東京大学 1986年 理系 第4問 解説

方針・初手
(1) は、独立に動く変数 $a, b, c$ から作られる $u = \frac{b}{a}, v = \frac{c}{a}$ の取りうる値の範囲を求める問題である。$b = au, c = av$ と変形し、$b, c$ の条件式に代入することで、$a$ だけの条件式に帰着させる「逆像法(存在条件の追求)」が有効である。実数 $a$ が存在するような $(u, v)$ の条件が求める領域となる。
(2) は、解の公式を用いて解 $z$ を $u, v$(あるいは $a, b, c$)で表し、その最大値・最小値を求める。まずは (1) で求めた $u, v$ の領域を用いて図形的に考察する方針を考える。さらに、元の変数 $a, b, c$ が互いに独立であることを活かし、各変数に対する単調性に着目すると見通しが良くなる。
解法1
(1)
$u = \frac{b}{a}, v = \frac{c}{a}$ より、$b = au, c = av$ である。 各変数のとりうる範囲の条件は以下の通りである。
$$ 0.9 \leqq a \leqq 1.1 $$
$$ 2.7 \leqq b \leqq 3.3 $$
$$ 4.5 \leqq c \leqq 5.4 $$
$b, c$ の不等式に $b = au, c = av$ を代入すると、
$$ 2.7 \leqq au \leqq 3.3 $$
$$ 4.5 \leqq av \leqq 5.4 $$
$a > 0$ であり、$b > 0, c > 0$ であることから $u > 0, v > 0$ は明らかである。 $a$ について解くと、
$$ \frac{2.7}{u} \leqq a \leqq \frac{3.3}{u} $$
$$ \frac{4.5}{v} \leqq a \leqq \frac{5.4}{v} $$
これらと $0.9 \leqq a \leqq 1.1$ を同時に満たす実数 $a$ が存在するための条件を求める。 それは、3つの下限の最大値が、3つの上限の最小値以下になることである。すなわち、
$$ \max\left(0.9, \frac{2.7}{u}, \frac{4.5}{v}\right) \leqq \min\left(1.1, \frac{3.3}{u}, \frac{5.4}{v}\right) $$
これが成り立つためには、左辺の3つの値がそれぞれ右辺の3つの値以下であればよい。 組み合わせは $3 \times 3 = 9$ 通りあるが、同じ文字同士の不等式($0.9 \leqq 1.1$ や $\frac{2.7}{u} \leqq \frac{3.3}{u}$ など)は自明に成り立つため、意味のある条件は以下の6つに絞られる。
(i)
$0.9 \leqq \frac{3.3}{u} \iff u \leqq \frac{3.3}{0.9} = \frac{11}{3}$
(ii)
$0.9 \leqq \frac{5.4}{v} \iff v \leqq \frac{5.4}{0.9} = 6$
(iii)
$\frac{2.7}{u} \leqq 1.1 \iff u \geqq \frac{2.7}{1.1} = \frac{27}{11}$
(iv)
$\frac{4.5}{v} \leqq 1.1 \iff v \geqq \frac{4.5}{1.1} = \frac{45}{11}$
(v)
$\frac{4.5}{v} \leqq \frac{3.3}{u} \iff v \geqq \frac{4.5}{3.3}u = \frac{15}{11}u$
(vi)
$\frac{2.7}{u} \leqq \frac{5.4}{v} \iff v \leqq \frac{5.4}{2.7}u = 2u$
以上をまとめると、点 $P(u, v)$ の動く範囲 $D$ は、以下の連立不等式で表される領域である。
$$ \begin{cases} \frac{27}{11} \leqq u \leqq \frac{11}{3} \\ \frac{45}{11} \leqq v \leqq 6 \\ \frac{15}{11}u \leqq v \leqq 2u \end{cases} $$
この領域は、以下の6点 $A \sim F$ を頂点とする六角形の周および内部である。
- $A \left(\frac{27}{11}, \frac{45}{11}\right)$ (直線 $u = \frac{27}{11}$ と $v = \frac{45}{11}$ の交点)
- $B \left(3, \frac{45}{11}\right)$ (直線 $v = \frac{45}{11}$ と $v = \frac{15}{11}u$ の交点)
- $C \left(\frac{11}{3}, 5\right)$ (直線 $v = \frac{15}{11}u$ と $u = \frac{11}{3}$ の交点)
- $D \left(\frac{11}{3}, 6\right)$ (直線 $u = \frac{11}{3}$ と $v = 6$ の交点)
- $E \left(3, 6\right)$ (直線 $v = 6$ と $v = 2u$ の交点)
- $F \left(\frac{27}{11}, \frac{54}{11}\right)$ (直線 $v = 2u$ と $u = \frac{27}{11}$ の交点)
(2)
二次方程式 $ax^2 - 2bx + c = 0$ を解くと、
$$ x = \frac{b \pm \sqrt{b^2 - ac}}{a} = \frac{b}{a} \pm \sqrt{\left(\frac{b}{a}\right)^2 - \frac{c}{a}} = u \pm \sqrt{u^2 - v} $$
領域 $D$ において $v \leqq 2u$ であり、また $u \geqq \frac{27}{11} > 2$ であるから、 $u^2 - v \geqq u^2 - 2u = u(u - 2) > 0$ となり、根号内は常に正である。したがって解は実数であり、大きい方の解 $z$ は次のように表される。
$$ z = u + \sqrt{u^2 - v} $$
$z$ の最大値と最小値を求める。 関数 $z$ は、$u$ を固定して考えると、$v$ について単調減少である。 したがって、$z$ が最大となるのは、各 $u$ において $v$ が最小となるときであり、$z$ が最小となるのは、各 $u$ において $v$ が最大となるときである。
[最大値について] 領域 $D$ の下端($v$ が最小となる境界)を調べる。
(ア)
$\frac{27}{11} \leqq u \leqq 3$ のとき 境界は $v = \frac{45}{11}$ である。このとき、 $z = u + \sqrt{u^2 - \frac{45}{11}}$ これは $u$ について単調増加であるから、$u = 3$ のとき最大となる。
(イ)
$3 \leqq u \leqq \frac{11}{3}$ のとき 境界は $v = \frac{15}{11}u$ である。このとき、 $z = u + \sqrt{u^2 - \frac{15}{11}u}$ 根号内の関数 $u^2 - \frac{15}{11}u$ の軸は $u = \frac{15}{22}$ であり、定義域において単調増加である。したがって $z$ 自身も $u$ について単調増加となり、$u = \frac{11}{3}$ のとき最大となる。
(ア)(イ)より、$z$ は $u = \frac{11}{3}, v = 5$ (点 $C$) のとき最大値をとる。
$$ z = \frac{11}{3} + \sqrt{\left(\frac{11}{3}\right)^2 - 5} = \frac{11}{3} + \sqrt{\frac{121 - 45}{9}} = \frac{11 + 2\sqrt{19}}{3} $$
[最小値について] 領域 $D$ の上端($v$ が最大となる境界)を調べる。
(ウ)
$\frac{27}{11} \leqq u \leqq 3$ のとき 境界は $v = 2u$ である。このとき、 $z = u + \sqrt{u^2 - 2u}$ 根号内の関数 $u^2 - 2u$ の軸は $u = 1$ であり、定義域において単調増加である。したがって $z$ は $u$ について単調増加となり、$u = \frac{27}{11}$ のとき最小となる。
(エ)
$3 \leqq u \leqq \frac{11}{3}$ のとき 境界は $v = 6$ である。このとき、 $z = u + \sqrt{u^2 - 6}$ これも $u$ について単調増加であり、$u = 3$ のとき最小となる。
(ウ)(エ)より、$z$ の最小値は (ウ) の区間の左端である $u = \frac{27}{11}, v = \frac{54}{11}$ (点 $F$) のときをとる。
$$ z = \frac{27}{11} + \sqrt{\left(\frac{27}{11}\right)^2 - \frac{54}{11}} = \frac{27}{11} + \frac{\sqrt{729 - 594}}{11} = \frac{27 + \sqrt{135}}{11} = \frac{27 + 3\sqrt{15}}{11} $$
解法2
(2のみ)
(1) の誘導を用いず、$a, b, c$ の関数として直接 $z$ の増減を調べる。 大きい方の解 $z$ は次のように表される。
$$ z = \frac{b + \sqrt{b^2 - ac}}{a} $$
条件より $a, b, c$ はいずれも正の実数であり、それぞれ独立に動く。 ここで、各変数が変化したときの $z$ の単調性を考える。
(i) $c$ の変化について $c$ が増加すると、根号内の $b^2 - ac$ は減少する。他の変数は固定されているため、分子全体が減少し、$z$ は単調減少する。
(ii) $b$ の変化について $b$ が増加すると、$b$ と $\sqrt{b^2 - ac}$ はともに増加する。したがって分子全体が増加し、$z$ は単調増加する。
(iii) $a$ の変化について $a$ が増加すると、分母 $a$ が増加する。同時に、根号内の $b^2 - ac$ は減少するため、分子全体は減少する。正の数において分子が減少し分母が増加するため、$z$ は単調減少する。
以上より、$a, b, c$ が指定された範囲を独立に動くとき、$z$ の最大・最小を与える条件は一意に定まる。
[最大値] $z$ が最大となるのは、$a$ が最小、$b$ が最大、$c$ が最小のときである。 すなわち、$(a, b, c) = (0.9, 3.3, 4.5)$ のときである。これを代入すると、
$$ z = \frac{3.3 + \sqrt{3.3^2 - 0.9 \times 4.5}}{0.9} = \frac{3.3 + \sqrt{10.89 - 4.05}}{0.9} = \frac{3.3 + \sqrt{6.84}}{0.9} = \frac{33 + \sqrt{684}}{9} = \frac{11 + 2\sqrt{19}}{3} $$
[最小値] $z$ が最小となるのは、$a$ が最大、$b$ が最小、$c$ が最大のときである。 すなわち、$(a, b, c) = (1.1, 2.7, 5.4)$ のときである。これを代入すると、
$$ z = \frac{2.7 + \sqrt{2.7^2 - 1.1 \times 5.4}}{1.1} = \frac{2.7 + \sqrt{7.29 - 5.94}}{1.1} = \frac{2.7 + \sqrt{1.35}}{1.1} = \frac{27 + \sqrt{135}}{11} = \frac{27 + 3\sqrt{15}}{11} $$
解説
(1) は、複数の変数が絡む領域図示の典型問題である。消去したい変数 $a$ について不等式を解き、「$a$ が存在する条件」に言い換える処理が確実である。(2) は (1) の誘導に乗るのが標準的だが、$u$ と $v$ の式にした後、片方の変数を固定して単調性を見るというステップが必要になる。 一方で、解法2のように、元の式のまま各変数についての単調性を吟味すると、微分を用いずとも極めて鮮やかに結論を得ることができる。多変数の最大・最小問題において「各変数が独立に動く」という条件が揃っている場合、一文字ずつの挙動を観察する手法は非常に強力である。
答え
(1)
点 $P(u, v)$ の動く範囲は、以下の不等式が表す領域である。
$$ \begin{cases} \frac{27}{11} \leqq u \leqq \frac{11}{3} \\ \frac{45}{11} \leqq v \leqq 6 \\ \frac{15}{11}u \leqq v \leqq 2u \end{cases} $$
図示すると、頂点 $\left(\frac{27}{11}, \frac{45}{11}\right)$, $\left(3, \frac{45}{11}\right)$, $\left(\frac{11}{3}, 5\right)$, $\left(\frac{11}{3}, 6\right)$, $\left(3, 6\right)$, $\left(\frac{27}{11}, \frac{54}{11}\right)$ を順に結んだ六角形の周および内部となる。
(2)
最大値 $\frac{11 + 2\sqrt{19}}{3}$
最小値 $\frac{27 + 3\sqrt{15}}{11}$
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