トップ 東京大学 1996年 理系 第3問

東京大学 1996年 理系 第3問 解説

数学C/空間ベクトル数学1/立体図形テーマ/空間図形テーマ/不等式の証明
東京大学 1996年 理系 第3問 解説

方針・初手

「点 $P$ から $A_k$ が見える」という視覚的な条件を、ベクトルを用いて数式に翻訳することが第一歩である。 点 $P$ から $A_k$ に引いた線分が球面 $S$ の内部を通らない条件は、接平面を考えるとベクトルの内積に関する不等式に帰着できる。 次に、中心 $O$ を原点とする座標系を設定し、「少なくとも $m$ 点が見える」という条件を、内積がとりうる複数の値のうち、$m$ 番目に大きいものの最小値が条件を満たすこと、と言い換えて処理する。

解法1

空間に点 $O$ を原点とする直交座標系を定める。 球面 $S$ の半径は $r$ であるから、$S$ 上の点 $P$ の位置ベクトルを $\vec{p} = (x, y, z)$ とすると、以下が成り立つ。

$$ x^2 + y^2 + z^2 = r^2 $$

また、一辺の長さが $l$ の立方体の頂点 $A_k \ (k=1, 2, \dots, 8)$ の位置ベクトルを $\vec{a_k}$ とすると、各成分は $\pm \frac{l}{2}$ である。よって以下が成り立つ。

$$ |\vec{a_k}|^2 = \left(\frac{l}{2}\right)^2 + \left(\frac{l}{2}\right)^2 + \left(\frac{l}{2}\right)^2 = \frac{3}{4}l^2 $$

問題の条件「$A_k$ が $S$ の外側にある」より、$|\vec{a_k}| > r$ であるから、まず大前提として以下の不等式が必要である。

$$ r < \frac{\sqrt{3}}{2}l $$

次に、「線分 $PA_k$ と $S$ との共有点が $P$ のみである」条件を求める。 線分 $PA_k$ 上の点 $Q$ の位置ベクトルを $\vec{q}$ とすると、実数 $t \ (0 \le t \le 1)$ を用いて $\vec{q} = (1-t)\vec{p} + t\vec{a_k}$ と表せる。 共有点が $P \ (t=0)$ のみであるためには、$0 < t \le 1$ を満たすすべての $t$ において $|\vec{q}| > r$ となることが必要十分である。

$$ \begin{aligned} |\vec{q}|^2 &= |(1-t)\vec{p} + t\vec{a_k}|^2 \\ &= (1-t)^2|\vec{p}|^2 + 2t(1-t)\vec{p} \cdot \vec{a_k} + t^2|\vec{a_k}|^2 \\ &= (1-2t+t^2)r^2 + 2t\vec{p} \cdot \vec{a_k} - 2t^2\vec{p} \cdot \vec{a_k} + t^2|\vec{a_k}|^2 \\ &= r^2 + 2t(\vec{p} \cdot \vec{a_k} - r^2) + t^2(r^2 - 2\vec{p} \cdot \vec{a_k} + |\vec{a_k}|^2) \\ &= r^2 + 2t(\vec{p} \cdot \vec{a_k} - r^2) + t^2|\vec{p} - \vec{a_k}|^2 \end{aligned} $$

これが $0 < t \le 1$ で常に $r^2$ より大きくなるため、両辺から $r^2$ を引き $t \ (>0)$ で割ることで、以下の条件と同値になる。

$$ 2(\vec{p} \cdot \vec{a_k} - r^2) + t|\vec{p} - \vec{a_k}|^2 > 0 $$

これが $t \to +0$ でも成り立つためには、$\vec{p} \cdot \vec{a_k} - r^2 \ge 0$ が必要である。逆にこれが成り立てば、$P \neq A_k$ より $|\vec{p} - \vec{a_k}|^2 > 0$ であるから、上式は $0 < t \le 1$ において常に正となり満たされる。 したがって、$P$ から $A_k$ が見える条件は、大前提のもとで以下が成り立つことである。

$$ \vec{p} \cdot \vec{a_k} \ge r^2 $$

ここで、$\vec{a_k} = \left(\pm \frac{l}{2}, \pm \frac{l}{2}, \pm \frac{l}{2}\right)$ であるから、8つの頂点に対する内積の値は以下の集合となる。

$$ \left\{ \frac{l}{2}(\pm x \pm y \pm z) \right\} \quad (\text{複号任意}) $$

(1) 少なくとも1点が見える条件は、8つの内積のうち最大のものが $r^2$ 以上になることである。 最大値は $\frac{l}{2}(|x| + |y| + |z|)$ と表せる。これがすべての $P$ で $r^2$ 以上となるためには、球面 $x^2 + y^2 + z^2 = r^2$ 上における $|x| + |y| + |z|$ の最小値に対し、それが $\frac{2r^2}{l}$ 以上となればよい。

$$ (|x| + |y| + |z|)^2 = x^2 + y^2 + z^2 + 2(|xy| + |yz| + |zx|) = r^2 + 2(|xy| + |yz| + |zx|) \ge r^2 $$

等号は $|xy| = |yz| = |zx| = 0$、すなわち $(x, y, z) = (\pm r, 0, 0), (0, \pm r, 0), (0, 0, \pm r)$ のときに成立する。 よって、最小値は $r$ であり、求める条件は以下となる。

$$ \frac{l}{2} r \ge r^2 \iff r \le \frac{l}{2} $$

$l, r$ は正であるから $0 < r \le \frac{l}{2}$ となる。このとき、大前提 $r < \frac{\sqrt{3}}{2}l$ は自動的に満たされる。

(2) 少なくとも2点が見える条件は、8つの内積のうち2番目に大きいものが常に $r^2$ 以上になることである。 対称性から、領域を $x \ge y \ge z \ge 0$ と限定して考えても一般性を失わない。 このとき、$\pm x \pm y \pm z$ の取りうる値を大きい順に並べると、最大は $x + y + z$ であり、次に大きいものは $x + y - z$ である。 したがって、領域 $x \ge y \ge z \ge 0$ かつ $x^2 + y^2 + z^2 = r^2$ における $x + y - z$ の最小値が $\frac{2r^2}{l}$ 以上となればよい。

最小値を求めるため、$(x+y-z)^2$ を評価する。

$$ \begin{aligned} 3(x+y-z)^2 - r^2 &= 3(x+y-z)^2 - (x^2+y^2+z^2) \\ &= 3(x^2+y^2+z^2+2xy-2yz-2zx) - (x^2+y^2+z^2) \\ &= 2x^2 + 2y^2 + 2z^2 + 6xy - 6yz - 6zx \\ &= 2z^2 - 6(x+y)z + 2x^2 + 2y^2 + 6xy \end{aligned} $$

これを $z$ の2次関数 $f(z)$ とみる。 $x=y=0$ のときは制約より $z=0$ となり $f(0) = 0 \ge 0$ である。 $x+y > 0$ のとき、放物線 $W = f(z)$ の軸は $z = \frac{3}{2}(x+y)$ である。 $x \ge y \ge z \ge 0$ より $x+y \ge 2y$ であるから、軸の位置について $\frac{3}{2}(x+y) \ge 3y > y$ が成り立つ。 したがって、区間 $0 \le z \le y$ において $f(z)$ は単調に減少する。よって $f(z) \ge f(y)$ である。

$$ \begin{aligned} f(y) &= 2y^2 - 6(x+y)y + 2x^2 + 2y^2 + 6xy \\ &= 2y^2 - 6xy - 6y^2 + 2x^2 + 2y^2 + 6xy \\ &= 2x^2 - 2y^2 \end{aligned} $$

$x \ge y$ であるから $2x^2 - 2y^2 \ge 0$ となり、$f(z) \ge 0$ が示された。 これにより $3(x+y-z)^2 \ge r^2$、すなわち $x+y-z \ge \frac{r}{\sqrt{3}}$ が成り立つ。 等号は、上記の評価で $z=y$ かつ $x=y$、つまり $x=y=z = \frac{r}{\sqrt{3}}$ のときに成立する。

よって、最小値は $\frac{r}{\sqrt{3}}$ であり、求める条件は以下となる。

$$ \frac{l}{2} \cdot \frac{r}{\sqrt{3}} \ge r^2 \iff r \le \frac{l}{2\sqrt{3}} $$

$l, r$ は正であるから $0 < r \le \frac{\sqrt{3}}{6}l$ となる。このときも大前提を満たす。

解説

「見える」という直感的な言葉を、数式に正確に落とし込めるかが問われている。球面と線分の交点条件として素直に立式し、$t$ の2次関数が特定の区間で条件を満たすように処理する手法が確実である。 (1)は各象限での最大値を考えれば容易だが、(2)の「2番目に大きい値」の最小化は差がつくポイントである。変数が3つある条件付き最小値問題において、$(x+y-z)^2$ を評価して $z$ の2次関数として平方完成(または単調性の確認)を行う手法は、鮮やかで計算量も少ない優れたアプローチである。

答え

(1)

$0 < r \le \frac{l}{2}$

(2)

$0 < r \le \frac{\sqrt{3}}{6}l$

自分の記録

ログインすると保存できます。

誤りを報告

解説の誤り、誤字、表示崩れに気づいた場合は送信してください。ログイン不要です。