東北大学 1990年 文系 第3問 解説

方針・初手
この行列
$$ T=\begin{pmatrix} a & -b\ b & a \end{pmatrix} $$
は、ベクトル $(x,y)^T$ を $(ax-by,\ bx+ay)^T$ に送る行列である。まず長さがどう変化するかを直接計算する。
また、${T^n\mid n=0,1,2,\dots}$ が有限なら、異なるべきが一致するので、$T$ の可逆性を使って $T^k=E$ を導ける。そこから $\det T=a^2+b^2$ を調べれば、$T$ が回転行列であることが分かる。
最後は「要素がちょうど $2$ 個」であることを、$T\neq E$ かつ $T^2=E$ と読み替えて解く。
解法1
(1)
$\vec v=(x,y)^T\ (\neq \vec 0)$ とおくと、
$$ T\vec v= \begin{pmatrix} a & -b\ b & a \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x\ y \end{pmatrix} ============= \begin{pmatrix} ax-by\ bx+ay \end{pmatrix} $$
である。したがって、
$$ |T\vec v|^2 =(ax-by)^2+(bx+ay)^2 $$
$$ = a^2x^2-2abxy+b^2y^2+b^2x^2+2abxy+a^2y^2 $$
$$ =(a^2+b^2)(x^2+y^2) =(a^2+b^2)|\vec v|^2 $$
となる。$\vec v\neq \vec 0$ なので $|\vec v|>0$ であり、
$$ \frac{|T\vec v|}{|\vec v|} =\sqrt{a^2+b^2} $$
を得る。
(2)
${T^n\mid n=0,1,2,\dots}$ が有限集合であるとする。このとき、ある整数 $m>n\geqq 0$ が存在して
$$ T^m=T^n $$
となる。
ここで
$$ \det T=a^2+b^2 $$
であり、$(a,b)\neq (0,0)$ だから $a^2+b^2>0$ である。よって $T$ は可逆である。
したがって、上の等式の両辺に $T^{-n}$ を掛けると、
$$ T^{m-n}=E $$
を得る。$k=m-n\ (>0)$ とおけば、
$$ T^k=E $$
である。両辺の行列式をとると、
$$ (\det T)^k=\det E=1 $$
すなわち
$$ (a^2+b^2)^k=1 $$
となる。しかも $a^2+b^2>0$ であるから、
$$ a^2+b^2=1 $$
でなければならない。
よって、ある実数 $\theta$ が存在して
$$ a=\cos\theta,\qquad b=\sin\theta $$
と書ける。したがって、
$$ T= \begin{pmatrix} \cos\theta & -\sin\theta\\ \sin\theta & \cos\theta \end{pmatrix} $$
となる。これは角 $\theta$ の回転を表す行列である。
以上より、$T$ は回転行列である。
(3)
${T^n\mid n=0,1,2,\dots}$ がちょうど $2$ 個の要素からなるとする。$T^0=E$ は必ず含まれるから、集合は
$$ {E,\ T} $$
であり、特に $T\neq E$ である。
このとき $T^2$ もこの集合の要素であるから、
$$ T^2=E \quad \text{または} \quad T^2=T $$
である。
もし $T^2=T$ なら、
$$ T(T-E)=O $$
となる。$T$ は可逆なので $T-E=O$、すなわち $T=E$ となって矛盾する。したがって、
$$ T^2=E $$
でなければならない。
そこで $T^2$ を計算すると、
$$ T^2= \begin{pmatrix} a & -b\ b & a \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a & -b\ b & a \end{pmatrix} ============= \begin{pmatrix} a^2-b^2 & -2ab\ 2ab & a^2-b^2 \end{pmatrix} $$
である。これが $E$ に等しいので、
$$ a^2-b^2=1,\qquad 2ab=0 $$
を得る。
$2ab=0$ より、(i) $a=0$ または (ii) $b=0$ である。
(i)
$a=0$ のとき
$$ a^2-b^2=1 $$
は
$$ -b^2=1 $$
となり不可能である。
(ii)
$b=0$ のとき
$$ a^2=1 $$
より $a=\pm 1$ である。しかし $a=1,\ b=0$ なら $T=E$ となり、集合の要素数は $1$ 個になってしまう。したがって除く。
よって、
$$ a=-1,\qquad b=0 $$
である。
解説
この行列は、複素数 $a+bi$ による掛け算に対応する形をしている。したがって、長さは $|a+bi|=\sqrt{a^2+b^2}$ 倍され、向きは回転する。
(2) の本質は、「べきが有限個しか現れない」なら、ある正整数 $k$ について $T^k=E$ になることである。すると行列式にも有限位数の条件がかかり、$\det T=a^2+b^2=1$ が従う。これで $T$ が回転行列の形に落ちる。
(3) では「要素数が $2$ 個」という条件を、単に $T\neq E$ かつ $T^2=E$ と言い換えればよい。ここを整理できるかどうかがポイントである。
答え
(1)
$$ \frac{|T\vec v|}{|\vec v|}=\sqrt{a^2+b^2} $$
(2)
${T^n\mid n=0,1,2,\dots}$ が有限集合なら
$$ a^2+b^2=1 $$
となるので、
$$ T= \begin{pmatrix} \cos\theta & -\sin\theta\ \sin\theta & \cos\theta \end{pmatrix} $$
と表され、$T$ は回転行列である。
(3)
$$ (a,b)=(-1,0) $$
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