東京工業大学 2013年 理系 第2問 解説

方針・初手
(1) については、2つの行列 $A, B$ の成分を文字でおき、行列の積 $AB$ を計算したうえで、定義に従って $\Delta(AB)$ を展開し、それが $\Delta(A)\Delta(B)$ と等しくなることを示す。
(2) については、まず $A^5 = E$ の両辺の $\Delta$ をとり、(1) の性質を利用して $x = \Delta(A)$ の値を求める。次に、ケーリー・ハミルトンの定理から得られる関係式 $A^2 - t(A)A + \Delta(A)E = O$ を用い、$A^5$ の次数を下げて $A$ の1次式で表す。最終的に $A = kE$ の形となる場合とそうでない場合とで場合分けを行い、$y = t(A)$ の値を定める。
解法1
(1)
2次の正方行列 $B$ を $B = \begin{pmatrix} p & q \\ r & s \end{pmatrix}$ とおく。
行列の積 $AB$ は次のように計算できる。
$$ AB = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \begin{pmatrix} p & q \\ r & s \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} ap+br & aq+bs \\ cp+dr & cq+ds \end{pmatrix} $$
定義に従って $\Delta(AB)$ を計算する。
$$ \begin{aligned} \Delta(AB) &= (ap+br)(cq+ds) - (aq+bs)(cp+dr) \\ &= (acpq + adps + bcrq + bdrs) - (acpq + adqr + bcps + bdrs) \\ &= adps + bcrq - adqr - bcps \\ &= ad(ps - qr) - bc(ps - qr) \\ &= (ad - bc)(ps - qr) \end{aligned} $$
ここで、$\Delta(A) = ad - bc$、$\Delta(B) = ps - qr$ であるから、次が成り立つ。
$$ \Delta(AB) = \Delta(A)\Delta(B) $$
(2)
(1) の結果より、2次の正方行列 $X, Y$ について $\Delta(XY) = \Delta(X)\Delta(Y)$ が成り立つので、帰納的に $\Delta(A^n) = (\Delta(A))^n$ が成り立つ。
$A^5 = E$ の両辺の $\Delta$ をとると、次が得られる。
$$ \Delta(A^5) = \Delta(E) $$
$$ (\Delta(A))^5 = 1 \cdot 1 - 0 \cdot 0 = 1 $$
$A$ の成分はすべて実数であるから、$x = \Delta(A) = ad - bc$ も実数である。実数の範囲で $x^5 = 1$ を解くと、次のように定まる。
$$ x = 1 $$
次に、ケーリー・ハミルトンの定理より、行列 $A$ は次の方程式を満たす。
$$ A^2 - (a+d)A + (ad-bc)E = O $$
定義より $t(A) = a+d = y$、$\Delta(A) = ad-bc = x = 1$ であるから、上の式は次のように書き換えられる。
$$ A^2 - yA + E = O $$
$$ A^2 = yA - E $$
これを用いて $A^n$ の次数を下げ、$A^5$ を $A$ の1次式で表す。
$$ \begin{aligned} A^3 &= A^2 \cdot A = (yA - E)A = yA^2 - A \\ &= y(yA - E) - A \\ &= (y^2 - 1)A - yE \end{aligned} $$
$$ \begin{aligned} A^4 &= A^3 \cdot A = \{(y^2 - 1)A - yE\}A = (y^2 - 1)A^2 - yA \\ &= (y^2 - 1)(yA - E) - yA \\ &= (y^3 - y)A - (y^2 - 1)E - yA \\ &= (y^3 - 2y)A - (y^2 - 1)E \end{aligned} $$
$$ \begin{aligned} A^5 &= A^4 \cdot A = \{(y^3 - 2y)A - (y^2 - 1)E\}A = (y^3 - 2y)A^2 - (y^2 - 1)A \\ &= (y^3 - 2y)(yA - E) - (y^2 - 1)A \\ &= (y^4 - 2y^2)A - (y^3 - 2y)E - (y^2 - 1)A \\ &= (y^4 - 3y^2 + 1)A - (y^3 - 2y)E \end{aligned} $$
条件より $A^5 = E$ であるから、次が成り立つ。
$$ (y^4 - 3y^2 + 1)A - (y^3 - 2y)E = E $$
$$ (y^4 - 3y^2 + 1)A - (y^3 - 2y + 1)E = O \quad \cdots (*) $$
ここで、$A$ が単位行列の定数倍であるか否かで場合分けを行う。
(i)
$A = kE$ ($k$ は実数)のとき
$A^5 = E$ より $k^5 E = E$ となるため、$k^5 = 1$ を得る。$k$ は実数であるから $k=1$ となり、$A = E$ である。
このとき、$y = t(E) = 1 + 1 = 2$ となる。 これは $x=1$ を満たし、条件に適合する。
(ii)
$A \neq kE$ ($k$ は実数)のとき
等式 $pA + qE = O$ において $p \neq 0$ と仮定すると、$A = -\frac{q}{p}E$ となり $A = kE$ の形になるため矛盾する。よって $p=0$ であり、連動して $q=0$ となる。 したがって、式 $(*)$ において係数がともに $0$ となるため、以下の連立方程式が成り立つ。
$$ \begin{cases} y^4 - 3y^2 + 1 = 0 \\ y^3 - 2y + 1 = 0 \end{cases} $$
第2式を因数分解する。
$$ (y - 1)(y^2 + y - 1) = 0 $$
これにより、$y = 1, \frac{-1 \pm \sqrt{5}}{2}$ を得る。
$y = 1$ のとき、第1式に代入すると $1^4 - 3 \cdot 1^2 + 1 = -1 \neq 0$ となり、条件を満たさない。
$y = \frac{-1 \pm \sqrt{5}}{2}$ のとき、$y^2 + y - 1 = 0$ すなわち $y^2 = -y + 1$ が成り立つ。このとき第1式を評価する。
$$ \begin{aligned} y^4 - 3y^2 + 1 &= (y^2)^2 - 3y^2 + 1 \\ &= (-y + 1)^2 - 3(-y + 1) + 1 \\ &= y^2 - 2y + 1 + 3y - 3 + 1 \\ &= y^2 + y - 1 \\ &= 0 \end{aligned} $$
したがって、第1式も満たすため適する。なお、この条件を満たす実成分の行列 $A$ は存在する(例えば $A = \begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & y \end{pmatrix}$ など)。
(i), (ii) より、求める値は $y = 2, \frac{-1 \pm \sqrt{5}}{2}$ である。
解説
行列式の乗法定理 $\Delta(AB) = \Delta(A)\Delta(B)$ とケーリー・ハミルトンの定理 $A^2 - t(A)A + \Delta(A)E = O$ を組み合わせる、2次正方行列の典型問題である。
高次式の次数下げを行う際、等式 $pA + qE = O$ から直ちに $p=0, q=0$ としてはいけない。$A = kE$ となる例外的なケースを分けて考察する必要がある。本問では $A=E$ の場合が忘れやすい解となるため、場合分けの論理を正確に記述することが求められる。
答え
(1)
$$ \Delta(AB)=\Delta(A)\Delta(B) $$
(2)
$x = 1, y = 2, \frac{-1 \pm \sqrt{5}}{2}$
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