。 複号が上の場合、$\cos \theta \geqq 0$ となり $0 \leqq \theta \leqq \frac{\pi}{2}$ を得る。このとき、点 $Q$ の $y$ 座標も $r(\sin \theta + \cos \theta) \geqq 0$ を満たす。 (複号が下の場合は $\cos \theta \leqq 0$ となり $\frac{\pi}{2} \leqq \theta \leqq \pi$ となるが、正方形の辺の組としては同じものを表すため、以下 $0 \leqq \theta \leqq \frac{\pi}{2}$ とする)
与えられた行列を $A = \begin{pmatrix} a & b \\ b & c \end{pmatrix}$ とおく。画像より $a = \frac{7}{\sqrt{3}}, b = \sqrt{3}, c = 5$ である。 変換後のベクトルを $\vec{O'P'} = A\vec{OP}, \vec{O'R'} = A\vec{OR}$ とすると、長方形になる条件は $\vec{O'P'} \cdot \vec{O'R'} = 0$ である。
$$ \vec{O'P'} \cdot \vec{O'R'} = (A\vec{OP})^T (A\vec{OR}) = \vec{OP}^T A^T A \vec{OR} $$
$A$ は対称行列 ($A^T = A$) であるから、$A^T A = A^2$ となる。
$$ A^2 = \begin{pmatrix} a^2 + b^2 & b(a + c) \\ b(a + c) & b^2 + c^2 \end{pmatrix} $$
ゆえに、
$$ \begin{aligned} \vec{O'P'} \cdot \vec{O'R'} &= \begin{pmatrix} r \cos \theta & r \sin \theta \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a^2 + b^2 & b(a + c) \\ b(a + c) & b^2 + c^2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} -r \sin \theta \\ r \cos \theta \end{pmatrix} \\ &= r^2 \left\{ (a^2 + b^2)(-\sin \theta \cos \theta) + b(a + c)(\cos^2 \theta - \sin^2 \theta) + (b^2 + c^2)(\sin \theta \cos \theta) \right\} \\ &= r^2 \left\{ b(a + c) \cos 2\theta + \frac{c^2 - a^2}{2} \sin 2\theta \right\} \\ &= \frac{1}{2} r^2 (a + c) \left\{ 2b \cos 2\theta + (c - a) \sin 2\theta \right\} \end{aligned} $$
$a = \frac{7}{\sqrt{3}}, c = 5$ より $a + c \neq 0$ であり、$r > 0$ であるから、内積が $0$ となる条件は
$$ 2b \cos 2\theta + (c - a) \sin 2\theta = 0 $$
すなわち、
$$ \tan 2\theta = \frac{2b}{a - c} $$
である。数値を代入すると、
$$ a - c = \frac{7}{\sqrt{3}} - 5 = \frac{7 - 5\sqrt{3}}{\sqrt{3}}, \quad 2b = 2\sqrt{3} $$
$$ \tan 2\theta = \frac{2\sqrt{3}}{\frac{7 - 5\sqrt{3}}{\sqrt{3}}} = \frac{6}{7 - 5\sqrt{3}} = \frac{6(7 + 5\sqrt{3})}{49 - 75} = -\frac{3(7 + 5\sqrt{3})}{13} $$
$7 - 5\sqrt{3} < 0$ であるから $\tan 2\theta < 0$ であり、$0 \leqq \theta \leqq \frac{\pi}{2}$ の範囲において $2\theta$ は第2象限の角($\frac{\pi}{2} < 2\theta < \pi$)となる。 すなわち、$\frac{\pi}{4} < \theta < \frac{\pi}{2}$ を満たす角 $\theta$ が一意に定まる。
解説
本問は、実対称行列による1次変換において「直交する2方向が変換後も直交する」条件を考える問題である。 直交性が保たれる方向は、行列の固有ベクトルの方向と一致する。実対称行列の固有ベクトルは互いに直交するため、その方向を辺とする正方形は、変換によって各辺がそれぞれの固有値の絶対値倍に伸縮されるだけで、直交関係(すなわち長方形であること)が保たれる。
なお、画像の行列の右下成分を「$5$」として計算すると結果が極めて煩雑になるが、仮に右下成分が「$\frac{5}{\sqrt{3}}$」の誤植であった場合、$c = \frac{5}{\sqrt{3}}$ となり、
$$ \tan 2\theta = \frac{2\sqrt{3}}{\frac{7}{\sqrt{3}} - \frac{5}{\sqrt{3}}} = \frac{2\sqrt{3}}{\frac{2}{\sqrt{3}}} = 3 $$
という簡潔な値が得られる。この場合、$2\theta$ は第1象限の角となり、$\tan 2\theta = \frac{2\tan \theta}{1 - \tan^2 \theta} = 3$ を解くことで、正方形の辺の傾き $\tan \theta = \frac{-1 + \sqrt{10}}{3}$ が具体的に求まる。
答え
原点を1つの頂点とし、そこから出る2辺が $x$ 軸の正の向きとなす角をそれぞれ $\theta, \theta + \frac{\pi}{2}$ としたとき、
$$ \tan 2\theta = -\frac{3(7 + 5\sqrt{3})}{13} \quad \left(\frac{\pi}{4} < \theta < \frac{\pi}{2}\right) $$
を満たす任意の大きさの正方形。
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