大阪大学 1984年 文系 第4問 解説

方針・初手
行列 $A$ は、原点を中心とする角 $\theta$ の回転と、原点を中心とする倍率 $r$ の相似拡大の合成変換を表す。したがって、$A^n$ は角 $n\theta$ の回転と倍率 $r^n$ の相似拡大の合成変換となる。この図形的意味(またはド・モアブルの定理)を利用して、$A^6 = I$ および $A^n \neq I$ $(1 \leqq n < 6)$ という条件を $r$ と $\theta$ の条件に翻訳する。
後半の直線の変換については、直線の方程式を法線形(原点からの距離と法線ベクトルのなす角を用いた形)で表すと、回転後の直線の状態が分かりやすい。6本の直線がどのような図形的配置になるかを捉え、平行な直線の組と、1点で交わる直線の本数(多重交点がないこと)を確認して交点の総数を求める。
解法1
(1)
与えられた行列 $A$ は、
$$ A = r \begin{pmatrix} \cos \theta & -\sin \theta \\ \sin \theta & \cos \theta \end{pmatrix} $$
と表されるので、自然数 $n$ に対してその $n$ 乗は、
$$ A^n = r^n \begin{pmatrix} \cos n\theta & -\sin n\theta \\ \sin n\theta & \cos n\theta \end{pmatrix} $$
となる。$A^6 = I$ であるから、
$$ r^6 \begin{pmatrix} \cos 6\theta & -\sin 6\theta \\ \sin 6\theta & \cos 6\theta \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} $$
これが成り立つための条件は、$r^6 \cos 6\theta = 1$ かつ $r^6 \sin 6\theta = 0$ である。
両辺をそれぞれ2乗して加えると、
$$ (r^6 \cos 6\theta)^2 + (r^6 \sin 6\theta)^2 = 1^2 + 0^2 $$
$$ r^{12} (\cos^2 6\theta + \sin^2 6\theta) = 1 $$
$$ r^{12} = 1 $$
$r > 0$ であるから、$r = 1$ と定まる。
このとき $\cos 6\theta = 1$ かつ $\sin 6\theta = 0$ となるので、$k$ を整数として
$$ 6\theta = 2k\pi $$
$$ \theta = \frac{k}{3}\pi $$
と表せる。$0 \leqq \theta < 2\pi$ であるから、$k = 0, 1, 2, 3, 4, 5$ のいずれかである。
次に、$1 \leqq n < 6$ を満たす自然数 $n$ に対して $A^n \neq I$ となる条件を調べる。$r=1$ であるから、$A^n = I$ となるのは $n\theta$ が $2\pi$ の整数倍となるときである。
(i)
$k=0$ のとき、$\theta = 0$ であり、$A^1 = I$ となるため不適。
(ii)
$k=1$ のとき、$\theta = \frac{\pi}{3}$ である。$n=1, 2, 3, 4, 5$ に対して $n\theta = \frac{n}{3}\pi$ は $2\pi$ の整数倍にならないため、条件を満たす。
(iii)
$k=2$ のとき、$\theta = \frac{2}{3}\pi$ である。$n=3$ のとき $3\theta = 2\pi$ となり $A^3 = I$ となるため不適。
(iv)
$k=3$ のとき、$\theta = \pi$ である。$n=2$ のとき $2\theta = 2\pi$ となり $A^2 = I$ となるため不適。
(v)
$k=4$ のとき、$\theta = \frac{4}{3}\pi$ である。$n=3$ のとき $3\theta = 4\pi$ となり $A^3 = I$ となるため不適。
(vi)
$k=5$ のとき、$\theta = \frac{5}{3}\pi$ である。$n=1, 2, 3, 4, 5$ に対して $n\theta = \frac{5n}{3}\pi$ は $2\pi$ の整数倍にならないため、条件を満たす。
以上より、$r=1$ であり、$\theta = \frac{\pi}{3}, \frac{5}{3}\pi$ である。
(2)
直線 $l$ は原点を通らないので、原点と $l$ の距離を $d$ ($d > 0$)、原点から $l$ に下ろした垂線と $x$ 軸の正の向きとのなす角を $\alpha$ とすると、$l$ の方程式は
$$ x \cos \alpha + y \sin \alpha = d $$
と表せる。(1)の結果より、$A$ は原点を中心とする角 $\theta$ ($= \pm \frac{\pi}{3}$) の回転を表す行列である。
したがって、$A^n$ は原点を中心とする角 $n\theta$ の回転を表す。直線 $l$ をこの変換でうつした直線 $l_n$ の方程式は、法線ベクトルも同様に $n\theta$ 回転することを考慮すると、
$$ x \cos (\alpha + n\theta) + y \sin (\alpha + n\theta) = d $$
となる。これは、直線 $l_n$ が原点からの距離が $d$ であることを示している。表記の便宜上、$l_0 = l$ とする。
6本の直線 $l_0, l_1, l_2, l_3, l_4, l_5$ はすべて、原点を中心とする半径 $d$ の円に接する。 また、これらの直線の法線ベクトルの偏角は、$\alpha, \alpha+\theta, \alpha+2\theta, \alpha+3\theta, \alpha+4\theta, \alpha+5\theta$ であり、$\frac{\pi}{3}$ ずつ(または $-\frac{\pi}{3}$ ずつ)等間隔に並んでいる。
法線のなす角が $\pi$ の整数倍となる2直線は平行である。この6本の直線のうち、法線の偏角の差が $\pi$ となる(すなわち $n$ の差が 3 となる)のは、$(l_0, l_3), (l_1, l_4), (l_2, l_5)$ の3組である。 例えば $l_0$ と $l_3$ について考えると、$3\theta = \pm \pi$ であるから、
$$ l_3: x \cos (\alpha \pm \pi) + y \sin (\alpha \pm \pi) = d $$
すなわち $-x \cos \alpha - y \sin \alpha = d$ となる。 $d > 0$ であるから、$l_0$ ($x \cos \alpha + y \sin \alpha = d$) と $l_3$ は平行であるが一致しない。他の2組についても同様である。
よって、6本の直線の中には互いに平行で異なる直線の組が3組ある。平行でない2直線は必ず1点で交わる。
次に、3本以上の直線が1点で交わる可能性について考える。 もし3直線が1点で交わるとすると、その交点は原点中心・半径 $d$ の円の外部にあり、かつその点から円に対して3本の接線が引けることになる。しかし、円の外部の1点からその円に引ける接線は高々2本であるから、これは矛盾である。 ゆえに、3本以上の直線が1点で交わることはない。
以上より、6本の直線が作る交点の総数は、6本の直線から2本を選ぶ組合せの数から、平行で交わらない3組を引いたものとなるので、
$$ {}_6\mathrm{C}_{2} - 3 = 15 - 3 = 12 $$
よって、交点の個数は12個である。
解説
行列の累乗が単位行列になる条件から、回転角が $2\pi$ の有理数倍となることを導く典型問題である。「$A^n \neq I$」という条件を見落とさず、すべての $k$ について一つずつ丁寧に検証することが求められる。
(2)では、直線の方程式を $y = mx+n$ のような形ではなく、原点からの距離 $d$ と法線の偏角 $\alpha$ を用いたヘッセの標準形 $x \cos \alpha + y \sin \alpha = d$ で設定すると、回転変換に対する挙動が極めて簡潔に記述できる。また、交点の数を数え上げる際に、平行条件だけでなく「3直線以上が共点とならないこと」の確認を忘れてはならない。本解法のように「同一円の接線である」という図形的性質を用いると、この共点条件の否定を鮮やかに示すことができる。
答え
(1)
$r = 1$, $\theta = \frac{\pi}{3}, \frac{5}{3}\pi$
(2)
12個
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