東北大学 1990年 文系 第2問 解説

方針・初手
(1) 行列の2次式が与えられていることから、ケーリー・ハミルトンの定理を連想します。定理から得られる恒等式と与式を辺々引き算することで、$1$次式に帰着させます。その際、条件である「$A \neq kE$」を利用して係数を決定します。
(2) 逆行列をもつことの証明には、背理法を用いて行列式 $\Delta = ad-bc = 0$ (逆行列をもたない)と仮定して矛盾を導く方法が有効です。あるいは、$A = kE$ と仮定して矛盾を導くことで $A \neq kE$ を示し、(1) の結果を誘導として利用し、直接 $\Delta \neq 0$ を示すこともできます。逆行列の存在さえ言えれば、与式の両辺に逆行列をかけることで目的の式は容易に導けます。
解法1
(1) ケーリー・ハミルトンの定理より、任意の行列 $A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}$ において次の等式が成り立つ。
$$A^2 - (a+d)A + (ad-bc)E = O$$
条件として与えられた等式は次のものである。
$$A^2 - xA + yE = O$$
上の2式を辺々引くと、次が得られる。
$$(x - a - d)A = (y - ad + bc)E$$
ここで、$x - a - d \neq 0$ であると仮定する。両辺を $x - a - d$ で割ると、次のように変形できる。
$$A = \frac{y - ad + bc}{x - a - d}E$$
これは $A$ が実数倍の単位行列、すなわち $A = kE$ ($k$ は実数) の形で表されることを意味し、問題の条件である $A \neq kE$ に矛盾する。
したがって、$x - a - d = 0$ でなければならない。すなわち、$x = a+d$ である。
このとき左辺は $O$ になるため、等式を満たすためには右辺も $O$ になる必要がある。
$$(y - ad + bc)E = O$$
$E \neq O$ であるから、$y - ad + bc = 0$、すなわち $y = ad-bc$ である。
(2) $A$ が逆行列をもたないと仮定する。このとき、$ad-bc = 0$ である。
ケーリー・ハミルトンの定理より、$A^2 - (a+d)A = O$ となるため、次が成り立つ。
$$A^2 = (a+d)A$$
両辺に $A$ をかけると、次のようになる。
$$A^3 = (a+d)A^2 = (a+d) \cdot (a+d)A = (a+d)^2 A$$
これを条件式 $A^3 + A = O$ に代入して整理する。
$$(a+d)^2 A + A = O$$
$$\{(a+d)^2 + 1\}A = O$$
$a, d$ は実数であるから $(a+d)^2 \ge 0$ であり、$(a+d)^2 + 1 \ge 1 > 0$ である。したがって、上式が成り立つためには $A = O$ でなければならない。
しかし、これは条件 $A \neq O$ に矛盾する。ゆえに、背理法により $A$ は逆行列をもつ。
$A^3 + A = O$ の両辺に左から逆行列 $A^{-1}$ をかける。
$$A^2 + E = O$$
$$A^2 = -E$$
さらに両辺に左から $A^{-1}$ をかける。
$$A = -A^{-1}$$
両辺に $-1$ をかけることで、$A^{-1} = -A$ となることが示された。
解法2
(1) 与式 $A^2 - xA + yE = O$ より、$A^2 = xA - yE$ である。両辺の成分を計算して比較する。
$$A^2 = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a^2+bc & ab+bd \\ ac+cd & bc+d^2 \end{pmatrix}$$
$$xA - yE = \begin{pmatrix} xa-y & xb \\ xc & xd-y \end{pmatrix}$$
各成分を比較すると、次の4つの等式が得られる。
$$\begin{cases} a^2+bc = xa-y & \cdots \text{①} \\ b(a+d) = xb & \cdots \text{②} \\ c(a+d) = xc & \cdots \text{③} \\ bc+d^2 = xd-y & \cdots \text{④} \end{cases}$$
条件 $A \neq kE$ より、「$b=0$ かつ $c=0$ かつ $a=d$」ではない。以下の3つの場合に分ける。
(i) $b \neq 0$ のとき ②より両辺を $b$ で割って $x = a+d$ となる。
(ii) $c \neq 0$ のとき ③より両辺を $c$ で割って $x = a+d$ となる。
(iii) $b=c=0$ かつ $a \neq d$ のとき ①、④はそれぞれ $a^2 = xa-y$、$d^2 = xd-y$ となる。辺々引くと次のようになる。
$$a^2 - d^2 = x(a-d)$$
$$(a-d)(a+d) = x(a-d)$$
$a \neq d$ であるから両辺を $a-d$ で割って、$x = a+d$ となる。
いずれの場合も $x = a+d$ となる。これを①に代入して $y$ を求める。
$$a^2+bc = (a+d)a - y$$
$$y = a^2 + ad - a^2 - bc = ad - bc$$
(2) もし $A = kE$ ($k$ は実数) であると仮定すると、条件式 $A^3 + A = O$ は次のようになる。
$$(k^3 + k)E = O$$
$$k(k^2 + 1)E = O$$
$E \neq O$ かつ $k$ は実数であるから、$k^2+1 \neq 0$ より $k=0$ となる。このとき $A = O$ となるが、これは条件 $A \neq O$ に矛盾する。よって、$A \neq kE$ である。
したがって、(1) の結果が適用でき、$x = a+d, \ y = ad-bc$ として $A^2 - xA + yE = O$ が成り立つ。
$$A^2 = xA - yE$$
両辺に $A$ をかけて次数を下げる。
$$A^3 = xA^2 - yA = x(xA - yE) - yA = (x^2 - y)A - xyE$$
これを $A^3 + A = O$ に代入する。
$$(x^2 - y + 1)A - xyE = O$$
$$(x^2 - y + 1)A = xyE$$
$A \neq kE$ より、両辺の係数はともに $0$ でなければならない。
$$\begin{cases} x^2 - y + 1 = 0 & \cdots \text{⑤} \\ xy = 0 & \cdots \text{⑥} \end{cases}$$
⑥より $x=0$ または $y=0$ である。
(ア) $y=0$ のとき ⑤に代入すると $x^2 + 1 = 0$ となるが、$x = a+d$ は実数であるためこれを満たす実数 $x$ は存在しない。
(イ) $x=0$ のとき ⑤に代入すると $-y + 1 = 0$ より $y = 1$ となる。
したがって、$y = ad-bc = 1 \neq 0$ となり、行列式が $0$ でないため $A$ は逆行列をもつ。
$A^3 + A = O$ より $A(A^2 + E) = O$ である。両辺に左から $A^{-1}$ をかける。
$$A^2 + E = O$$
さらに左から $A^{-1}$ をかける。
$$A + A^{-1} = O$$
ゆえに、$A^{-1} = -A$ となることが示された。
解説
2次正方行列の問題において、ケーリー・ハミルトンの定理と与えられた等式の関係性を問う典型問題です。
(1) では「$A$ が単位行列の定数倍ではない」という条件から、行列の1次独立性を用いて係数を決定する論法が重要です。解法2のように成分計算に持ち込んでも解けますが、場合分けが必要になるため、解法1の論証をマスターしておくのが得策です。
(2) では逆行列の存在証明が山場になります。「逆行列が存在しないと仮定して矛盾を導く(背理法)」または「行列式 $\Delta \neq 0$ を直接示す」のいずれかを選択します。逆行列の存在さえ言及できれば、あとは条件式に $A^{-1}$ を複数回乗じるだけで結論に至ります。不用意に「$A^3 + A = O \iff A(A^2+E) = O$ だから $A=O$ または $A^2+E=O$」としてしまうと論理の飛躍(零因子への配慮不足)となるため注意が必要です。
答え
(1) $x = a+d, \quad y = ad-bc$
(2) 解法に記載の通り、背理法などを用いて $A$ が逆行列をもつことを示し、条件式の両辺に $A^{-1}$ をかけることで $A^{-1} = -A$ を導いた。
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