名古屋大学 1996年 理系 第5問 解説

方針・初手
(1)は定義に従ってそのまま項別に微分し、式を整理して $f_{n-1}(x)$ の形が現れることを確認する。
(2)は(1)で示した漸化式のような微分関係を利用して、数学的帰納法で証明する方針が有効である。差の関数 $g_n(x) = e^{-x} - f_n(x)$ を設定し、$n$ の偶奇に応じて $g_n(x)$ の符号が変わることを、導関数の符号から順次示していく。
(3)は方程式の解の個数の問題であるから、関数の単調性と両端での極限値(あるいは端点での値)を調べるのが基本となる。(2)の結果から、奇数次のときの導関数 $f_n'(x)$ の符号が定まることに着目する。
解法1
(1)
$f_n(x)$ は以下のように表される。
$$ f_n(x) = \sum_{k=0}^{n} \frac{(-1)^k x^k}{k!} $$
$n \geqq 1$ のとき、両辺を $x$ で微分すると、
$$ \begin{aligned} f_n'(x) &= \sum_{k=1}^{n} \frac{(-1)^k k x^{k-1}}{k!} \\ &= \sum_{k=1}^{n} \frac{(-1)^k x^{k-1}}{(k-1)!} \end{aligned} $$
ここで、$j = k - 1$ とおくと、$k$ が $1$ から $n$ まで変わるとき、$j$ は $0$ から $n-1$ まで変わる。よって、
$$ \begin{aligned} f_n'(x) &= \sum_{j=0}^{n-1} \frac{(-1)^{j+1} x^j}{j!} \\ &= -\sum_{j=0}^{n-1} \frac{(-1)^j x^j}{j!} \\ &= -f_{n-1}(x) \end{aligned} $$
したがって、$f_n'(x) = -f_{n-1}(x)$ が示された。
(2)
$g_n(x) = e^{-x} - f_n(x)$ とおく。 すべての $n \geqq 0$ について、以下の命題 $(A)$ が成り立つことを数学的帰納法で示す。
命題 $(A)$ : $x \geqq 0$ のとき、$n$ が偶数なら $g_n(x) \leqq 0$、$n$ が奇数なら $g_n(x) \geqq 0$
[1] $n = 0$ のとき
$n$ は偶数であり、$g_0(x) = e^{-x} - f_0(x) = e^{-x} - 1$ である。 $x \geqq 0$ において $e^{-x} \leqq 1$ であるから、$g_0(x) \leqq 0$ となり成立する。
[2] $n = k$ ($k \geqq 0$) のとき命題 $(A)$ が成り立つと仮定する。
$n = k + 1$ のときを考える。 (1)より $f_{k+1}'(x) = -f_k(x)$ であるから、$g_{k+1}(x)$ を微分すると、
$$ \begin{aligned} g_{k+1}'(x) &= -e^{-x} - f_{k+1}'(x) \\ &= -e^{-x} + f_k(x) \\ &= -g_k(x) \end{aligned} $$
となる。また、$f_{k+1}(0) = 1$ より、$g_{k+1}(0) = e^0 - 1 = 0$ である。
(i) $k$ が偶数のとき($k+1$ は奇数)
帰納法の仮定より、$x \geqq 0$ において $g_k(x) \leqq 0$ であるから、 $g_{k+1}'(x) = -g_k(x) \geqq 0$ となる。 よって、$g_{k+1}(x)$ は $x \geqq 0$ において単調に増加する。 $g_{k+1}(0) = 0$ であるため、$x \geqq 0$ において $g_{k+1}(x) \geqq 0$ が成り立つ。
(ii) $k$ が奇数のとき($k+1$ は偶数)
帰納法の仮定より、$x \geqq 0$ において $g_k(x) \geqq 0$ であるから、 $g_{k+1}'(x) = -g_k(x) \leqq 0$ となる。 よって、$g_{k+1}(x)$ は $x \geqq 0$ において単調に減少する。 $g_{k+1}(0) = 0$ であるため、$x \geqq 0$ において $g_{k+1}(x) \leqq 0$ が成り立つ。
(i), (ii) いずれの場合も $n = k + 1$ のときの命題 $(A)$ は成立する。
[1], [2] より、すべての $0$ 以上の整数 $n$ について命題 $(A)$ が成立することが示された。 $g_n(x) = e^{-x} - f_n(x)$ であるから、これは $x \geqq 0$ とするとき、$n$ が偶数なら $f_n(x) \geqq e^{-x}$、奇数なら $f_n(x) \leqq e^{-x}$ が成立することを意味する。
(3)
$n$ が奇数のとき、方程式 $f_n(x) = 0$ が $x \geqq 0$ の範囲でただ1つの解をもつことを示す。
(1)より、$f_n'(x) = -f_{n-1}(x)$ である。 $n$ は奇数であるから、$n-1$ は偶数である。 (2)の結果を用いると、$x \geqq 0$ において $f_{n-1}(x) \geqq e^{-x}$ が成り立つ。 $x \geqq 0$ において $e^{-x} > 0$ であるから、$f_{n-1}(x) > 0$ である。
したがって、$x \geqq 0$ において、
$$ f_n'(x) = -f_{n-1}(x) \leqq -e^{-x} < 0 $$
となり、$f_n(x)$ は $x \geqq 0$ において単調に減少する。
また、$f_n(0) = 1 > 0$ である。 さらに、$f_n(x)$ は $n$ 次の多項式であり、最高次である $x^n$ の項の係数は $\frac{(-1)^n}{n!} = -\frac{1}{n!} < 0$ ($n$が奇数のため)である。 よって、
$$ \lim_{x \to \infty} f_n(x) = -\infty $$
となる。
関数 $f_n(x)$ は連続であり、$x \geqq 0$ において単調減少、$f_n(0) > 0$ かつ $\lim_{x \to \infty} f_n(x) = -\infty$ であるから、中間値の定理より $f_n(x) = 0$ を満たす $x$ が $x > 0$ の範囲にただ1つ存在する。 すなわち、$n$ が奇数のとき、$f_n(x) = 0$ は $x \geqq 0$ の範囲でただ1つの解をもつことが示された。
解説
関数 $e^{-x}$ のマクローリン展開に関連する典型的な微積分の証明問題である。 (1)の微分関係式 $f_n'(x) = -f_{n-1}(x)$ は、多項式の各項が微分によって次数を下げつつ隣の項の形にスライドする性質から容易に導ける。 (2)の証明では、前の関数の情報から次の関数の導関数の符号が決まるという連鎖構造に気づけるかどうかが鍵である。(1)が強力な誘導になっているため、微分して増減を調べるという自然な発想を帰納法に乗せれば論証できる。 (3)は解の唯一性を示す問題のセオリー通り「単調性の確認」と「両端での符号の違い(中間値の定理)」の2つを揃える。(2)の結果から導関数 $f_n'(x)$ が常に負であることを厳密に評価できるのが美しい点である。
答え
(1) 微分計算により、$f_n'(x) = -f_{n-1}(x)$ となることを示した。 (2) $g_n(x) = e^{-x} - f_n(x)$ の導関数の符号と数学的帰納法により、命題が成立することを示した。 (3) $f_n(x)$ が $x \geqq 0$ で単調減少すること、および端点の極限を用いて、ただ1つの解をもつことを示した。
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